麻生副総理のミャンマー訪問と「自由と繁栄の環」
1月2日からミャンマーを訪問している、麻生副総理は、3日、首都ネピドーでテイン・セイン大統領と会談し、今月中に対ミャンマー債権の約4分の1を放棄し、500億円の新規円借款を供与することを確認した。
ミャンマーは現在、現在60億ドル(5300億円)の債務の返済が遅れているのだけれど、最終的に債権の半分以上を放棄し、一方で開発プロジェクト向けの新規借款を行う方針でいる。
麻生副総理は、債権の一部放棄について「ミャンマーは旧債務を抱えているために新規の投資ができないでいる。債権放棄はミャンマーの経済成長の障害を取り除くものだ」とした上で、ヤンゴンの近郊の経済特区であるティラワへの経済プロジェクト支援を再確認している。
ミャンマーに対しては、周辺国を中心に数多くの投資が行なわれているのだけれど、日本は遅れを取っている。2012年8月末の段階で、ミャンマーへの国別投資額は中国141.43億ドル、タイ95.68億ドル、香港63.71億ドル、韓国29.63億ドル、イギリス27.99億ドル、シンガポール18.52億ドルなどで、日本は13位で2.17億ドル。
現在、ミャンマーには、外国投資の受け皿として整備を急ぐ3つの経済特区(SEZ)がある。1つは北部のチャウピュで、2つ目が南部のダウェイ、そして、ヤンゴン近郊のティラワ。
1つ目の経済特区である北部のチャウピュには港があり、原油の陸揚げ港でもあることから、戦略上の要衝でもあるのだけれど、中国はこのチャウピュ港と雲南省とを結ぶ石油・天然ガスのパイプラインの建設に取り掛かっている。同時にチャウピュ港に、石油タンカー用の39の埠頭をはじめとする港湾、鉄道、空港、液化天然ガス施設などを整備するようだ。
2つ目の南部ダウェイはヤンゴンから南へ約360キロに位置し、経済特区は、ダウェイの中心部から車で山中を2時間ほど走ったところにあり、イギリス植民地時代からリゾートとして有名なマウンマガンビーチを抱える、風光明媚な場所にある。
全体の開発予定面積は約205平方キロメートルで、後に述べるティラワ経済特区の約10倍の広さがあり、開発費は総額130億ドル。計10万トンの船舶が停泊できる深海港や工業団地、石油精製所、製鉄所、発電所などを建設し、更に、タイの首都バンコクとを道路と鉄道で結び、石油・天然ガスのパイプラインも敷設される計画となっている。
ところが、計画当時のミャンマー軍政が開発をタイのゼネコン大手イタリアン・タイ・デベロップメント(ITD)1社に丸投げしていて、資金難から工事が停滞。現在でも、深海港の建設や工場用地の整備が手つかずで、海岸からまっすぐにタイに向かう道路だけが完成している状態のようだ。
最後の3つめのティラワ経済特区は、ヤンゴン中心市街地から約23kmに位置する約2400haの区域(東京ドーム約500個分)に、工業団地等の総合開発を実施するプロジェクト。
ただ、ティラワ経済特区も、経済特区とは名ばかりで、港湾こそ、香港の港湾管理会社ハチソン・ポート・ホールディング社(HPH)等の民間企業が運営して供用中であるものの、その他の電力、上下水道、情報通信等の周辺インフラは未整備。地面だけあって何にもない状態で、橋は道路すら十分でないという。
そうでなくても、ミャンマーはインフラが不十分なところがあり、現在稼働している工業団地でも、ちゃんと電気がくるのは1日に5時間とか6時間とかいう場所すらあるそうだ。
そんな状態で、ティラワ経済特区を開発しようにも、建材から建設機械からあらゆるものを持ってきて開発を始める必要がある。
だから、日本がミャンマーの経済特区開発プロジェクトに参入するだけ聞くと、聞こえは良いのだけれど、実際は結構大変。交通網や倉庫がちゃんとできてないと、内地から食料を運ぼうとしても途中で腐ってしまうし、その区域周辺のマーケットがどれくらいあるかについて、ある程度見えてこなければ、工業団地を作ろうにも、肝心の企業が進出してこない。ティラワはミャンマー最大の都市ヤンゴンから23kmと比較的近いから、そうした交通網の整備やマーケットの予測も立てやすいとは思うけれど、何にもないところで一から作るのは容易なことじゃない。
