軍事挑発を再開させた中国

 
2月9日、中国軍が尖閣での挑発行為を再開させた。

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これは、日本が2月5日に中国による射撃管制レーダー照射を公表して以降、挑発行為を止めていたのを破るものであり、小野寺防衛相が9日午前に「尖閣周辺の公船の動きが収まっている」と述べたことに反発したものと見られている。

9日には中国海軍のY8の1機と空軍戦闘機J10の2機が領空に接近し、10日には、中国の海洋監視船「海監」4隻が、尖閣周辺の接続海域に侵入した。

今回の、射撃管制レーダーによるロックオンについて、一部マスコミは、軍の暴走ではないか、という報道をしているけれど、中国軍に挑発行為を止めたり、再開させたりしているところを見る限り、中国政府は軍をしっかりコントロールしていると見るべきではないかと思われる。

つまり、中国は国家意思として、尖閣強奪を志向しているということ。"侵略国家"のレッテルは中国にこそ貼られるべき。勿論、中国は、表向きに"侵略国家"にはなりたくない。あくまでも自衛の範囲内という立場に立ちたい。従って、挑発行為を繰り返し、自衛隊に先に手をださせることで、大義名分を得ようとしている。

今回のレーダー照射については、日本政府による「ロックオン」公表によって、先に手を出したら、その証拠は全世界に発信されるという状況となった。ゆえに、再び中国が「ロックオン」することは難しくなった。

その意味では、「ロックオン」されても、反撃せず、回避行動とデータ収拾までに留めた自衛隊の判断は是とすべきだろうと思われるし、よく耐えたと思う。

ただ、それで中国が大人しくなるかといえば、全くそんなことはない。それは挑発行為を再び繰り返したことを見れば明らか。

ジャーナリストの宮崎正弘氏は、中国軍の狙いについて「自衛隊の軍事攻撃を引き出すことにある。『先に攻撃された』という事実を作り上げるため、ありとあらゆる手段で挑発を繰り返している。…今回のレーダー照射で砲撃のデモンストレーションは済ませた。次は尖閣周辺に展開する護衛艦や哨戒機などに砲撃を仕掛けてくる可能性がある。ただ、表立った軍事行動は起こさない。あくまで『自衛隊への反撃』というポーズを取るため、闇夜に紛れた奇襲に出てくるのではないか」と述べている。

日本政府は、今回のロックオンについて、データの公開を検討しているけれど、このカードは上手く使うことで、中国軍が取り得る戦術の選択肢を狭めることが可能になる。

これまで、各種報道がされているとおり、射撃管制レーダーは、精密照準を行なうためのものだから、相手の位置と距離を正確に測定できなければならない。

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レーダー(Radio Detection and Randing)は、電波を目標物に照射することで、目標から反射したレーダー波(反射波)を受信するまでの時間(伝搬時間)から、目標までの距離を測定し、アンテナから放出するレーダー波の方向から目標の方位を求める。また、反射波の周波数の変化から、ドップラー効果を利用して、目標との相対速度を算出している。

従って、レーダー波は、波長の短い電波ほど、解像度が高く、長い電波ほど、解像度は低くなるのだけれど、その一方、波長の短い電波ほど、酸素や水蒸気などに吸収されたり、霧や雲、又は雨や雪などで、散乱したり、減衰したりする度合が大きくなる弱点がある。

従って、遠距離の目標をいち早く発見する必要性のある捜索用の対空レーダーや水上レーダーは周波数が低い電波を用いる傾向があり、逆に、射撃管制レーダーなど、目標の形・大きさなどを精密に測定する必要性のあるものは周波数が高い電波を用いる傾向がある。

一般的に、対空レーダーや水上レーダーには、Cバンドと呼ばれる、4GHzから8GHzの周波数の電波が使用され、射撃管制レーダーには、Xバンドと呼ばれる、8GHzから12GHzの周波数の電波が使われる。

今回のように、射撃管制レーダーを照射されると、そのレーダー波の特性を詳細に分析できることになるのだけれど、それによって、相手の射撃管制レーダー波を攪乱したり、妨害したりすることが出来るようになる。そうすることで、相手の砲弾やミサイルをあさっての方向に撃たせたり、自分の船を探知させなくすることが可能になる。

また、相手レーダー波の仕様が明らかになることで、それによってコントロールされている火器の射程距離や命中精度までもが、ある程度推測できるようになる。

つまり、射撃管制レーダーの仕様は、そのまま軍事機密に直結し、それをバラされることは、安全保障上の脅威にもなってしまう。

だから、仮に、日本が、中国軍の射撃管制レーダーの情報を公開することは、そのまま同盟国および周辺国の国防体制にも大きな影響を及ぼすことになる。

例えば、中国軍の射程が分かれば、それより長い射程を持つ兵装を備えることで、相手の攻撃が当たらない距離からのロングレンジ攻撃が可能になるし、また、中国の射撃管制レーダーの仕様に基づいているであろう中国製の武器も売れなくなる。特に、中国製の武器を買っている国はビクビクしているだろうし、また、それが、J15のようにロシアのパクリかなんかだったとしたら、ロシアも黙っていないだろう。

勿論、射撃管制レーダーの情報公開を無効化するためには、使用する周波数を変更したりすればよいのだけれど、それは当然、それに連動する一切合財の兵装を全部更新することになり、費用も時間も必要になる。

従って、中国の射撃管制レーダーの情報公開というのは、それだけで十分な「外交カード」であり、中国軍の軍事行動を牽制することにもなり得る。

だから、今回の情報公開するぞ、というカードはうまく使って、時間を稼ぐべきであり、その間に、自衛隊法を含む国防の強化を急ぐべきではないかと思う。




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この記事へのコメント

  • 洗足池

    最も重要な事は日本人が中国と戦争する覚悟ができているかだ。大多数の日本人はその覚悟はない。財界は全くない。

    中国はどうか?少なくとも軍部は日本との開戦を恐れていない。米国はどうか?日中の軍事衝突の巻き添えになりたくない。だから日本にも自制を促している。(正確には日中双方に自制を促している)

    中国は挑発のステージを少しずつ上げていくだろう。結局、チキンレースとなり、引いた方が負けとなる。戦争する覚悟のない日本の負けとなるのは自明のことである。

    現代の戦争は命の安い国の勝ちと決まっている。だから米国はアフガニスタンから撤退するのだ。自衛隊員が死亡すれば約8,000万円が国から支払われる。米国の兵隊の死亡補償金は100万円以下。中国兵の場合は10万円以下だろう。日本が中国に勝てる訳がない。
    2015年08月10日 15:23

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