進化した安倍総理の所信表明演説

 
1月28日、第183回通常国会が召集された。会期は6月26日までで、150日間開会される。

画像


この日の午後、安倍総理は、衆参両院本会議で第2次安倍政権では初めての所信表明演説を行った。

所信表明演説の内容は、こちらで確認していただければと思うけれど、「はじめに」と「おわりに」を除いた見出しを拾うと次のとおり。
1)経済再生
2)震災復興
3)危機管理
この3つだけ。論点を絞りに絞った上に、非常にシンプルな見出し。内容も簡潔に纏められていて、分かり易い。マスコミは、もっというべきことがあったのではないか、とか公務員制度改革に触れなかったやる気があるのか、とか批判していたけれど、あれもこれも入れてみても、全部やるのは大変だし、また出来なかったら出来なかったで、後になってマスコミは叩くだけなのは目に見えている。それよりは、今回のように、本当に大事だと考える点のみに絞った所信表明の方がいい。



因みに、2006年9月の第一次安倍内閣発足後初の所信表明演説での見出しは次のようなものだった。
A) 活力に満ちたオープンな経済社会の構築
B) 財政再建と行政改革の断行
C) 健全で安心できる社会の実現
D) 教育再生
E) 主張する外交への転換
当時は5つの論点を述べているのだけれど、中身も盛り沢山で、文字数にして8370文字ある。今回の所信表明演説の文字数は4803文字だから、当時の所信表明は倍近くも話していた。



そして、それから4か月後の、2007年1月通常国会での所信表明演説での見出しは次のとおり。
F) 成長力強化
A') 「チャンスにあふれ、何度でもチャレンジが可能な社会」の構築
G) 魅力ある地方の創出
B') 国と地方の行財政改革の推進
D) 教育再生
C) 「健全で安心できる社会」の実現
E) 主張する外交
論点は7つに増え、文字数は9538文字にまで増加している。勿論、文字数が多い少ないで、所信表明の善し悪しが変わるわけではないし、そう言う積りもないのだけれど、2006年9月の所信表明と2007年1月の所信表明の見出しを比較すると、実は殆ど同じであることに気付く。

「健全で安心できる社会の実現」、「教育再生」、「主張する外交への転換」などはそのままだし、「活力に満ちたオープンな経済社会の構築」や「財政再建と行政改革の断行」についても、「『チャンスにあふれ、何度でもチャレンジが可能な社会』の構築」と「国と地方の行財政改革の推進」に大体含まれてしまってる。

だから、2007年1月の所信表明は2006年9月のそれに、「成長力強化」と「魅力ある地方の創出」を付け加えたものと見ることもできる。

だけど、所信表明演説の内容が前と後と変わっていないというのは、そのまま、前に出した課題をクリアできていないことを意味してる。

これが、2007年9月の第168回国会冒頭での所信表明での見出しは次のようになる。
H)  信頼できる年金を再構築する
B"・G') 改革の果実を地方の実感につなげる
D') 教育再生を具体化する
C') 安心して暮らせる社会を実現する
A・F・B") 持続的な経済成長を実現し、簡素な政府をつくる
E) 主張する外交を展開する
I) 環境で世界を主導する
とまぁ、論点こそ7つだけれど、内容をみると、前回の論点7つを5つに纏め、さらに、「信頼できる年金を再構築する」と「環境で世界を主導する」の新たな課題2つを加えたものだと分かる。

ただ、「教育再生」や「国と地方の行財政改革の推進」の2つについては、「教育再生を具体化する」と「改革の果実を地方の実感につなげる」となっているから、前回と比べて、少しは進んでいるのだ、ということを匂わせる記述にはなっているから、全く何もしていないというわけではないだろう。

ともあれ、前回の第一次安倍内閣の所信表明を見る限り、安倍総理にしてみれば、色んな論点を掲げて取り組んでみたものの、結果として、十分にはやり切れなかったという思いがあるのではないかと思う。

では、果たして、今回の第2次安倍内閣では十分にできるのか。



2007年1月通常国会での所信表明演説後の2月10日に発売された、「文藝春秋 2007年3月特別号」は、その中の「支持率急落『安倍官邸』機能せず」という記事で、当時の安倍内閣について、次のように批判している。要旨だけ紹介すると次のとおり。
・政権発足からわずか四カ月で、安倍政権の支持率は急落。
・官邸主導は、"司令塔不在"で機能不全に陥った。
・チーム安倍が機能しない。官房長官は力量不足で、官邸スタッフにも一体感がない。
・山崎拓の単独訪朝問題の処理。
・郵政造反組の復党問題。
・「政治とカネ」をめぐるスキャンダルが噴出。
・官邸はメディア対策に乗り出し、安倍総理自身も首相経験者らに教えを乞うている。
とこんな感じ、この記事のどこまで本当なのか分からないけれど、本当であったとしたら、さぞかし苦労したのではないかと思われる。

筆者は、今にして、この記事を読んだのだけれど、前回の安倍政権は、党内基盤の弱さと、党内人事を含めたあらゆることに対しての準備が不足していたのではないか、という印象を受けた。

この記事の中で、当時の安倍政権の支持率が急落したことについて、元幹事長の古賀誠氏は次のように述べている。

「みんなで作った政権というのは、意外にもろいものなんですよ。…森政権を作った時がそうだった。五人組で密室で決めたと言われ、けちがついた。みんなで決めたのに、局面が変わって悪いほうに向かうと、潮が引くようにみんな一斉に引いてしまった。そういうものだ。小泉がこれまでにない強みをもったのは、党内の大勢を打ち負かして、勝ち上がったからだ」

古賀氏は、小泉政権が強かったのは、みんなで作った政権ではなくて、党内の大勢を打ち負かして、勝ち上がったからだと指摘している。なるほど、確かにそうかもしれない。

では、翻って、今回の安倍内閣はどうか。

昨年秋の総裁選では、当初、石破氏、石原氏が本命で、安倍総理は3位に位置していた。それが、逆転勝利を治め、総裁に返り咲いた。今度は、党内の大勢を打ち負かした。

そして、前回、参院選で惨敗したのに対して、今回は、衆院選で大勝し、リベンジを果たして総理の座についた。ここでも勝ち上がった。

だから、その意味では、今回の第2次安倍政権は、前回より強く、党内をがっちりと固めやすい環境にあると言える。更には、一度総理を経験していることも、強みになっているのか、人事も実に手堅く、閣内からの不規則発言も殆どないし、下手なぶら下がりをやらないなどのマスコミ対策もしている。

政策については、今回の所信表明で述べているように、3年余り考え抜いた、というだけあって、次々と先手を打って迷いがない。

だから、見ている方の国民も、安心して見ていられる部分もあるのではないかと思う。

運命を開拓する。強い日本を創る。やはりそれは、我々自身の手に掛かっている。




画像

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック