金融円滑化法終了で倒産は激増するか

 
昨年12月12日のエントリー「民主党のネガティブキャンペーン選挙戦術は吉とでるか」のエントリーのコメント欄で、woods様から金融円滑化法案の終了後の影響について、質問をいただきましたので、本日のエントリーで、お返事させていただきます。

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1.金融円滑化法

金融円滑化法とは、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」の通称で、中小企業や住宅ローンの借り手が金融機関に返済負担の軽減を申し入れた際に、できる限り貸付条件の変更等を行うよう努めることなどを内容とする法律。

元々、2008年秋のリーマンショックに端を発する金融危機及び景気低迷による中小企業の資金繰り悪化等への対応策として、2009年12月から、2年間の時限立法として施行された。

なぜ、その期間を2年としたのか確たる理由は分からないけれど、おそらく、リーマンショックによる不況も2年あれば、なんとかなるだろうという読みがあったのではないかと思う。ところが世の中そう思った通りにはいかないもの。

不況は一向に回復の兆しを見せず、2011年3月11日には東日本大震災が起こって、中小企業は益々苦境に追いやられた。

そこで、金融庁は金融円滑化法を施行期間を二度延長し、2013年3月までとすることにしたのだけれど、金融円滑化法を利用する中小企業は多く、2012年3月現在で、貸付条件変更の申込み件数は累積で308万件、金額では85兆円、実行率は実に、9割を超える水準となっている。

それでも、この金融円滑化法は確かに企業の倒産の増加を食い止めたことは事実。

国内企業倒産件数は2009年に13306件数だったのが、2010年は11653件、2011年は11369件と2年連続で減少している。勿論これは、金融円滑化法だけでなくて、被災企業向けの特例措置なども効果を発揮したとされている。

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金融円滑化法を使用する企業については、徐々にその実態が明らかになり、貸付条件の変更のほぼ8割以上は再猶予の債務者で、更に経営改善計画を策定しないまま何度も貸付条件の変更だけを受けている債務者も一定程度いることが分かってきた。

金融庁によると、2012年3月末時点で、債務者の実態について次のように推計している。
1)実際の債務者数は、大体30万社から40万社程度(全国の中小企業数約400万社強の1割弱)
2)経営改善計画が策定できていないため、不良債権に陥っているに等しい債務者は、5、6万社程度
と、このような実態を踏まえて、金融庁は、金融円滑化法案の再々延長をしないとしていて、2013年3月末をもって終了することになっている。

ただ、実際の債務者数が全国の中小企業数の1割弱だとしても、それでも30万から40万社もあるし、不良債権化している会社が5~6万社もある。毎年1万件程度倒産している現状で、これら何万、何十万社が一度に倒産してしまうと、その影響は計り知れない。

そこで、金融庁は、金融規律の確保を図りつつも、再猶予を繰り返す5、6万社を特に支援の対象として、真の意味で経営改善につながる支援を強力に推し進めていくとする「出口戦略」を策定し、2012年4月には、内閣府・中小企業庁との連名で、中小企業等に対する支援措置を具体化した「政策パッケージ」を公表している。その内容は次のとおり。
A)金融機関によるコンサルティング機能の一層の発揮
B)企業再生支援機構(機構)及び中小企業再生支援協議会(協議会)の機能及び連携の強化
C)その他経営改善・事業再生支援の環境整備
Aについては、各金融機関に中小企業に対する具体的な支援方針や取組状況等を確認した上で、自助努力による経営改善が見込まれる中小企業に対して、必要に応じて、外部専門家や外部機関等と連携を図りながら、最大限支援するとしている。

Bは、財務内容の毀損度合いが大きく、債権者間調整を要する中小企業に対して、機構や協議会の機能と連携の強化で事業再生を支援する。

Cは、各県で、金融機関、事業再生の実務家、法務・会計・税務等の専門家、中小企業関係団体、国、自治体等で構成する「中小企業支援ネットワーク」を構築して、事業再生ファンドの設立の推進、資本性借入金の積極的な活用等に取り組むとしている。

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2.中小企業倒産の最大原因は販売不振

では、債務の再猶予を申請するような、"危ない"債権者が実際どの程度倒産しているかというと、東京商工リサーチが、金融円滑化法の貸付条件変更利用後の倒産件数について、2012年1-11月で、217件になったとレポートしている

これは年度を負う度に漸増しており、2010年は49件、2011年が150件。実際の債務者数とみられる30~40万社と比べれば、割合として少なく見えるかもしれないけれど、逆に言えば、金融円滑化法で資金繰りがついているから、この程度で済んでいるともいえ、その意味では金融円滑化法が停止となれば、倒産件数が大幅に増える危険があることは否定できない。

では、倒産した業種および倒産原因は何かというと、産業別では、製造業が62件(前年同期比87.8%増、前年同期33件)で、全体の約3割を占め、次いで、建設業が58件(前年同期比45.0%増、前年同期40件)、卸売業が37件、サービス業他が21件、小売業が16件、運輸業が14件。原因別では、販売不振が119件(前年同期比40.0%増、前年同期85件)で最多だった。また、既往のシワ寄せ(赤字累積)が43件(同65.3%増、同26件)、放漫経営が24件(同300.0%増、同6件)となっている。

