笹子トンネル崩落
12月2日午前8時5分頃、中央自動車道上り線の笹子トンネル内で、コンクリート製の天井板が崩落する事故が発生した。
崩落は笹子トンネル上り線の東京側出口まで約1.7キロの地点で発生、中日本高速道路や県警によると、天井板が150枚ほど、長さにして約110メートルにわたって崩れ、トンネル内を走行していた車両の上に落下した。この崩落で、少なくとも車3台が下敷きになり、2台が炎上、うちワゴン車から3人の遺体が見つかったそうだ。犠牲となられた方には、心より御冥福をお祈りいたします。
崩落した天井板は、路面から高さ4.7メートルのところでコンクリート製の天井板によって車両通行部分と換気のためのダクト部分とに隔てられている。天井板は1枚1.2m×5m、厚さ8及び9cmの2種類から成る。
天井板1枚の重さは1トンを超え、金属製の長さ5.3mの釣り棒で釣り下げられているのだけれど、崩落はこの棒が落ちた為に起こったと見られている。
この事故で中央道は上りが一宮御坂インターチェンジ(IC)―大月ジャンクション(JCT)間、下りも大月JCT―勝沼IC間が通行止めとなり、復旧の見通しは立っていない。
現在の中央自動車道の笹子トンネルは全長上り4784m、下り4717mの中央高速で2番目に長いトンネルなのだけれど、完成したのが1975年と、37年も昔。掘削工法には、矢板工法が使われていた。
矢板工法とは、主に山岳トンネルの工事に利用される施工法で、古くから使われている工法。発破用の穿孔機以外の特殊な機械を必要とせず、汎用の土木機械で施工出来る利点がある反面、機械化出来ない行程が多くて、人力に頼る場面もある為、施工期間は比較的長くなる傾向がある。
トンネルとは、定義的には、ある2点間を繋ぐ一定の断面寸法を持った地下構造物ということになるのだけれど、当然、山腹なり、地中なりに穴を掘ることになる。
子供が砂場でトンネルを掘って遊ぶのとは違って、実際のトンネルの掘削は土だけを掘ればそれで済むというものじゃない。特に、山腹を通すトンネル工事だと、途中で出くわす岩盤を相手に掘り進めなくちゃならない。
岩盤を掘削する方法には、削岩機による人力での掘削、ダイナマイトを使った発破による掘削、TBM(トンネルボーリングマシン)や坑道掘削機などによる機械での掘削等があるのだけれど、山岳トンネルでは、発破による掘削が主として行われている。「トンネル年報2011」によると、現在、施工中の山岳トンネルの61.5%は発破による掘削で、機械掘削は24.5%となっている。
発破による掘削を行う場合、まずダイナマイト等の爆薬を入れる穴を岩盤に2~3個程度掘り(削孔)、そこに爆薬を詰める(装薬)。そして、その爆薬を爆発させ岩盤を砕いて、砕いた岩を外に運び出すというプロセスを繰り返す。
このとき、掘削が終わった坑道は、岩盤が非常に不安定な為に崩れてこないように、丸太や鋼材を使って支えを作る。この支えは「支保工」と呼ばれ、支保工は一定の間隔で設けられ、アーチ状に作られる。
支保工が終わった坑道には、支保工と岩盤の間に「矢板」と呼ばれる木板又は鉄板を挿入し、支保間の岩盤を固定してゆく。また、地質によっては、矢板を使わない場合や、矢板を当てがって、後から支保工をする場合もあるようだ。
そして、矢板による下地の完成後、ビニールシートなどで防水加工して、「セントル」と呼ばれる移動式の型を設置する。この型と岩盤の間にコンクリートを流し込んで、掘った坑道の内側を補強する。
このトンネル掘削工法が「矢板工法」。今回崩落した笹子トンネルはこの工法で作られていた。
ただ、「矢板工法」はトンネル工法としては、古い部類に入る工法で、今では、更にトンネル強度を高めたなNATM(New Austrian Tunnelling Method:ナトム)工法が主流になっている。
NATM工法は、1960年代にオーストリアで提唱され、日本では1980年頃より普及し始めたトンネル工法のことで、「矢板工法」で、掘削した坑道内側にコンクリート吹付をした後に、内側から岩盤に向かってロックボルトと呼ばれる長さ3~4mの鉄の棒を突き刺して補強する。
何故、鉄の棒を岩盤に突き刺すだけでトンネルが補強されるのかというと、それは、山体の崩れ方のプロセスが元になっている。
山といっても、オーストラリアのエアーズロックのような、一枚岩の山というのは珍しい部類。大抵は、大小様々な岩盤が積み重なって山体を形成している。
例えば、大小様々の岩が積み重なった山があるとする。その中の「大きな岩」の間に「少し小さい岩」が挟まり、更に、その「少し小さな岩」の間に「もっと小さい岩」が挟まり、全体として崩れずに安定している状態だと仮定する。
ここで、何らかの原因で、どこかの「小さい岩」が崩れたり、ズレたりすると、それまで、その「小さい岩」が支えていた「少し大きな岩」は支えを失い、他の支えている岩にこれまで以上の荷重が掛かるようになる。この時、支えを失った「少し大きな岩」が他の岩によって支えきれなくなると、その「少し大きな岩」は下に落ちるのだけれど、これが連鎖的に起こってしまうと、最初はほんの小さな岩であっても、最終的には、かなり大きな岩盤までズレたり、落下してしまうことになり、最悪のケースでは山全体が崩れてしまうことになる。これが山体崩落のプロセス。
