1月31日、政府は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出する世界自然遺産の「暫定リスト」に、「奄美・琉球」を追加することを決めた。今後、対象地域を決定したうえで保護計画策定を進め、2016年の登録を目指すという。
これらの地域は、アマミノクロウサギや天然記念物のヤンバルクイナなど、その地域にしか生息しない固有種が多く、2003年には、知床、小笠原諸島と共に遺産登録の候補地に選定されていた。ところが、外来種のマングースによって、アマミノクロウサギが捕食されるなどの問題があり、「十分な保護措置がとられていない」として暫定リスト入りが遅れていた。
世界遺産登録には自然保護対策が必要であるため、環境省は地元関係者との調整を本格化させる方針でいるのだけど、2月3日、沖縄県石垣市が尖閣諸島を世界遺産にするよう政府に働きかける方針を示したことが明らかになった。
石垣市は、尖閣諸島を世界自然遺産の「暫定リスト」の対象地域に含めるよう国に求めるとともに、登録に向けた現地調査を実施できるよう働きかけるとしている。尖閣諸島は、国の特別天然記念物のアホウドリの生息地であるなど、固有種を含めた動植物の宝庫としても知られているのだけれど、島への上陸が難しいこともあって、候補地の対象とはされていなかった。
石垣市の中山市長は「国際機関に登録が認められれば、尖閣諸島が日本の領土ということがより一層、明確になる。…現地での学術的な調査が必要」と国に協力を求める方針を掲げている。
仮に、尖閣諸島が、世界自然遺産となれば、それは、「人類共通の遺産として保護すべきだと認められた生態系や自然環境」と世界から認定されたことになるから、勝手にその環境に手を加えることは出来なくなる。例えば、灯台を建てたり、人を常駐させたり、滑走路や船溜まりを作るなんてのは出来なくなるだろうし、付近海域の漁業だって大きく制約を受けることになる。密漁なんてもっての外。
つまり、尖閣を世界遺産に登録するということは、今の尖閣をそのまま手つかずにして保護していくということであり、その意味では、"永遠かつ究極の棚上げ"であると言える。
東海大の山田吉彦教授は尖閣を世界自然遺産に登録することについて「世界の目をもって尖閣諸島の周辺海域を監視するということになる。周辺海域の海洋資源、水産資源の保全のほか、中国に軍事拠点を作らせないという意味でも登録はメリットがある」とコメントしているけれど、そのとおり。特に「中国に軍事拠点を作らせない」という効果は大きい。
筆者はこれまで、何度か「尖閣は中国にとって、太平洋に出るための玄関口であり、尖閣を手にいれれば、橋頭堡として港を作るだろうし、場合によっては潜水艦の基地をも造るだろう」と指摘したことがあるけれど、日本のエネルギー安保は、尖閣を含めたシーレーンの防衛なくして成り立たない。
だけど、「中国に軍事拠点を作らせない」ということは、「日本も軍事拠点を作れない」ということでもあるから、世界遺産登録という方法には、結構"諸刃の剣"的な要素もあることは忘れちゃいけない。世界遺産に登録されたからといって、途端に尖閣に近づくことを止める相手であれば、最初から苦労はしない。
ただ、現実問題として、今の尖閣は中国の目論見どおり、外部からみて"係争地化"しつつある上に、現地調査および、自然保護対策の策定など、超えるべきハードルは決して低くない。尖閣の世界遺産登録は、国有化以上のインパクトがあると思われるので、戦争の引き金になる可能性すらある。
案の定、中国は2月5日、香港紙・文匯報は、「石垣市は釣魚島を世界自然遺産の申請リストに加えるよう求め、実地調査をせよなどと訴えているが、島を占領しているという既成事実を作り上げようとしているにすぎない。日本は再三にわたって様々な手段で釣魚島を占拠しているが、すでに膠着状態にある中日の対立がさらに激化することになるだろう。」と反発している。
この発言のどこまでがブラフでどこからが本気なのか計りかねる部分はあるのだけれど、少なくとも、火器管制レーダーを平気で照射してくる相手であることははっきりしている。いずれにしても、それなりの備えと覚悟をした上での対応が求められる。
この記事へのコメント
sdi
・世界遺産構成資産の文化財保護法による指定
・緩衝地帯(資産を重層的に保護するために利用を制限する地域)の設定
・保存管理計画の設定等の国内法整備
・「世界遺産条約履行のための作業指針」の登録基準への適合
・資産の真実性の証明(意匠、材料、技術、環境がオリジナルな状態を保っていること)
が必要です。
特に最後の項目が曲者(笑)かな、と思っています。「資産の真実性の証明」するためには、当然証拠を揃えなくてはならず、証拠を揃えるためには「現地調査」が必要ですよね?しかも、申請理由が「この地域の独特の生物種とそれが生息する環境」であるなら、その生態を調査しなくてはなりません。生態調査ですから、「一定期間」継続的かつ定期的な観察・調査ということになるでしょうね。魚釣島にどんな生物がいるか、調査結果が楽しみです。