アップル下落はサムスンの向かい風

 
1月24日、アメリカのアップル社株が12%超急落した。

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その理由は前日23日にアップル社が発表した決算と業績予想。といっても、赤字決算だったからとか、成長が見込めないとかそんなレベルでは全然なくて、業績が市場の予想したほどではなかったからというもの。

アップル決算発表前の数週間は、iPhoneとiPadの売行きが不調だと噂されていたようなのだけれど、iPhoneは4780万台、iPadは2290万台と過去最高の売上を記録し、蓋を開けてみれば、2012年10~12月期決算は、売上高で545億ドル(約4兆9100億円)、純利益は131億ドル(約1兆1800億円)で、これも過去最高を記録した。

前年度の同一期は、売上463億3000万ドル(約4兆1700億円)、純利益は130億6000万ドル(約1兆1800億円)で、iPhoneは3700万台、iPadは1500万台販売している。だから、今回の決算発表は悪いどころか、成長していることを示している。

だけど、市場の期待や予測はそれを上回っていた。

市場はアップルの売り上げを548億8000万ドル(約4兆9400億円)と予測していて、それに僅かに届かなかっただけの今期の決算さえ、悪材料とみた。

一部のアナリストは、アップルの利益の半分以上を占めるiPhoneの売り上げの伸びについて、これまでは新機種投入の際は市場以上の伸びを示してきたのに、今回は市場とほぼ同じペースだった点を取り上げ、これはアップルにとって、普通のことではないとした。

また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、サムスンのシェアが27%でアップルの18.5%を上回っていることを挙げ、価格面も重要となってきた競争環境の変化を示唆。更に、アップルが去年の12月、部品の製造を減少させたと伝えている。こうしたことから、投資家達はiPhone需要の減少を感じて、後ろ向きになっているという。

これに対して、アップルのティム・クックCEOは、新製品iPad miniの需要に供給が間に合っておらず、大規模な製造施設ができるまで利益は少ないが、供給ラインが出来れば必ず売れる、としている。

iPad miniとは、昨年秋に発売された、その名のとおり、iPadのアプリケーションがそのまま使え、サイズだけ小さくした品種。従来のipadの9.7インチから7.9インチへと小型化している。

ただ、このサイズのタブレットは既に、グーグルやサムスン、アマゾンなどの競合他者が発表もしくは販売していて、一部には、「斬新な新製品で市場をつくりつづけてきたアップルが『守り』に転じた」と厳しい声もある。



実は、アップルの創設者で一昨年亡くなった、スティーブ・ジョブスは、iPad miniのサイズにあたる、7インチのタブレットは使い物にならないと断じている。

ジョブスは、タブレットの将来について、次のように述べている。
7インチのタブレットは紙ヤスリも同梱しないと使い物にならない。ユーザーが指を1 / 4 サイズに削って操作できるように。アップルは広範なテストの結果、タブレットの最低サイズは10インチという結論に達した。

タブレットユーザーのポケットにはすでにスマートフォンがあることを考えれば、タブレットの画面サイズで妥協する意味がない。7型タブレットは中途半端。携帯としては大きすぎ、iPadと競争するには小さすぎる。

Googleでさえ、タブレットメーカーに Froyo (Android 2.2) は使うなと言っている 。ソフトウェアを提供する企業がうちのソフトは使うなというのはどんな状況だ?

競合製品の価格もそれを証明している。今期の7インチタブレット製品は登場時から死に体になると予測している理由がこれだ。愉快でたまらないことになるだろう。
そして、ジョブスはipadの未来についても、次のように述べている。
iPadのノートへの影響は明確。すでに問題はノートを超えるかどうかではなく、いつそうなるかであることを iPadは証明したと考えている。今後も多くの進歩と展開があるだろうが、すでに教育分野から多大な関心を寄せられている。

また驚いたことに、ビジネス分野からも興味を持たれている。まだビジネス用途にはプッシュしていないのに、われわれの手からもぎ取られてゆくような状態。企業の役員から医者、看護師まで、iPadを仕事に使っているという人々と毎日話をしている。時が経つほど、とんでもないものの尻尾を掴んだと確信できるようになった。

