テロ被害者の実名報道問題について

 
1月26日、アルジェリア人質事件で犠牲になった日本人の最後の一人を乗せた航空機が成田に到着し、日本人10人の犠牲者全員が無言の帰国をした。亡くなられた方におかれましては、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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今回の事件で、マスコミによる犠牲者の実名報道について問題視されている。

当初、被害者の勤務先の日揮は「家族へのストレスを与えないため」という理由で名前などを公表しておらず、政府も「家族や会社の関係もある。氏名公表は控えたい」として、公表を控えていた。

ところが1月22日、朝日新聞が朝刊に犠牲者の実名と写真を掲載したのを皮切りに、他のメディアも追随して、実名が広く報道された。翌23日には、テレビ朝日の「報道ステーション」が犠牲者の実名を公表した。

おそらく、こうしたことを受けてのことだと思われるけれど、政府も方針を転換。25日に犠牲者の氏名を公表した。ただし、御遺族の意向を汲み、政府は氏名のみで年齢などは明らかにしていない。

このメディアの独断ともいえる実名報道について、批判が殺到している。その批判の多くは、「遺族が公表しないことを望んでいるにも関わらず勝手に報道した」とか、「一部メディアが実名公表しないことを条件に取材に応じたにも関わらず、その約束を破り実名報道した」というもので、報道する側のモラルに対する批判が主なようだ。

これに対してマスコミ側の言い分というか、実名報道した根拠として、「事件を多くの国民の記憶に刻み込み、このような悲惨な出来事が再び起きないよう社会に力強く訴えるという観点から名前の報道が必要」という大義名分を掲げている。

「報道ステーション」が犠牲者の実名を公表した際、その理由として、キャスターの古館伊知郎氏が次のように話している。
「亡くなられた方、そしてそのご遺族、ご家族の方々の思いというものを考えてですね、日揮は、あるいはその日揮の要請を受けた政府は、亡くなられた方の名前の公表を差し控えました。私どもの番組もどうするかについて考えました、議論をしました。ただですね、それぞれの人生があり、さまざまな喜怒哀楽を抱えて生きてきた人生があり、それが突然卑劣なテロによって断ち切られてしまった、その無念というものをお伝えする際に、数だけで表現するのではなく、取材に基づいて、お名前をお伝えさせていただくというふうに先ほど決断いたしました。まず亡くなられた方、7人の方のお名前、あいうえお順でお伝えいたします」。
1/23放送「報道ステーション」より


メディアはその意義から、自身が伝える情報は、正確迅速であることが求められるのだけれど、その説明として、よく「5W1H」の原則が取り上げられることがある。

5W1Hとは、情報伝達の基本とされるもので、WHEN(いつ)WHERE(どこで)WHO(誰が)WHAT(何を)WHAT HAPPENED(どうした)HOW(どういうわけで)の6つの要素を指す。

通常のニュース報道には、殆どの場合、この5W1Hが含まれている。この5W1Hがきちんと含まれているからこそ、そのニュースに対する信頼性・信憑性が生まれるとされている。

ニュースが何のために行われるのかというと、ある事実を広く一般に知らしめることで、注意を喚起したり、また、事実の隠蔽を防ぎ、権力を監視する役目を果たすことで、国民の「知る権利」を保証するためにある。

だから、これらの目的を達成するためには、正確は報道は必須であり、5W1Hのひとつである実名(WHO)についても、出来る限り報道すべきである、というのがマスコミ側のロジックではないかと思われる。

確かに、マスコミのいう「事件を多くの国民の記憶に刻み込み、このような悲惨な出来事が再び起きないよう社会に力強く訴える」というのは必要なことであるし、やらなければならないことではあるけれど、それが犠牲者の実名報道によって達成できるのかとなると、全く不十分であると思う。

なぜなら、今回の事件は、日本から遠く離れたアフリカの地での出来事であり、国全体としてどのようにすべきかを考えなければならないことであるから。

例えば、国内で何かの凶悪犯罪が起こったとき、事件の手口や顛末・背景などを実名を伴って報道することは、事実を広く知らしめると共に、似たような事件がまた起こらないとも限りませんよ、と注意を喚起することになるから、更なる被害防止に繋がる面がある。

また、犯人等を実名報道することで、同様の犯罪は実名で晒されるのだ、という"見せしめ"によって、二度とこのような犯罪を起こさないようにする効果(一般予防効果)や、凶悪犯は刑期を終えて出所しても、再び犯罪を犯すかもしれないから、もしもの時のために、実名と顔写真を公表しておくという自己防衛機能があるのだ、という主張も、実名報道の根拠として挙げられることがある。

ただし、今回のケースで考えると、実名報道されたのは、被害者であって、加害者ではない。だから、いくら犠牲者を実名報道したところで、「見せしめ効果」も、「自己防衛機能」も働く訳はなく、この意味において実名報道をする
特段のメリットは少ないと考えられる。

では、「事件を多くの国民の記憶に刻み込み、このような悲惨な出来事が再び起きないよう社会に力強く訴える」という観点から、実名報道にどれほどの意味があるか、を考えてみても、国民の記憶に刻み込むべきなのは、テロによる犠牲という事実であって、実名がそれを上回るとは筆者には思えない。少なくとも、多少なりとも時間をおいて、御遺族達から実名を公表してもよいと承諾を取るまで待つべきではなかったかと思う。

そして、「このような悲惨な出来事が再び起きないよう社会に力強く訴える」という観点からみれば、実名報道は殆どその役目を果たさない。アルジェリアという外国の地で起きた悲惨な出来事に対して、そこから何千キロも離れた日本で報道される犠牲者の実名が、どうやって、再び起きないような力となり得るのか。

本当に再びこのような出来事を起こしてはいけない、とメディアが本気で思っているのなら、アルジェリアの歴史かr、テロリストが生まれる背景、アルカイダやAQIM、テロとの交渉を行った事例、その実現性、アルジェリア及び周辺国の情勢から何から、それこそ何日も特集を組んで放送し、如何にテロの撲滅が困難なことであるのか、日本はどうするべきなのか、自衛隊の有り方から憲法の問題まで実に多くのことを取り上げ、「注意喚起」しなければいけない。

今の報道は、単に、アルジェリアでテロに襲われて、日本人10名が尊い命を落としました、というだけで、「可哀想に・・」と視聴者の同情を買うか、「アルジェリアには行ってはいけないね」という注意喚起くらいしか世論に訴えていない。

今後、マスコミが海外のテロの現実や、日本の邦人保護における問題やその対応策について世論を喚起するような報道をしないのならば、今回の実名報道についてのマスコミ側の言い分は説得力に欠け、マスコミ本来の使命を果たしていないと言わざるを得ない。




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この記事へのコメント

  • とおる

    国内で、在日朝鮮人(韓国人)の犯罪(加害者)の場合は、実名報道せずに、通名を報道している新聞が、平気で被害者の実名報道。
    2015年08月10日 15:23
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    真っ赤な(嘘の)朝日の行動は

     敵意: 安倍政権への敵意
     危機: 新聞存続の危機でネタに飢えている
     傲慢: 何時もの自分がルール

    を原因としているのだろうが,
    抜け駆け的に実名発表に走ったことは
    新聞社としての危機を示すものだろう.
    毎日(嘘の)新聞と共に一刻も早く潰れて欲しい
    メディアであり, 実現は意外と近いかも知れない.

    後は最後のあがきとして支那事変の時の様な
    デマゴーグに注意すべきだ. 特に, オバマ大統領
    はアベノミクスに強い不満を持っているようなので
    厳重な注意が必要になるのではないか.
    2015年08月10日 15:23

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