統制の国と連携の国

 
尖閣で相変わらず、中国の領海侵犯が続いている。

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1月7日から8日に掛けて、中国の海洋監視船4隻が過去最長となる約13時間もの間、領海を侵犯した。安倍総理は、官邸で小野寺防衛相と会談し、中国の領空・領海侵犯に対して、「しっかりと自衛隊の任務を果たしてほしい」と警備態勢を強化するよう指示した。

小野寺防衛相は8日の午前にアメリカのパネッタ国防長官と電話会談し、今後の日米防衛協力のガイドライン見直しをめぐり、「米国の新国防戦略と連携して自衛隊の役割、抑止力を強化したい」と表明している。

また、外務省の斎木外務審議官は同じく8日、程永華駐日中国大使を呼んで「即刻退去を求めたにもかかわらず、8日まで長時間侵入した」と厳重抗議し、再発防止を求め、岸田文雄外相は同日の記者会見で、「これ以上、事態をエスカレートさせないよう、中国側に自制を強く求めたい」としている。

ただ、そんな抗議で収まるのであれば、こんなことにはなってない。斉木審議官の抗議を受けた、中国の程大使は「日本の抗議については本国に報告する」と述べる一方、「尖閣は中国領」と主張して譲らなかった。

勿論、日本とて抗議で事が収まるとは思っていないだろう。だけど、何も抗議しなければ相手の主張を認めたことになるから、抗議をしないわけにはいかない。問題はここから先どう対応するか。

これを見るには、金の流れと人の動きを見るのが一番分かり易い。

まず、金の流れでは、自民党は2013年度の予算編成で、防衛関係費を11年ぶりに増額させる方針を固めている。1月7日の自民党国防部会では、平成25年度予算の防衛関係費を前年度の4兆6453億円から約1200億円(約2.6%)増額する決議を採択している。

内訳には、自衛官増員や装備品の稼働率を上げるための維持修理費など民主党政権下での要求になかった項目を計上した他、尖閣諸島での中国機の領空侵犯に備え、遠距離から小型機を探知できるレーダーの調査研究や、オスプレイの導入を検討するための調査費も盛り込まれている。

また、昨年末、小野寺防衛相は、民主党政権で策定された現行の防衛大綱の基本コンセプトである「動的防衛力」についても根本概念から再検討していく考えを示しているから、来年度の予算要求と考え合わせると、自衛官を増員し、尖閣諸島を含む南西諸島の防衛力を強化する方針でいることが分かる。

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次に人の動きで見ていくと、「麻生副総理のミャンマー訪問と『自由と繁栄の環』」のエントリーでも触れたように、自由と繁栄の弧構想に基づいての中国包囲網の形成を持って、中国に対する牽制にしようとする意図が伺える。

この日本による、中国包囲網については、中国も当然分かっていて、警戒心を隠さない。先日の麻生副総理のミャンマー訪問を受け、中国網は「日本がミャンマーで根を下ろした場合、中国の国境地方の政治環境が著しく悪化するだろう。日中が尖閣諸島問題で武力行使した場合、日本はミャンマーとともに中国の西南地区を脅かし、フィリピンやベトナムが南シナ海で問題を起こすことを促し、中国を四面楚歌の状態に陥らせることができる。」とし、日本がASEAN各国に働きかけて、共同で中国に対抗するよう説得を進めていると報じている。はっきりと中国包囲網を作られることを意識している。

その一方、中国は中国で、南シナ海は中国のものであるという情報戦、宣伝戦に余念がない。例えば、中国が去年から発行を始めた電子パスポートもそのひとつ。

中国の電子パスポートは、去年の5月から発行され、これまで使用されていた一般のパスポートと申請条件や有効期限など同じ扱いで、必要な資料と共に申請すれば取り直すことができる。また、従来のパスポートも期限内であればそのまま使えるというから、新しい電子パスポートは、従来のものとの「置き換え」的な扱いなのだろう。

だけど、その電子パスポートのデザインに仕込みがあった。電子パスポートには中国の地図がデザインされているのだけれど、そこには、スプラトリー諸島をはじめとする南シナ海の島々があたかも中国領であるかのように描かれていることが発覚し、周辺国で大騒ぎになっている。

例えば、ベトナムは、「ビザのスタンプを押すことは、中国の領有権を認めることになる」として地図のデザインの撤回を中国に求めるともに、パスポートにベトナムのビザのスタンプを押すことをやめる運用を始めている。尤も、完全に拒否することまでは出来ないようで、苦肉の策としてパスポート以外の別の紙にスタンプを押す対応をしているようだ。

また、フィリピンも、在マニラの中国大使館に抗議し、昨年の12月3日から、中国の電子パスポートへの入国許可の押印を拒否する措置を取った。その為、中国本土からフィリピンへの入国するには、在中国フィリピン大使館にパスポート上に記載されるビザとは別の独立したビザを申請しなければならなくなり、フィリピンの入国管理局はその別途に発行されたビザに対して入局許可を押印する。この新ルール適用以降、フィリピンへの中国人観光客は激減しているようだ。