もしも、こうした山体内部で岩盤の落下が起き、それら岩盤の落ちた先がトンネルの上だった場合、トンネルの内壁がその衝撃又は荷重に耐えられなければ、そのトンネルは崩落してしまう。
こうした事態を未然に防ごうとして考えられたのが、NATM工法。
NATM工法では、トンネルを掘った後に内側から鉄の支持棒を撃ち込むことで、最初の「小さな岩」が動いたり、潰れたりしたときでも、打ちこんだ支持棒がその代わりの支持材として働き、より大きな岩の落下を防ぐようになっている。
だから、逆にいえば、NATM工法で作らていない笹子トンネルは、山体内部の岩盤崩壊に対して、それを防ぐ構造がなく、トンネル内側のコンクリートが支えの全てになっている。
今回の笹子トンネルの天井板の崩落は、天井板を支える金属製の釣り棒が落下したためと見られているけれど、報道等で流れている笹子トンネルの構造の模式図を見る限り、天井板は、トンネル上のたった一本だけの釣り棒によって吊るされているだけで、釣り棒に掛かる荷重は、トンネル上に打ちこまれたほんのわずかな面積で支えていることになる。
もしも、その釣り棒の真上の岩盤が崩落したとすれば、その衝撃等に耐えられず、落下する危険性が高い様に思われる。
更に、笹子トンネルの内側コンクリートの施工厚については一部区間で厚みの不足の部分があると、国の会計検査院から指摘されている。
これは昭和50年頃に、国が中央高速笹子トンネルほか13工事について、トンネルアーチ部の覆工コンクリートの厚さが設計厚保である55cmから90cmあるかを調査したのだけれど、設計の半分以下の厚さしかない箇所が15箇所、3分の2以下しかない箇所が142箇所、4分の3以下のところが182箇所あったと指摘されている。
ただ、昭和50年といえば1975年で笹子トンネルが完成した年。完成時の指摘だから、なんらかの補強対策は為されているとは思うけれど、矢板工法では構造的に、内側コンクリートの強度はそのままトンネル強度に直結する。
だけど、筆者的には、更に気になる点がある。それは笹子トンネル一体の岩盤に何らかのズレや崩壊が起きていないかということ。
笹子トンネルはその掘削途中で200mもの区間にわたる破砕帯に遭遇している。
破砕帯とは、断層運動によって、地層あるいは岩石が粉々に砕かれた部分が一定の幅と方向に延びている部分のことで、その部分は強度が低く、地滑りの原因となることがある。
笹子トンネルの破砕帯区間の掘削では、粘土化した地山と毎分6トンもの湧水に見舞われ、難工事になったのだという。
今回の崩落区間が破砕帯の部分なのかどうかは分からないけれど、確率的には、この破砕帯部分で崩落した可能性は高いのではないかと思う。
もしも、今回の崩落がトンネル上の岩盤崩落によるものだとすれば、たまたまそれが強度的に弱い破砕帯部分で起きただけの可能性があり、更にそれが、東日本大震災による地盤の歪みが遠因だったとすれば、他のトンネルも同様に危険である可能性がある。特に、NATM工法でなく、かつ釣天井方式を使っているトンネルには、しばらくは要警戒が必要ではないかと思う。
この記事へのコメント
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すなる
詳しそうなのでいくつかお聞きしたいです。
どこかの報道で天井板を吊っていたロックボルトが劣化して外れたとありました。
ロックボルトをこのような用途に使うことはよくあるのでしょうか。
また、今回の用途(天井板の吊り下げ)にはロックボルトでは不十分なのでしょうか。
ロックボルトは本来の用途から、かなりの高強度と思われるのですが、それでも不適切なのでしょうか。
不躾な質問ですみません。
もしご存知でしたら教えてください。
クマのプータロー
ちび・むぎ・みみ・はな
安全に保たれる訳ではない.
一般国民には因果応報であろう.
思い上がって日本の伝統を無視すれば,
たちまちにして国民に自然の摂理が報いる.
それでも公共事業は悪と言い切る政治家は
誰だろうか.
深月
首都高速でも、細かいコンクリート欠片がバラバラ降って来たり…という話が聞こえ始めているので、自分の頭上や足元にある構造物は本当に大丈夫なのかと不安ではあります。古いタイプのインフラの構造は、よく知っておかなければ…と思いました。
日比野
始めに、私は全然詳しくないことをお断りさせていただきます。m(__)m
ただ調べた範囲で記事にしているだけですけれども、その前提でお返事させていただだければと思います。
ボルトについては、私も不思議に思ったので、12/4付のエントリーで記事にしてみたのですけれども、やっぱりよく分かりません。(苦笑)
ロックボルトは吹付コンクリートにも使われるので、吊天井に使うのも、そんなにおかしいとは思えません。それに、御指摘のとおり、ロックボルトは相当強い筈なので、これが切れたり、外れたりするのはどうかなと思います。
ただ、今回問題となっているロックボルトは長さが230ミリだそうなので、トンネル内壁コンクリートを貫通してその向こうの岩盤にまでは届いていない筈です。(設計巻き厚が55-90cmなので)
けれども、一番、気になるのは、笹子トンネル完成時に、内壁の巻き厚不足を指摘されている点です。
もしも、背面空隙がある巻き厚が薄いところにボルトが打ちこまれていると、その分、強度は弱くなります。ですから、もしかしたら、その