昨日のエントリーのつづきです。
1月15日、小野寺防衛相は記者会見で、尖閣諸島周辺の領空で中国の航空機が領空侵犯した場合の対応について、「我が国も国際的な基準に合わせて間違いのない対応を備えている」と、無線での警告などに従わずに侵犯を続ければ、警告として信号弾を射撃する方針を明らかした。また、自衛隊機がスクランブルした場合の公表基準について「特異的な事例があった場合に公表している。『特異的な』という判断がどういう形でなされるかは今後、検討していく課題だ」として、明確化を検討する考えを示した。
この発言は、今後、中国機が領空侵犯を、恒常的に続けてくるであろうことを想定した発言だと思われる。現に15日も中国のプロペラ機が尖閣諸島北の領空から約100キロの空域に近づいたため、航空自衛隊の戦闘機がスクランブルしている。
この日本側の信号弾発射の検討について、中国の軍事専門家で海軍情報化専門家委員会主任の尹卓少将は、 「これは著しいエスカレートを示す行為である。警告射撃は実弾を用いた措置であり、曳光弾とは一種の実弾である。日本が実弾を用いわが国の公務航空機に警告を行った場合、著しいエスカレートを示す行為となる。当然ながら、これは戦闘状態に突入した場合の実弾攻撃とは異なる。日本が仮に曳光弾を用いて警告射撃を行った場合、パイロットはその後どのような行動に出るかを決定する権利を持たず、中国の航空機を撃墜するかについては、さらに指示を待つ必要がある。仮に中国の航空機を撃墜した場合、双方の軍事衝突が生じるだろう。中国は目には目を歯には歯をで、実弾により日本の戦闘機に対処する」と述べているけれど、本当に警告射撃をするようなことがあれば、その証拠となる映像をしっかりと記録して、直ちに公表できる態勢は整えておいたほうがいい。
なぜなら、そのような事がおこれば、中国は待ってましたとばかり、日本機が実弾を持って攻撃したと喧伝し、戦闘への口実に使う可能性が考えられるから。
中国の尖閣領有権の主張の仕方を見ても分かるように、中国は自分の都合の悪い証拠を突きつけられてさえも、シラを切り、自身の主張を押し通す。自ら間違いを認めることはない。
昨年末には、中華人民共和国成立の翌年に当たる1950年に、尖閣諸島が琉球に含まれるとの認識を示す外交文書を作成していたことが明らかになったのだけれど、中国はこの件について無視している。
これが外交交渉であり、世界標準なのかもしれないけれど、最近の中国の論調はちょっと度を超している。
1月15日、人民日報は海外版コラム「望海楼」にて、「全く現実離れした安部政権の対中『包囲網』構想」という記事を掲載し、「安倍政権の対中包囲網は笑い話、中国は筋を通し節度を持っており日本に難癖つけてない」と主張し、対中包囲網が成立しない理由として次の3点を挙げている。
1)中国は筋が通っている。釣魚島問題では日本の挑発が先で、中国の反撃は後だ。ましてや日本が不当で非合法な手段によって釣魚島を奪い取った歴史があるため、日本が自らのロジックを国際社会の他の国々に信じさせることは困難だ。安倍氏とその内閣はすでに国際世論において「極端な民族主義」と「タカ派」のレッテルを貼られている。対中強硬姿勢を選択すれば、地域に緊張と不安定をもたらしていると国際世論から認定されるだけだ。よくもまぁ、これほど厚顔無恥に言えるものだと感心する。日本側から率直に言わせてもらえば、この人民日報の文章の日本と中国の単語をそのまま入れ替えて、熨斗を付けて返してやりたい。
2)中国には節度がある。日本の度重なる挑発に対する中国の反応は有力かつ適度で、余地を残したものだ。
就任前後の安倍氏の対中強硬姿勢に対しても、中国は依然中日関係の大局的、長期的観点に立ち、ひたすら「歯には歯を」はしていない。日本が国際的に「悲劇のヒロイン」を演じて、中国への不満を訴えても、受け入れ先はいくらもない。
3)中国には成算がある。対日関係の処理における中国の不動の力はここにある。日本が中国に対してやりたい放題できた日々はとうに過ぎ去り、もう戻っては来ない。中国は日本の様々な挑発と手口に対処するに十分な実力と手段を備えている。アジア太平洋地域と全世界を見渡しても、中国を敵に回すことを図る、または望む国は1つもない。日本が中国と一部の国の摩擦を利用してその離間を図ることは、ごく一部の国とごく一部の問題で多少うまくいくかもしれないが、こうした国々に中国との対立を強いようとするのは、全くの一方的願望に過ぎない。「全く現実離れした安部政権の対中『包囲網』構想」より抜粋引用