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中国外務省の華春瑩副報道局長は、周辺各国の反発に対して、「国際的な基準に合致した電子パスポートのデザインは、特定の国を念頭に置いたものではない。関係諸国は、中国と他国との通常の人員往来に支障が出ることがないように、理性的で合理的な対応をしてほしい」なんてぬけぬけと言っているけれど、問題となっている電子パスポートのデザインの南シナ海には、丁度、中国が主張する第一列島線にあたる部分が御丁寧にも赤で点線が引かれている。ここまでしておいて、特定の国を念頭に置いたものではない、とは恐れ入る。それとも、周辺の国々など眼中にない、ということか。

2012年3月現在で、中国の公安機関が発行する一般パスポートは1990年代半ばに比べおよそ10倍の1000万冊に増加し、年間20%の伸びで増え、パスポートを所有する中国人は3800万人とされている。少なくとも、これだけの人数には、第一列島線内側は中国領だとする地図を持たせようとしているのは事実。

更に、中国で地図作成に権威があるとされる中国地図出版社が、最近、新しい中国全土地図を発行しているのだけれど、従来のものが南シナ海部分だけ縮尺を変えて別の枠を設けた横長のものだったのに対して、今回の新しい地図は、赤道近くまで収められた縦長の地図になっていて、南シナ海の100以上の島や岩礁が記載されている。

だから、もうこれは明らかにこれらの島々は中国のものだ、と主張するものであり、それを国内で既成事実化しようとしているとしか言い様がない。

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中国は明らかに情報統制を強化してきている。自分に都合の良いように情報を操作しようとしている。

1月4日には、中国南部・広東省の週刊紙で腐敗追及など改革を求める論調で知られる「南方週末」が、3日付の新年号で掲載する予定だった「憲政の夢が実現されて初めて、国家の自由や人民の自由を守ることができる」として憲法に基づく政治の重要性を訴える記事が、中国政府の指示で習近平総書記の発言に沿った内容に書き換えられていたことが明らかになっている。

「南方週末」の元記者らによると、昨年1年間で書き換えや不掲載を命じられた記事は1034本もあったそうだから、元々、こうした情報統制は行われていたのだろうけれど、それをパスポートにまで広げるあたり、周辺国への配慮が無くなってきているように感じられる。或いは、もう遠慮することはないと傲慢になっていることの表れかもしれない。

このように中国は自国領土拡張のための宣伝の度を強めている。

筆者は、「習近平に対抗する『自由と繁栄のプロパガンダ』」のエントリーで、中国の情報戦に対抗するために、アセアン諸国や、モンゴルやネパール、インドの発展に協力した日本人にスポットを当てて映画化するとか、日本との結びつきを強調できる映画をバンバン作って宣伝したらどうか、と述べたことがあるけれど、やはり、安倍政権になって、「自由と繁栄の弧」構想を進めるのであれば、その対象国に対して、戦後の復興・発展に尽力した日本人にスポットを当てた映画でも作って世界的に広報すれば、実態としての援助・連携に加えて、マインドやイメージも連動して、更に強固な「自由と繁栄の弧」が出来上がるのではないか。

現に今もアセアン、中東で活躍する日本人は沢山いる。世界に確かに貢献し、これからも貢献する日本をもっと宣伝することもあっていい。




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この記事へのコメント

  • sdi

    中国側の当面の目的が「尖閣諸島の係争地域化」なのは首尾一貫してます。とにかくなんとかして「尖閣諸島は日本の領土ではない」というイメージを植え付けたいのてしょうね。
    仙谷元代議士が官房長官時代の領海侵犯・巡視船衝突事件が突発的であったのに比べて、「都有化を防ぐために国有化します」宣言以降の領海侵犯は以前の行動に比べれば計画的です。机上とはいえ作戦想定のようなものが検討がされていたのではないでしょうか。(格好の口実を与えてしまったのは日本側ですがね。)
    となれば、日本側も対抗策を長期的なプランで対抗しないと勝てません。自衛隊や海保の予算増額はよいのですが、来年度にまた元の額に戻ってしまうのでは意味がなく寧ろマイナスです。一定期間、私は10年間(5年目に一度再検討するとことを明文化)物価上昇分を見込んだベースアップを続けることを法案化するぐらいの手段が必要ではないでしょうか?
    なぜなら、日本における国境警備担当の準軍隊は海保です。当然のことですが、領海侵犯してくる警備艇の後背には中国海軍東海艦隊がいますから、これに対抗するのは海自の任務です。しかし、予算面で海自に比べて冷遇されていた海保の強
    2015年08月10日 15:23
  • 日比野

    白なまずさん。貴重な情報提供ありがとうございます。

    私も八田与一のアニメ動画をyoutubeで見つけていたのですが、日本語ではなかったので、貼り付けるのは諦めていたのですけれども、そうか、ニコ動がありましたね。ありがとうございます。

    それにしても、いくらでもネタがありますよね。どんどん広報していく手はあると思います。
    2015年08月10日 15:23

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