携帯型燃料電池「nectar」

 
消費者向けポータブル燃料電池を開発しているアメリカ・ベンチャー企業、リリピューシャン・システムズ社(Lilliputian Systems Inc)と、アメリカの小売チェーンである、ブルックストーン社(Brookstone Inc.)は、カートリッジタイプのポータブルUSB燃料電池 「Nectar」を発表した。

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「Nectar」本体は手の平サイズのポータブルカメラのような形状をしていて、USB機器を充電できる。出力は5V。「Nectar」は、「Nectar Pod」と呼ばれる使い捨ての燃料カートリッジを差し替える構造になっているのだけれど、このカートリッジは、一本あたり5万5000mWhという電力を持っている。一般的なスマートフォンなら10回から14回の充電が可能だという。今年夏からの販売を予定している。

リリピューシャン・システムズ社は、MITからスピンアウトしたベンチャーで、「Silicon Power Cell」と呼ばれる燃料電池技術を約11年かけて製品化、今回の「Nectar」発表となった。

「Silicon Power Cell」とは、元々、MITのマイクロシステムズ・テクノロジー・ラボ(Microsystems Technology Laboratory)が開発した技術で、燃料電池となる部分

燃料電池は、水素などの燃料と酸素の反応を利用して、電気を作る電池のことで、水の電気分解の逆を行うことで、電気と水を生成する。

だけど、水素は地球上で単独では存在しないから、現実には、燃料電池は、天然ガスやプロパンガス、灯油などの炭化水素系燃料を、触媒によって化学反応させることで、燃料電池に必要な水素を取り出して使用している。(改質反応)

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燃料電池は電解質の種類によって、次4つに分類される。
固体高分子形燃料電池 (PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)
りん酸形燃料電池 (PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)
溶融炭酸塩形燃料電池 (MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)
固体酸化物形燃料電池 (SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、水素、天然ガス、メタノールを燃料とし、イオン交換膜を挟んで、正極に酸化剤を、負極に還元剤(燃料)を供給することにより発電する。起動が早く、運転温度も80-100℃と低いのが特徴なのだけれど、発電効率は30-40%程度で、燃料電池の中では比較的低い。家庭用などの小型用途での利用が進んでいる。但し、天然ガス、あるいはそれらを含んだ燃料を使用する場合には、触媒である白金が10ppm以上の一酸化炭素濃度で触媒作用を失うために、一酸化炭素を除去する必要がある。本当は一酸化炭素が全く発生しない状況下では、発電効率は60%にもなるのだけれど、この一酸化炭素を除去する必要から、トータルの発電効率は30-40%程度に下がってしまうようだ。

りん酸形燃料電池(PAFC)は、天然ガスやメタノールを燃料とし、電解質にリン酸(H3PO4)水溶液を使用する。動作温度は150-200℃で、発電効率は40%程度。ただ、固体高分子形燃料電池(PEFC)と比較して、動作温度が高いために、同じく触媒として使用する白金の劣化の程度が遅く、1%程度の一酸化炭素濃度まで許容される。現在は、工場やビルなどのコジェネレーションシステムとして商用実績がある。

溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は、天然ガス、バイオマス、廃棄物、石炭を燃料とし、電解質には通常、混合炭酸塩(炭酸リチウムと炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウムの混合物)を溶融させたものを使用する。混合炭酸塩は、常温で固体なのだけれど、約490℃で溶け、高温になるほど導電率が高くなる性質がある。だけど、700℃以上の高温では、電池に使用している材料を激しく腐食させるため、動作温度は600-700℃程度に抑えられている。発電出力としては、250kW級の分散型電源から、火力代替用の数万kW級までが想定され、開発が進められている。

最後の、固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、天然ガス、バイオマス、廃棄物、石炭を燃料とし、電解質として酸化物イオンの透過性が高い安定化ジルコニアやランタン、ガリウムのペロブスカイト酸化物などのイオン伝導性セラミックスを使用する。動作温度は高く、700-1000℃もある。従って、起動時には、予熱の時間が必要で、起動までの時間が長い。その代わり、電池反応が容易に進行するために、白金などの貴金属を使った触媒電極は必要ない。発電効率は45~60%程度で、分散型電源から火力代替用までの広い用途が期待されているのだけれど、近年は発電出力1~50kW程度の小型のものを中心に開発されている。

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今回、リリピューシャン・システムズ社が開発した、ポータブルUSB燃料電池 「Nectar」は、この固体酸化物形燃料電池 (SOFC)であり、燃料にはブタンを使用しているようだ。

固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、その構造によって、平型(Planar)SOFCと円筒型(Tubular)SOFCの二つに大別される。

平型SOFCはアノード、電解質、カソードと重ね合わせてセルを構成し、何層も積み重ねた構造を取る。ガスに触れる面が大きく、大量の電流を流すことができる。またセルを積み重ねる構造を取る事で高出力を得ることができるのだけれど、システム内のガスが漏れないように、ガラスシーリングで密封する必要がある。

一方、円筒型SOFCは筒の中に空気(カソード)、筒の外に燃料ガス(アノード)を触れさせる構造で、シームレスになっているという特徴がある。円筒という構造上、高温下でも強度が高く、ガスのフローが直線的で安定している。その反面、電解質と電極の界面の接続面積が少ないために、セル当たりの電流経路が長くなってロスが大きいという欠点がある。

今回発表された 「Nectar」の燃料カートリッジ(Nectar Pod)の形状は、見事に筒型になっているから、おそらく「Nectar」は円筒型SOFCを使用しているものと思われる。

まぁ、動作温度が1000℃にもなる固体酸化物形燃料電池(SOFC)を、携帯型燃料電池にして、安全面で多少の不安がないこともないのだけれど、これからは、こうした燃料電池が段々と身近なものになっていくに違いない。

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