1については、先程も述べたとおり、中国自身が自分の外交文書で尖閣を琉球帰属と認めている。琉球が沖縄になって、日本になった以上、今さら尖閣が中国領だといっても筋が通らない。
2についても、2012年9月27日の国連総会で、中国は日本が尖閣を"盗んだ"という表現を7回も使って名指しで批判するという異様な 演説をしている。これの何処に節度があるのか。
最後に3についても、日本は中国に対する警戒レベルを挙げ、アメリカやそしてASEAN諸国でと連携して、自由と繁栄の弧および、セキュリティ・ダイヤモンドをつくろうとする中、どういう成算があるというのか。これまでやりたい放題していたのは、中国の方ではないのか。
だけど、逆にいえば、こうした論調は中国の「恐れ」を表しているようにも見える。特に対中包囲網を非常に嫌がっている印象を受ける。
1月12日、北京日報は、安倍政権の対中包囲網について取り上げ、「日本の呼びかけに応じるのはフィリピンとベトナムの2国だけだ」と述べている。
中国がいうところの"対中包囲網"というのが、どれくらいのレベルのものなのかは分からないけれど、安全保障や軍事協力レベル以上のものを指すのであれば、確かに、日本は2011年にベトナムと「防衛協力・交流に関する覚書」を締結して、防衛当局の次官級による定期的な対話や南シナ海問題について協力することにしているし、フィリピンも、先日、岸田外相が訪問し、海洋の安全保障分野での協力を強化することで一致している。
だから、中国が、日本の呼びかけに応じるのはフィリピンとベトナムの2国だけだ、というのが、軍事協力レベル以上という意味では、あながち的外れじゃない。
だけど、故意なのかどうかは分からないけれど、日本が安全保障協力関係を結んでいるにも関わらず、中国が言わなかった国がある。それはインド。
2008年、日本はインドと「日印安保共同宣言」を結んでいる。これは、対テロや核不拡散など安全保障協力を促進するために結ばれたもので、海上保安当局間の協力、輸送の安全、防衛対話・協力などが謳われている。また、安倍総理は例の「ダイヤモンドセキュリティ」構想の英語論文で、インドをダイヤモンドの一角として取り上げているから、インドも十分、中国のいう"対中包囲網"の中に入る筈なのだけれど、中国はそれに触れていない。
まぁ、第2次安倍政権発足後、安倍総理を始めとして、まだインドへ外遊した閣僚がいないから、触れていないだけかもしれないけれど、それでも、わざわざフィリピンとベトナムと国名を挙げてまで、"対中包囲網"への警戒感を示しているくせに、インドを外しているのは解せない。インドは核を持っているから、日本とインドの安全保障協力は、中国にとっても無視できない筈。もしかしたら、日本とインドとの連携強化が本気でヤバいと認識しているがゆえに、あえてインドを名前を出していないのではないかとさえ。
インドは、2012年12月20-21日に、インド・ASEAN特別首脳会議を行い、国際的な問題、地域的な問題への対処を目的とした「ビジョン声明」を採択し、安全保障分野で双方の協力強化を確認している。だから、日本の"対中包囲網"への呼びかけに参加する公算が高い。今後、日本とインドの接近に対する、中国の反応は注目しておいていいと思う。
この記事へのコメント
sdi
インドと対中目的の軍事同盟を結んでも、マラッカ海峡以東は日本(及び極東米軍)が担当することは覚悟せねばならないでしょう。インドの軍事プレゼンス能力にそこまで余力がないのと、マラッカ海峡にインドを介入させないためです。同盟国同志の揉め事は未然に防ぐのが基本です。
日印同盟が機能する前なら、中国が対インドで「インド洋におけるインドの覇権を認めてヒマラヤ以南チベット以西から手を引くかわりに日本と手を切って俺と組め」と、外交面での一本釣りを仕掛けてくる可能性があります。そういう点から考えると、日印同盟の成文化を急いだほうがよいかもしれませんね。
深月
これは正確な分析だと思います。
中国は古代の頃から、伝統的に「包囲網」に対して非常な警戒心があったのでは無いかと思われるところがあります。華北中原を「中央」としてきた中国の風土が、そうさせるのかも知れません。当然、中国の歴史の中には、包囲網を破った経験もある訳で、口に出して公表してしまった以上は、いっそう慎重な対応が必要かなと思いました。
例1)春秋戦国時代…合従連衡
例2)魏晋南北朝時代…冊封関係で作る国際包囲網