安倍総理のベトナム訪問
1月16日、安倍総理は初の外遊先としてベトナムを訪れ、ズン首相と会談した。
会談では、安倍総理がベトナムに対して、新たに五億ドル(約四百五十億円)の円借款を供与する方針を表明し、日本がベトナムから受注している原発建設計画や高速道路などのインフラ整備、レアアース採掘などの貿易投資で協力を進展させることで合意した。
また、安全保障分野では、日本側からあえて南シナ海の問題を持ち出して、「すべての地域の紛争と問題を、国際法の基礎に基づき平和的交渉を通じて解決すべきだ。…力による現状の変更に反対する」との認識を共有することを確認している。
更に、日本はベトナムから要請があった場合、海上保安庁の巡視船の供与を検討するとしている。
中国の海洋進出圧力を受けるベトナムにとって、海上警備能力の向上は焦眉の急。既にベトナムは、昨年までに、日本の海保の中古巡視船10隻の供与を要請している。日本は今回の会談を踏まえて更に、積極的に新造船の供与を検討するとしているから、ベトナムにしても嬉しい話だろう。
日本としても、巡視船を供与するだけで、ベトナムの海上警備能力の向上すれば、対中国包囲網を強化することにもなる。日本政府は、こうした"実のある"海外援助を「戦略的ODA」の一環として、去年あたりから推進しているのだけれど、この巡視船を供与する形のODAを行なう国は、ベトナムだけじゃない。フィリピンとマレーシアに対しても行う方針でいる。
先日、フィリピンを訪れた岸田外相は、フィリピンのデルロサリオ外相から、フィリピンの沿岸警備隊の能力を強化するため、円借款で巡視船を供与するよう要請されている。何でも、フィリピンの周辺海域でパトロールや救難活動に当たる全長40メートルの巡視船10隻を要請したと伝えられている。岸田外相は、「要請の重要性を感じ、しっかりと踏まえながら検討している」と答えているから、これも実現するものと思われる。
フィリピンの沿岸警備隊の主な巡視船はわずか9隻しかなく、海軍も米軍払い下げの艦船が大半で装備が貧弱だというから、たとえ巡視船クラスであっても、10隻も日本から供与されることは非常に大きい。
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また、マレーシアについては、暗闇でも微光をとらえて視界を確保する「暗視装置(NVG)」を搭載する船艇を供与する方針だそうなのだけれど、安倍内閣発足後、まだマレーシアへの閣僚訪問が行われておらず、具体的な話はまだない。けれども、遠からず、この話も出てくるものと追われる。
これらは、2011年に、武器輸出三原則見直しで平和貢献・国際協力での防衛装備品供与が可能になったために行われるようになったこと。それまでは、巡視船は防弾用装甲が軍用船舶とみなされ、ODAで供与することはできなかった。この武器輸出三原則見直しは、最低最悪の民主党政権にあって、極めて数少ない"まともな"政策の一つだと思っている。
こうした、日本からの巡視船供与について、中国は神経を尖らせている。程永華駐日中国大使は、日本の外務省幹部と会談した際に、「日本がフィリピンに巡視船を供与するという報道があるが事実か」と迫ったと言われている。
安倍総理は、ベトナム訪問に先立って、ベトナムのマスコミのインタビューを受けているのだけれど、その中で、今回のベトナム訪問の目的と意義について問われ、「ベトナムは、私が首相に就任してから最初に訪問する国となります。日本とベトナムはアジア太平洋地域の問題に共通の関心があり、経済分野では互いに支え合い、またベトナムは、日本と戦略的パートナーシップのある国のひとつでもあります。」と答えている。
また、ベトナムのズン首相との会談でも、「日中関係は日本にとって最も重要な2国間関係の1つ。引き続き冷静に対応し、きちっとマネジメントしていく」と説明している。
このように、外遊先や会談内容をみると、あからさまな程に、対中包囲網をつくる動きをしているのだけれど、その一方で、中国を敵視していると捉えられるような発言はきちんと避けているし、会談の相手国に対しても、日中関係が険悪になってしまわないかとの不安を解消すべく説明をしている。
日本くらいの大国が明確な目的をもった外交をするとなれば、周辺諸国はその真意を知りたがるし、今後の動向について固唾を飲み込んで注視するのは当然のこと。であるがゆえに、きちんとしたビジョンと、各国の利害を調整して纏めてみせるくらいの外交手腕が要求される。安倍外交の実力が試されている。
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
世界に貢献するほど国内産業を復活できる点で
日本は世界でも稀な国.
こんな国に生まれたことが嬉しい.
sdi
ハードを輸入するときソフト込みになることが多いのです。この場合のソフトとは、使用方法や整備方法にとどまらず武器の設計の背景となる戦術思想や運用思想をさします。訓練指導教官の派遣、さらには常駐なんてケースもあります。フィリピンやベトナムが自国で設計した船艇の建造だけを日本に依頼するのではなく「日本の海保が使用している巡視船・艇」をそのまま輸入するとなると慣熟訓練中は海保から教官を派遣するのではないでしょうか?それは両国の海洋警備組織に海保の警備・運用のノウハウ等の組織文化の輸出につながります。その影響力は共同訓練などよりはるかに大きいでしょう。ここを糸口にして、両国の海洋関係の法規やその運用を日本のそれと足並みを合わせたものにするという展望もありですね。