特に製造業は前年同期比で87.8%増とトップで、倒産原因として販売不振がトップになっているということは、やはり、昨年の円高や、大手企業のリストラの一環で工場などが次々と閉鎖され、下請けとなる中小企業がそのあおりを受けたと見ることができるように思われる。

だから、アベノミクスによって、円安が継続していけば製造業の業績が回復する可能性があるし、震災復興が進めば、建設業だって助かるだろう。それ以前に倒産原因の一番が販売不振であるのだから、景気を回復させるのが一番の特効薬であることには違いない。

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ただ、その景気回復が金融円滑化法の終了期限である3月末にまでに間に合わなければ、やっぱり倒産するリスクを負う。

昨年の12月27日、麻生金融相はこの件について、再々延長はしないとした上で、「企業によって事情が異なるため、銀行には個別に十分対応するよう指示するのが金融庁の仕事だ」と、急激な変化が起きないよう対策を講じる考えを示している。

金融庁は、金融機関に中小企業再建のためのコンサルティング機能を発揮するよう求める監督指針は、そのまま残る為、金融機関には企業の経営改善に向けた努力を求め、再生できる企業には努力を傾注するよう求めるとしているから、行政指導の一環として、引き続き貸出条件の変更を継続させる意向のようだ。

これならば、表向きは金融円滑化法案は終了するものの、実態としては、金融機関がある程度はそのまま貸出に応じる形になる。

金融庁は、金融円滑化法の制定時に、中小企業に対する「貸出条件緩和の見直し」を実施し、金融検査マニュアルを改訂している。

今まで貸出条件を緩和した場合には、3年後にその債権が正常先となる実現性の高い経営改善計画が策定できなければ、不良債権に該当することとなっていたのだけれど、改定では、3年という年数を原則5年(最長10年)に延長し、更に、経営改善計画が策定されていなくても、改善の見通しがあれば、改善計画があるのと同様に取り扱う、即ち「不良債権」と見なさないと大幅に緩和している。

こちらの貸出条件緩和は、恒久措置であって、金融円滑化法案のように今年3月で終わりにはならないから、金融機関にとっては、これまで通り、貸付条件を変更しても「正常先」として新規融資できるようになっている。

去年の12月10日、帝国データバンクが、全国の金融機関を対象に金融円滑化法の期限切れ後に、借り入れ条件の変更済みの企業から、再度、返済延期などの依頼があった場合にどう対応するかのアンケートを取っているのだけれど、約6割の金融機関が「8割超の企業に応じられる」としていて、引き続き、多くの中小企業が金融支援を受けられるとの見通しを出している。

また、金融危機に対する融資という意味では、金融円滑化法案しかないわけじゃない。2012年10月には「経営力強化保証制度」が創設されている。

経営力強化保証制度とは、中小企業が金融機関および認定経営革新等支援機関の支援を受けながら経営改善に取り組む場合、保証料を概ね0.2%減免する制度で、使用者する中小企業は、外部の専門家等の支援を受けつつ、自ら事業計画を策定し、その実施状況を金融機関に対して四半期毎に報告、金融機関は、経営支援の実施状況を含め信用保証協会に対して年1回報告することになっている。保証限度額は2億8000万円、無担保保証は8000万円で、運転資金の場合は5年以内、設備資金の場合は7年以内で保障される。

大和総研は、貸出条件緩和措置が恒久措置であることから、「金融円滑化法の失効に伴い、急激な倒産件数の増加が起きるとは考えにくい」と、レポートしているけれど、金融円滑化法が終了後、引き続き、金融機関が貸出を続けるのであれば、そうそう倒産が続出する事態にはならないと思われる。

ただ、いずれにしても、景気回復が一番の対策であることには間違いない。

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この記事へのコメント

  • 日比野

    woods様、コメントありがとうございます。
    お返事(宿題)エントリーが年越しとなってしまい申し訳ありませんでした。
    円滑化法終了後は、私的には、行政指導をバックに、金融機関の融資継続がカギになるのかな、という気がしていますけれども、アンケートを見る限り、意外と支えようとする気持ちがあることに少し安心しています。あとは麻生さんの手腕ですかね。
    2015年08月10日 15:23
  • woods

    日比野様、今回のエントリー誠にありがとうございます。
    詳細な情報と新政権の動向でかなりの部分が分かってきましたね。
    先日の麻生財務大臣の円滑化法は終了するが、ただ単にはい終わりというわけじゃない、きちんと考えて行くという言葉と日比野さんの情報により多少安心が持てました。
    まあ、中小企業の支援の政策パッケージについては、銀行関係者や支援団体の方々とお話させてもらう機会があったので、こりゃああんまり期待出来ないなかという考えにはなっています。
    というのも、認定支援機関に新たになったところで、予算措置はなく(12月段階では)、実際の手数料をとってもいいみたいな感じだったので、中小企業者からすれば、そんなお金払ってまで計画書作っても、実際に融資に応じられないなんてことになるなら利用しないのではないかと思いました。
    しかしながら、まだ政策が確定的ではないので、今後予算措置が行われるのではないかと期待もしていおりますので、今後を見守りたいと思います。
    今回は本当にありがとうございました。
    今年1年、日本が本格的に復活していけるように小生も微力を尽くしたいと思います!!
    2015年08月10日 15:23

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