1月6日、岸田文雄外相は、記者団に対し、「大統領就任式の準備などで外交日程が組めない」と述べ、当初、安倍総理が調整していた1月中の訪米は難しいとの認識を示した。
アメリカ側は、表向きは、今月21日に行われるオバマ大統領の2期目の就任式、と月末に控えている一般教書演説などのスケジュールから、安倍総理を迎えるには時間が足りないとして、難色を示したことになっているけれれど、外務省幹部によると、本音では「オバマ大統領は会談で具体的な成果を望んでいる」ようで、早い時期の会談にそれほど意味を見出していない状況のようだ。
確かに、オバマ大統領としても、これまで日本の民主党政権に痛い目にあってきたから、慎重になるのも尤もだし、何某かの手土産がないと会談を設ける意味も薄いと考えるのも無理はない。
日本側は1月7日、外務省の河相事務次官をワシントンに送って再度の日程調整を行うと共に、TPPや歴史問題などについて、安倍総理の立場を伝える方針のようなのだけれど、安倍内閣では、TPP参加には消極的だし、歴史問題についても、たとえば河野談話の見直し等については、アメリカ側が懸念を示している。
昨年末、アメリカは、複数の日本政府高官に対して、「河野談話」などの過去の歴史認識の見直しは、韓国や中国と日本の関係悪化を招き、アジア太平洋地域の不安定化を招くとして、慎重な対応を求める意向を伝えたとされる。
だから、渡米した河相事務次官がどんなに一生懸命、日本の立場を説明したとしても、手土産は元より、アメリカを説得できるだけの何かがなければ、その先の進展は難しいように思われる。
しかも、オバマ大統領は、口だけだった日本の民主党政権を経験しているから、日本に対しても本当に約束を守ってくれるのか、という疑念を持っている可能性もある。だから、安倍総理としてもアメリカの信頼を得るだけのリーダーシップなり、実績を見せる必要がある。となると、やはり、アメリカとの約束事や、首脳会談で話した内容の履行を持って、手土産とする他ない。
では、現在、そうした取り決めや、議題に何があるかというと、大きくは次の4つがあると思われる。
1)普天間移設「日米首脳会談 ~野田首相となら仕事ができるか?」のエントリーでも述べているのだけど、これら4項目は、2011年9月に野田元首相が、オバマ大統領との初会談に先だって行われた日米外相会談の中でアメリカが日本に対して要求した項目。
2)環太平洋連携協定(TPP)参加
3)ハーグ条約
4)米国産牛肉輸入問題
あれから1年半たって、これら4項目について、どうなっているか。
、まず、普天間移設は御存知の通り、ルーピー鳩山氏のお蔭で暗礁に乗り上げたままだし、TPPについては、まず、国益に適うかどうかを見極る方針でいる。ハーグ条約については、2012年3月に閣議決定はされ、国会に提出されたものの、法案成立に至らず、11月の解散で、廃案となっている。唯一、米国産牛肉輸入問題が、昨年12月に、厚生労働省が輸入規制を緩和する方針を了承したことから、解決の目途が立ったくらい。
宿題4つに対して、一年半掛かって1つだけの回答で、果たしてアメリカが首脳会談に応じてくれるのかどうかは分からない。
それに、アメリカが懸念を示したという、河野談話見直しなどの歴史問題もある。これに対しても、アメリカを説得させることができなければ、何らかの妥協を迫られる可能性もある。だから、日米首脳会談といっても、結構色々なハードルをクリアしないといけない。
ただ、それでも安倍総理は、日米関係修復を外交の第一優先としている。まぁ、日本の安全保障を考えると、至極当たり前のことなのだけれど、であるが故に、自身の初の外遊先はアメリカでなければならない。そうしてこそ、アメリカを第一と考えているという外交メッセージになる。
安倍総理は内閣発足直後から、手を付けられる部分について、外交を始めているけれど、韓国にしても、ミャンマーにしても、特使や、麻生副総理の派遣までに留めている。更に、岸田外相もフィリピンとブルネイ、あるいはシンガポールを就任後初の外遊先として調整に入ったけれど、やはり安倍総理の外遊ではない。
今月23日には、スイスでダボス会議が行なわれるのだけれど、安倍総理は「いろんな情勢を考えたとき、なかなか難しい」として、これさえも見送る方針を示している。勿論、内政優先という事情も影響しているだろうけれど、やはり安倍総理は外遊を自重しているのではないかと思う。恐らく、アメリカとの首脳会談が行われるまでは、安倍総理自身の外遊はないとみる。
だから、その分、岸田外相、麻生副総理は積極的に動き回ると思われるし、両名の外遊先は、見事に「自由と繁栄の弧」構想に入る国々。外交戦略としては非常に明確。
事実上、安倍総理の名代となる、麻生副総理には、外交・内政と総理並の負担が掛かっている気がしないでもないけれど、日米首脳会談が行われるまでは、安倍総理の名代として、麻生副総理を始めとして、岸田外相や、特命特使が外交に動くケースが続くのではないかと思う。
この記事へのコメント
日比野
>安全保障問題の前倒しです。集団的自衛権問題に踏み込めるかどうかは分かりませんが、アメリカからの武器購入を打診する可能性は高まっているようです
なるほど、宿題がこなせないのなら、その他のことで点数を稼ぐ手ですか。有り得ますね。ただ、私的には、オバマ大統領は、日本に"約束を守るリーダー"を求めているような気がしてしようがないんですね。まぁ、交渉次第だとは思いますけれども、まずは、安倍総理がどうオバマ大統領の信頼を得るかがポイントかと思います。
opera
また、昨日のエントリーで述べられていた金融庁の「出口戦略」やコンサルティング機能の強化は、以前と同じではないにしても「行政指導」の復活を匂わせ、具体的な成長戦略の策定や国土強靭化(防災・減災)のための国土計画の再構築ということになると、近年の構造改革や規制緩和による自由化路線とは真逆の方向性になるかもしれません。したがって、TPPのような極端な自由化は、単に参議院選挙対策に留まらず、国益の観点からも実現は困難な状況だろうと思います。
ハーグ条約は条約の内容や留保条項、米国産牛肉輸入問題は輸入規制緩和の内容次第では妥結するかもしれませんが、普天間問題は無理でしょう。
となると、これもかつての手法が蘇るかもしれません。
参議院選挙までは景気対策を優先し、その他の問題は後回しにされるという見方がありましたが、安全保障問題の前倒しです。集団的自衛権問題に踏み込めるかどうかは分かりませんが、アメリカからの武器購入を打診する可能性は高まってい
sdi
翻ってみればバラク・フセイン・オバマ大統領にしてみれば、いよいよ「歴史に名を残すための4年間」が始まるわけです。就任演説にしても一般教書演説にしても、スピーチにより自国の有権者に訴えることを得意とするオバマ大統領にしてみれば「4年間」の最初のイベントですから準備にも力(ちから)が入っていることでしょう。この演説を通じて有権者の広範な支持を呼び起こして「財政の壁」問題解決への突破口にする意