未来に拡がる3Dの世界

 
3Dプリンターが静かな人気を集めている。

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3Dプリンターとは、その名のとおり、3次元の立体物を造形するプリンタのことで、3DのCADデータを基に、造形する。

立体物を造形する方法には大きく「積層造形法」と「切削造形法」の2つがある。

積層造形法とは、製品の3次元CADデータをスライスし、薄板を重ね合わせたものを元データとして作成し、それに粉体、樹脂、鋼板、紙などの材料を積み重ねてして試作品を作成する方法で、切削造形法は、石から彫刻を削り出す方式。

どちらもCADデータさえあればよく、金型を必要としないのだけれど、一般的に3Dプリンターは積層造形法によるものを指し、切削造形法によるものは3Dプロッターと呼ばれる。

3Dプリンターの歴史は実に30年近く前に遡る。

今から26年前、チャック・ヒルという人物が立体リトグラフに関するパテントを取得したことがその始まりだとされているのだけれど、1984年~1993年頃までは、積層造形法は光造形法と呼ばれていた。これは、光硬化性樹脂を紫外線レーザで硬化させるタイプの装置が主流であったことによる。

当時から、3Dプリンターは、航空宇宙産業や自動車産業などで試作品を作る際に利用されていたのだけれど、当時の3Dプリンタは非常に高価で、一握りのユーザーだけにしか利用価値はないとされてきた。

ところが、近年、3Dプリンター機器の低価格化や3D出力サービス事業者の登場等によって、産業用3Dプリンター市場は拡大を続けており、この20年で年率26%もの成長を遂げている。3Dプリンター市場は、2013年現在の23億ドルから、2019年には65億ドルになると見られている。

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現在、3Dプリンターを製造する企業は世界で20社余りあるのだけれど、合従連合が進んだ結果、今では、アメリカのStratasys社、3D-Sysytemssya社とドイツのEOS社の3社の寡占状態となっている。

巷では、この3Dプリンターを使った作品等がちらほらと出始めているようで、例えば、映画『007 スカイフォール』で爆破されたアストンマーチンDB5なんかは、3Dプリンターで出力されたレプリカだったらしい。

3Dプリンターの可能性は宇宙にまで広がろうとしている。1月31日、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)は、3Dプリント技術を利用した月面基地建設計画を明らかにしている。

これは、月面に4人用の基地を建設するプランで、基地はドーム型の建物をいくつか組み合わせた形状になっている。ドームの内側には地球から運んだ円筒形の部材があり、それを中心に膨張式のドームを設置する。これらの部材は折りたたんで、地球から月面までロケットで運べるようになっているのだけれど、このドームをガンマ線や隕石から守るための分厚いカバーを、3Dプリンターを搭載した車で施工するのだという。材料には月面を覆っている「レゴリス」という砂を使い、内部に小さな空洞を作りながらカバーを施工するとしている。

既に、欧州宇宙機関(ESA)は、イタリアのピサにある6m角の巨大3Dプリンター"D-SHAPE"を使って、モックアップを作成しており、月面の環境を再現するために、真空中で重さ1.5tの空洞入りカバーの造形に成功している。ただ、地球上の建物を造形するためには、やや強度が足りないそうで、更なる改良が期待される。

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また、Deep Space Industries(DSi)という新興企業も、1月22日、地球近傍小惑星に向けて超小型宇宙船の艦隊を送り込み、採掘した資源から3Dプリンターで部品加工する構想を発表している。

この構想は、まず、「CubeSat」と呼ばれる安価なミニ人工衛星を組み合わせて25kgの機械に作り上げた「FireFly」と名付けた探査用宇宙船艦隊を編成し、地球近くの小惑星に送り込むことから始まる。

「FireFly」は、採掘に最も適した小惑星に関するデータを収集し、その後で「DragonFly」という名の更に大きな宇宙船を打ち上げ、小惑星を往復し、サンプルを持ち帰る。「DragonFly」の1回の往復には2~4年かかり、小惑星の物質を最大で70kgまで地球の軌道に運ぶことができるとDsi社は見込んでいる。

ただ、小惑星からサンプルを持ち帰るというのは、先年、話題となった「はやぶさ」と同じことをやるということであり、非常に高度な技術が要求されることは間違いない。DSi社の発表によると、この構想にはNASAや、いくつかの企業が関わっているそうなのだけれど、現時点では中々にハードルが高い構想だと思われる。

まぁ、ここまで大がかりな構想は別として、3Dプリンターによって、金型なしで、自由な造形が可能になったとことは大きい。これまで、極一部の人しか手にできなかった立体物が、安価に一般の人にも届くようになったから。

これは、一般の消費者が同時に、そのまま創造者や生産者にもなれることを意味してる。パソコンのお絵かきソフトとインターネットの普及によって、一般の素人からプロ顔負けの"絵師"が数多く生まれ、初音ミクの登場によって、庶民の中から"作曲師"が登場するようになった。これと同じことが、3Dプリンターの登場によって起きようとしている。

おそらく、一般大衆の中から創造的な立体作品を作り上げる"造形師"が次々と姿を現してくることになるだろう。

すでに昨年の夏、造形メーカー海洋堂の主催する、世界最大のガレージキットのイベントである「ワンダーフェスティバル2012[夏]」において、CADソフトでデザインしたフィギュアを3Dプリンターで出力して製作された作品が展示されている

そこでは、天使の翼を持つ初音ミクやクリスタルブロックなど3Dデータから出力した立体作品が展示されたのだけれど、その造形は驚くほど精巧で、3Dプリンターの可能性をまざまざと感じさせる。

こうした立体物を容易に作れるようになると、単に、精巧なものを作るということだけではなく、何をつくるのかという「創造性」の部分がより大切になってくる。

もう5年も前の記事になるけれど、筆者は「心と商品」というエントリーで「これから個人の"心のかたち"を自分で表現するサービスが当たり前になり、個人の心の形がいろんな表現形式で溢れてくるようになる。そして、その"心のかたち"の質がより問われる時代がやってくる」と述べたことがあるけれど、まさにそんな時代がやってきた。

心のかたちが"形"になる時代。創造の価値に光が当てられる。




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