また、テイン・セイン大統領は、麻生副総理に対して、ダウェイ経済特区プロジェクトに参加すれば、ミャンマーはタイを経由してインド洋と太平洋を結ぶ「東西回廊」になれるとして、ダウェイ経済特区への開発参加を要請したそうなのだけれど、麻生副総理は検討すると答えたものの、具体的な言及は避けている。
何でも、ミャンマー側がダウェイ経済特区プロジェクトについての十分な説明をせず、日本側も返事のしようがなかったようなのだけれど、現地が、海岸からタイに向かう道路だけあって、後は一切手つかずの状態なのだから、やはりしっかりとした計画や説明を聞いてからにしたほうが賢明だろう。
それでも、困難とはいえ、今の時期に日本がミャンマー支援に動くことは、勿論大きな意味があると推測される。麻生副総理は、テイン・セイン大統領との会談の際、「最初に出た閣僚が選んだ国がミャンマー。我々のメッセージがお分かりと思いますが」と述べている。安倍内閣が、戦略的にミャンマーを重要視していることはこれをみても明らか。
安倍総理は、先日、イギリスのキャメロン首相、オーストラリアの ギラード首相、インドのシン首相、インドネシアのユドヨノ大統領、ベトナムのグエン・タン ・ズン首相とロシアのプーチン大統領と電話会談を行っているけれど、これらの国々を安全保障の観点から、安倍総理自身が選んでいる。そして、今回麻生副総理が、ミャンマーを訪れた。
これらのことから、安倍内閣が、かつて麻生副総理が提唱していた、「自由と繁栄の弧」構想の実現を目指しているのはほぼ間違いないものと思われるし、同時に、中国包囲網をも構築しようとしているとみていいだろう。
筆者は、「自由と繁栄の弧」構想が提唱された2007年当時、自由と繁栄の弧ができると、ヨーロッパ、ロシアを含めてやれば、中国を包囲する「自由と繁栄の環」が構築される、と述べたことがあるけれど、今回安倍総理は、ロシアも安全保障の観点に加えている。だから、この「自由と繁栄の環」は現実のものになろうとしているとも言える。
その意味では、ティラワ経済特区プロジェクトは成功して欲しいと思うし、ミャンマーを自由と繁栄の環に迎える日を期待している。
この記事へのコメント
opera
その意味で、「自由と繁栄の弧」構想は非常に有益です。
・ミャンマー支援、債権3000億円放棄 野田政権
http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201204190253.html
・オバマ大統領、ミャンマー訪問 138億円援助表明へ
http://www.asahi.com/international/update/1119/TKY201211190300.html
・オバマ氏ミャンマー初訪問 対中切り崩しへ「一歩」 時期尚早との批判も
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121119/amr12111919160002-n1.htm
sdi
ミャンマーの強みは食糧、特に主食の自給率でしょう。発展途上国にとって取得する手段が限られている貴重な外貨を国民が食べると消えてしまう食料に費やすのは、やむ終えない事とはいえもったいない話です。それが借款などで得た外貨だったらなおさらです。経済が発展していくにつれて、人口増や労働人口の移動が起きて自給率が低下するのは必然かもしれませんが、跳躍する前準備として自給率の高さはアドバンテージの一つではないでしょうか?あと、エネルギーの供給問題も似た性質かもしれません。
日本の対外援助はミャンマーも含めて「魚を買う資金
洗足池
ちび・むぎ・みみ・はな
原子力発電所が一番ではないか.
白なまず
【大東亜戦争 ビルマ独立と日本との関係 】
http://www.youtube.com/watch?v=vZFaIo8uEEc