笹子トンネルのボルトは劣化していたのか

 
昨日のエントリーの続きです。最近の報道では、吊り金具が原因ではないかという話になっているようなので、これについて検討してみたいと思います。

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12月3日、中日本高速道路は、笹子トンネルの天井崩落事故で、崩落した天井板を吊る金具をトンネル上部のコンクリートに固定するボルトが、抜け落ちていたと発表した。

吊り金具は、天井板の奥行きと同じ1.2m間隔で設けられ、計5本を1枚の鋼材に取り付け、長さ230ミリ、直径16ミリのボルト16本で、トンネル最上部のコンクリートに打ち込まれている。そして、それらを更に接着剤で固定している。また天井板の両端は、トンネル内壁に受け台を設けて固定する構造になっている。

崩落現場では、天井板両端は受け台に乗ったまま、真ん中の部分は丁度V字型に崩落していて、現場には、吊り金具が複数のボルトごと抜け落ちているのが発見されたとしている。

天井板の大きさは、横5m、奥行き1.2mで、重さは約1.1から1.4トン。トンネルの軌間は10mほどだから、天井板2枚つかって、トンネル上部を覆うことになる。その2枚が1本の釣り金具とトンネル側壁に設けられた金具で固定されていたから、単純計算で、最大2.8トンの荷重が一本の吊り金具に掛かっていたことになる。それも長年に渡って。

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なぜそんな天井板が必要だったかというと、換気用の通路を設ける為。

笹子トンネルは「横流換気方式」と呼ばれる換気方法が採用されていた。これは、吊り金具同士の間に隔壁を設け、天井板と隔壁によって、トンネル上部に左右2本の通路状の空間を作り、それを換気用のダクトとするもので、片方はトンネル内の車の排ガスを換気機を使って排出する排気用として使用し、もう片方は外部の新鮮な空気を取り入れる送気用として利用する。

車道からの排ガス等は片方の排気ダクトから外部に排出し、外部からの新鮮な空気は送気ダクトを通じて、トンネル内壁伝いに車道まで導かれる。

ただこの換気方式は、高性能なジェットファンの登場によって、現在のトンネルでは殆ど見られなくなった。今では、トンネル途中に設けられた縦穴から排気する「縦流換気方式」が主流となっている。

「縦流換気方式」は、「横流換気方式」とは違って、換気用のダクトはない。トンネルの出入口や途中の縦穴に送風機を置き、トンネル内部の空気は、車両の進行沿って流れ、途中の縦穴から排出又は送気される。排気ダクトが不要になるため、トンネル断面を小さくすることができ、建設コストが安くなる半面、排気効率は交通量や自然風などによって変動を受けるという弱点がある。

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さて、笹子トンネルで使われている横流換気についてなのだけれど、その構造上、トンネル内のほぼすべての箇所で換気を行うことが出来る。その代わり、トンネルの端から橋まで、換気する空気を送り込まなければならず、空気は送風機によって、圧をかけて送りこまれ、排気も圧によって抜かれる。つまり、トンネル天井裏の換気ダクトには常に大量の空気が流れ続ける状態となっている。

そして、その天井板の下では、車両が通行しているから、そこにも空気の流れが発生している。つまり天井板の上下で空気の流れがあって、丁度、天井板は飛行機の翼のように上下に風を受ける状態になる。このとき、上下の空気の流れの加減による圧力差によって、天井板は、微妙に浮き上がったり、沈み込んだりする。

結果、天井板は震えて脈動することになるのだけれど、このとき、天井板が軽かったり、柔らかい材質だったりすると、下からの圧力で天井板が大きく波打って浮き上がってしまい、排気ダクトの役目を果たさなくなる。従って、天井板は浮き上がらない程度に重く、かつ剛性と耐火性に優れた素材を使用することが望ましい。

おそらく、笹子トンネル建設当時は、それに使える素材がコンクリートくらいしかなかったのではないかと思われる。

だけど、それでも天井板は細かいレベルではやっぱり振動していて、その振動によるストレスは吊り金具にかかる。この振動ストレスは、当然吊り金具の劣化を加速することになる。

笹子トンネルでは、これまで一度も吊り金具を取り換えたことがなかったというから、この振動ストレス状態が35年も続いていたことになる。だけど、それだけで、ボルトが切れるほど劣化するのかどうかについては、筆者にはよく分からない。更なる調査を待ちたいと思う。