何千万もの人々がすでにiPhoneを使い慣れており、それは iPadでも通用する。「いつになるか」はまだ分からないが、すでに始まっている。ご存じのとおり、iPadの発売から数四半期しか経っていないのに、出荷台数はもうMacを超えている。
筆者は、以前、「iphoneのデザインが人を惹きつける理由」のエントリーで、ジョブスは自社製品のデザインについて"直感的に物事がわかるようにする"ことを目指していて、それは、言葉を変えれば、ユーザーにストレスを与えないことではないか、と述べたことがあるけれど、ジョブス自身が目指していたものを考えば考えるほど、ジョブスが、iPadがノートを超えるものであると認識していたことも、7インチタブレットが使い物にならないと酷評していたことも、なるほどそうかもしれないと思わせるものがある。

だから、アップルが、"紙ヤスリも同梱しないといけない"「iPad mini」を販売したことは、ジョブスの哲学を軽んじたことにもなり、アップルが守りに入った証拠だと言えなくもない。その意味において、投資家がアップルの成長に後ろ向きになったというのも、あながち否定できるものではないかもしれない。

ウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するように、タブレット市場が価格競争の世界に突入し、アップルもそこに入ってくるとなると、今後、各メーカーは、更なる激烈な価格競争の波に晒されることになる。

そのときは、今以上に、偽物やパクリ製品に対する目が厳しくなっていくかもしれない。新製品や画期的な製品を生み出すには、多大な時間と開発費用が必要になる。それを、横からかっさらう形で真似されて利益を奪われてしまっては堪らない。特に、デザインのように、実物をみれば、それだけで真似できてしまうようなものであれば尚の事。

現に、サムスンは、スマートフォンとタブレットについて、アップルと特許紛争しており、そのいくつかについては敗訴の仮決定が下されている。

2012年8月21日、サンノゼのカリフォルニア北部地裁で開かれたアップルとサムスンの特許訴訟最終弁論で、アップル側の弁護士ヘロルド・マッケルヒニー氏は陪審員団に、「アップルが4年間に注ぎ込んだ労苦と独創性の結果をサムスンが何の努力もなく吸収した。3カ月間昼夜関係なくコピーした」と主張しているけれど、こういった観点が、より増々重要視されていくのではないかと思う。




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この記事へのコメント

  • 日比野

    白なまずさん、どうもです。

    「スタバビジョン」見させていただきました。私的にはサイズ云々よりも、電池が持つというのが魅力的に見えますね。軽さはあまり意識してませんでしたけども、頻繁に持ち運ぶ人にとっては、無視できない要素かもしれませんね。日本での売り上げがキーになるという御指摘については同意です。
    2015年08月10日 15:23
  • 白なまず

    10インチのiPADは欧米人には丁度良いのでしょうが、日本人の女性にとっては重さが問題のようで、7インチのiPADは軽く出来ており、7インチが流行るのではないでしょうか。モバイル主体である以上、画面のサイズと重量のバランスが売上に結びつくのではないかと思っています。また、現状のこの手のタブレット端末でのアップルのシェアが一番多い国は日本なので、日本の売上がアップルの将来を左右するとも思えます。今後、アップルが途上国向けに値段を下げた商品をだすと様子は変わる可能性はありますが、品質の下がったアップル製品を望む人は少ない場合、やはり日本がアップル製品を支えるマーケットになると思います。

    参考動画
    #112 Apple「iPad mini」
    http://video.watch.impress.co.jp/docs/stapa/20130122_581839.html
    2015年08月10日 15:23
  • sdi

    7インチのタブレットの大きさがどんなものかというと、新書1ページとほぼ同じ大きさです。この大きさで見やすく表示できるコンテンツなら問題ないでしょう。といっても電子書籍にした場合、新書1ページの面積にコミック単行本や文庫の見開き2ページ分を表示した場合、お世辞にも見やすいとはいえないでしょう。動画の場合は、タブレットを横にすれば使えますね。PSPやDSの画面サイズよりも大きいくらいですから。でも、やはり画面の物理的サイズが小さいですからこの画面サイズに慣れていないユーザーがストレスを感じることは避けられないでしょう。ただ、スマートフォンや携帯でコミックや動画を見ることに慣れてしまっているユーザー層には「大きくて見やすい」と逆の評価になるかもしれません。勿論、10インチクラスのタブレットユーザーからは逆の評価をされても不思議ではありません。
    7インチサイズの画面で見る事を考慮したコンテンツが供給され、ユーザー側に「タブレットは片手で持って見る者」という認識が広まれば7インチサイズダブレットにも勝機はありますね。
    2015年08月10日 15:23

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