中日本高速道路によると、笹子トンネルと天井板の構造が同じトンネルは、東日本、西日本高速道路管内と合わせ、笹子トンネル以外に11箇所(全国では49箇所)あるそうで、それは次のとおり。
中央自動者道:
  恵那山トンネル 下り線 (1975年開通 当初は対面通行)
東名高速道路:
  都夫良野トンネル 下り線(1969年開通) *1現下り線右ルート・左ルート
新東名高速道路:
  富士川トンネル 上り線 (2004年竣工 2012年開通)
圏央道(首都圏中央連絡自動車道):
  菅生トンネル 上下線  (2002年開通)
第二京阪道路:
  京田辺トンネル 上下線 (2003年開通)
  長尾東トンネル 上下線 (2003年開通)
  長尾台トンネルの一部  (2003年開通)
山陽自動車道:
  志和トンネル  上り線  (1987年開通)
  安芸トンネル  上り線  (1988年開通)
  武田山トンネル 上り線  (1988年開通)
関門国道トンネル      (1937年掘削開始、1958年開通)
中日本高速道路は、笹子トンネルと合わせ、恵那山、都夫良野、富士川の計4トンネルを緊急点検するとしている。この中で富士川トンネルは、比較的最近開通したものだから、劣化もそれほどではないかもしれないけれど、残りの3つのトンネルは1960~70年代のもの。笹子と同様に、吊り金具その他に劣化が起きている可能性は否定できない。

上記の11トンネルの中で最も古いのは、1958年開通の関門国道トンネルなのだけれど、関門トンネルは、1979年から、大体10年間隔で大規模補修を行っていて、1988年と2009年にかけて、天井板及び吊り金具の補修工事をしている。

その時、既存の吊り金具に腐食や損傷が多数みられたことから、再使用を断念し耐腐食性の高い、ステンレス製の吊り金具に交換している。

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上図がその時の損傷していた吊り棒の様子なのだれど、いくら鉄製の部材とて、長年の負荷には耐えきれないものであることがよく分かる。関門トンネルはこの時の補修工事で、天井板をより軽い「中空PCコンクリート板」に変更している。

では、今回の笹子トンネル崩落も同じかどうかについては一概に言い切れない。もしも、笹子トンネルの吊り棒が、この図のように、くの字に折れ曲がったり、切断したりしていれば、いくら目視でも、前回9月の検査で発見できたと思われるから。

今回の崩落は、吊り金具を固定する側のボルトが抜け落ちたと言われている。だから、トンネル躯体側の変形、又は天井内壁部のコンクリートやボルト部分の劣化損傷具合を入念に検査する必要があるのではないかと思う。

特に、ボルトが劣化して切れたのか、金具を打ちつけたトンネル内壁コンクリートから劣化していて、コンクリートごと剥落したのとでは、復旧までの対応は全然違う筈。もしも、トンネルが山体からの岩盤圧力で変形し、内壁コンクリートがダメージを受けていたとしたら、その補強・復旧には多くの時間を必要とするだろう。

中日本高速道路は、緊急点検している笹子トンネル下り線側について、早ければ6~7日で復旧する見通しとしているけれど、実際に、ひとつひとつの釣り金具を打音検査して回ることを考えると、6~7日程度では恐らく、点検するだけで精一杯で、そのほかの補強工事等を行う余裕はないのではないかと思う。

2007年7月、新潟県の中越地震があった後、土木学会トンネル工学委員会は、山岳トンネルの被害が発生した北陸自動車道の12トンネル、JR信越本線の8トンネルについて調査している。

調査対象のトンネルは、すべて矢板工法によって作られていて、高速道路トンネルは1980年代前半、鉄道トンネルは1960年代後半に竣工しているのだけれど、被害のあったトンネルには、天端部及び側壁のせん断ひび割れや覆工コンクリートの剥離などがあったと報告されている。

これら被害を受けたトンネルは復旧工事において、ロックボルトによる縫付けや、断面修復、ひび割れへの注入等の補修を行っている。

できうるならば、笹子トンネルについても、内壁コンクリートの剥離やせん断ひび割れの有無も含めて慎重に検査してほしいと思うし、特に、矢板工法でつくっている古いトンネルは、やはり、何らかの補強工事をすることを検討していただきたいと思う。




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この記事へのコメント

  • 洗足池

    火災時を考慮して上部に排気口を設けたというのであれば納得です。
    然し火災の発生を考えたらケミカルアンカーは使用すべきではない
    と思います。ケミカルアンカーの成分は骨材、樹脂接着剤、硬化剤
    です。樹脂は熱に弱く火災時にはボルトが簡単に脱落します。

    ケミカルアンカーのホームページに装着後の引っ張り試験の動画が
    あります。ボルトはコンクリート内部から抜けません。露出部のネジ
    部から破断しています。是非、熱を加えてテストし何度で脱落するか
    みたいものです。事故現場で何本ものアンカーボルトが脱落している
    のをみても火災の熱で樹脂のせん断抵抗力が失われたものと思います。
    2015年08月10日 15:23
  • 日比野

    sdiさん、ス内パーさん、どうもです。

    ボルト長さは23cmしかありませんから、トンネルの巻厚(55-90cm)からみても貫通することはちょっと考えにくいです。巻厚が設計値の半分しかないとしてもです。

    調査では、抜け落ちたアンカーボルトに目立った腐食もなく、錆も大したことがなかったそうですし、コンクリの剥離も見られなかったようで、接着剤が劣化したのでは、と言われているようですが、もう少し調査を待たないと何ともいえないですね。
    2015年08月10日 15:23
  • 神室院武蔵坊瑞泉

    問題はボルトの固定方法にあります。接着剤で固定する方法では、いずれ脱落の可能性が著しく高まり、類似の崩落事故となるでしょう。早急に強化工事を行うには「クサビ型ボルト」に交換すべきです。詳しくは拙者のブログに。
    http://10184033.at.webry.info/201212/article_1.html
    2015年08月10日 15:23
  • ス内パー

    >>どうして路面の下の空間を排気に使用しなかったのでしょう。

    排煙効率が悪いからでは。
    排ガスは発生直後なら空気より軽いもののだいたい空気と同じ比重なので上だろうが下だろうがそこまで関係ありませんが。

    >>固定ボルトがセメント内壁を貫通した場合、貫通先が破砕帯のような状態だったら開けた穴から湧水の浸出もありえるではないでしょうか?

    んっと釣り金具の固定ボルトが崩落事故の際に周囲のトンネルのセメントを破壊して土が露出するという話ですかね?
    そうなったなら漏水は有り得ますがそうなる可能性は低いんじゃないですかね?
    以前壁の薄さを指摘されて補強工事を済ませているという情報もありますので『壁に張ったカレンダーをはがしたら壁も剥がれ落ちた』クラスの手抜きをしているとも思いがたいのです。
    まぁ続報待ちですね。その件は。
    2015年08月10日 15:23
  • sdi

    私は吊り金具が劣化から破損もしくは切断して崩落に至るというのは第一原因ではなさそうに思えます。今年行われた目視点検というのは、この吊り金具の状況確認が主(「のみ」かも)だったと思われますから目立った劣化があれば気が付いたでしょう。むしろ、点検時のセメント壁の剥落等トンネル内壁の劣化状態のほうが気になります。
    最終的な原因分析をするためにはトンネル内の瓦礫を全部運び出して調査するとともに、トンネル天井の岩盤部分の状態を調べなければわからないでしょう。むしろ、調査も分析も不十分な状態で犯人捜しをやらかすことのほうが今後の事故対策・再発防止の妨げになります。マスコミはじめこの問題を論ずる方々の自制と冷静さを望みたいですね。
    笹子トンネルの構造に問題はないのか、といわれれば問題なしとはしません。しかし、建設時期やトンネルの長さを考えると他に選択肢はなかったでしょう。後、素人考えですが固定ボルトがセメント内壁を貫通した場合、貫通先が破砕帯のような状態だったら開けた穴から湧水の浸出もありえるではないでしょうか?
    2015年08月10日 15:23
  • ピンポンマン

    週に1度くらい、笹子トンネルを通るのですが、上りと下りの出来が極めて違うのが、気になります。天井板は、それを隠すためだったのでは、ないでしょうか。
    2015年08月10日 15:23
  • クマのプータロー

    一般的にトンネルは排水を考慮して入り口が低く、中央部が高く設計されています。関門トンネルは海底トンネルなのでそう言う構造にはなっていません。関門トンネルの事例が活かされなかったのは車両通行時の振動特性が他のトンネルとは違うという判断があった場合が考えられます。
    都夫良野トンネルの映像を見る事が出来ましたが、都夫良野は2カ所で固定する構造になっていました。設計はこちらの方が古いので、効率を高めるため以後のトンネルでは固定箇所が1カ所に変更になったのでは無いかと考えられます。
    また、ジェットファンは短いトンネル用、せいぜい日本坂トンネルの2.5キロまでが限界かと思われます。長いトンネルの場合はこの工法が依然として有効なのです。
    2015年08月10日 15:23
  • PE

    ずいぶん間が空きましたが、本件で少し前進があったので報告がてら書き込みさせて頂きます。
    今朝のニュースで天井板設計当初の問題として、換気風圧が考慮されていなかったのでは?との記事をみました。
    先にもコメントしてますが、同様の構造の天井板について、老朽化のみでなく設計思想に問題ないか、確認するべきと考えます。何か情報発信するよい方法あれば御教示頂けないでしょうか?
    2015年08月10日 15:23
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    感覚的には吊り金具の密度が低い気がする.
    感覚は当てにならないと言うが, 我々の
    日常感覚は自然界における様々な力学的安定状態
    を見て培われたものだから馬鹿にできない.
    同じ頃の東京タワーの設計と比較すればすぐ分かる.
    見えない所こそ, 普段のメインテナンスが
    効かないのだから, 「見るからに」頑丈な
    構造体が必要だろう.
    2015年08月10日 15:23
  • 白なまず

    日本人の生活を守るため、国土強靭化が急務という事ですね。
    その為にも、、、
    所で、イライラが溜まっている人はこの映像でウサを発散させる事が出来るかもしれません。

    SVRでクリスマス劇場【BKDを討て】
    http://www.nicovideo.jp/watch/sm19494387
    2015年08月10日 15:23

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