昨日のエントリーのコメント欄で、almanos様から、偏向報道対策としてのISOの活用についてどう思うかとご質問をいただきましたので、今日のエントリーでお返事の代わりとさせていただきます。
1.ISO26000とは何か
ISO26000とは、2010年11月に国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)より発行された「社会的責任に関する手引き」のこと。
ISOは、工業に関する国際標準を策定する非営利団体で、スイスに本部がある。日本ではJISマークの日本工業規格がこれにあたる。
ISO26000は、過渡期の経済や先進国や途上国での公共および民間のセクターの全ての組織が使用することを意図して作成され、社会的責任に関する世界的な最良の実施例の実施を奨励するものと位置付けられている。
ただし、他のISO標準規格とは異なり、認証機関による認証を要求してはおらず、ガイドラインとして位置付けられているところに特徴がある。
ISO26000に記載されている内容は次の7項目。(こちらにISO26000の和訳版である「JISZ26000」が掲載されている)
1.適用範囲:認証を目的としていないこと、あらゆる組織での活用が可能ISO26000では、これら各項目について、更にサブ項目が設けられているのだけれど、どの項目も、その背景や定義と具体的方法が述べられている。
2.用語、定義及び略語:使用する用語の特定と定義
3.社会的責任の理解:社会的責任の進展に影響を与えた重要な要素並びに条件
4.社会的責任の原則:包括的な原則を紹介、説明
5.社会的責任の認識及びステークホルダーエンゲージメント:組織と関係者、社会との関係についての手引き
6.社会的責任の中核主題に関する手引き
7.組織全体に社会的責任を取り入れるための手引き
つまるところ、ISO26000とは、「社会的責任とは何か」ということと「社会的に責任のある方法で運営するために組織が行う必要のあることは何か」という2点について、世界共通となるガイドラインを提示したものだと言える。
その意味では、4項の「社会的責任の原則」と6項の「社会的責任の中核主題に関する手引き」はそれぞれ「社会的責任とは何か」と「社会的に責任のある方法で運営するために組織が行う必要のあることは何か」について説明した項目であり、注目すべき部分だと思われる。
その4項と6項のサブ項目は次のとおり。
4-1.「社会的責任の原則」とまぁ、中身は至極真っ当なことが書いてある。だから、原則、これらを守ることが出来ていれば、企業体として大きく問題になることはないだろうし、逆に、守ることなく無視すれば問題ある組織であると見做されることになるだろう。
4-2.説明責任:組織は自らが社会や環境に対して与える影響に説明責任を担うべき
4-3.透明性:組織は透明性を保つべきであり、社会及び環境に与える影響について必要な範囲で情報を開示すべき
4-4.倫理的な行動:組織の行動は、正直・公平・誠実という3つの倫理観に基づくべき
4-5.ステークホルダーの利害の尊重:関係者の利害と、社会のより幅広い期待及び持続可能な開発との関係を考慮に入れる
4-6.法の支配の尊重
組織の関係及び活動は、関連する法的枠組みの中で実行されるようにし、法令遵守の状況を定期的に見直すこと
4-7.国際行動規範の尊重
法の遵守と同時に国際行動規範も尊重し、国際行動規範を守れない他組織の行動と共謀を避けること
4-8.人権の尊重
人権尊重の重要性と普遍性を認識し、人権が保護されていない状況を悪用しない
6-1.「社会的責任の中核主題に関する手引き」
6-2.組織統治:組織は、社会的責任の原則を実現できる意思決定システムを持つべき
6-3.人権:組織は人権を守る責任と人権の危機に対処する責任がある
6-4.労働慣行:雇用関係・労働条件・団体交渉権・安全衛生・人材育成等で遵守すべき項目
6-5.環境:汚染の予防・持続可能な資源の使用・自然環境の保護等で遵守すべき事項
6-6.公正な事業慣行:汚職防止・政治への関与・公正な競争・社会的責任の推進等で遵守すべき事項
6-7.消費者課題:誤りの無い情報提供・サービス提供&苦情処理・情報保護等の遵守事項
6-8.コミュニティ参画及び開発:コミュニティへの参画、教育・文化・雇用・技能開発等の遵守事項
例えば、4-6の「法の支配の尊重」なんて法治国家であれば当然のことで、いちいち説明するまでもない。また、対マスコミという意味で、筆者が注目したいのは4-2の「説明責任」の項。本文には次のように規定されている。
4-2.説明責任このように、ISO26000では、「自らの決定及び活動が、社会、環境及び経済に及ぼした影響」について説明責任を負うべきだとしている。これに従えば、例えば、2009年の総選挙で、マスコミが政権交代だと煽りに煽って、民主党政権を成立させたことについての説明責任があってしかるべきだし、また、民主党政権による莫大な国益の損失について、たとえ「故意ではなく、かつ、予想できなかった」としても、その再発を防ぐためにとる行動についての説明責任を負っている。
原則:組織は、自らが社会、経済及び環境に与える影響について説明責任を負うべきである。
この原則によれば、組織は、適切な監視を受け入れ、監視に対応する義務を受け入れるべきである。
説明責任によって、経営層はその組織の支配権をもつ人々に対して説明する義務を負い、また、その組織は法規制に関し、規制当局に対して説明する義務を負う。また、組織の決定及び活動が社会及び環境に与える全体的な影響の説明責任とは、組織が自らの決定及び活動によって影響を受ける人々及び一般に社会に対して、報告を行う義務が、その影響及び状況の性質によって変わることを意味している。
説明責任を果たすことは、その組織及び社会の双方に対してプラスの影響を及ぼすだろう。説明責任の程度は様々かもしれないが、常に、権限の大きさ又は範囲に対応しているべきである。最大の権限をもつ組織は、自らの決定及び監督の質に関してより細心の注意を払うのが一般的である。説明責任には、不正行為が行われた場合の責任をとること、その不正行為を正すために適切な措置をとり、不正行為が繰り返されないよう予防するための行動をとることも含まれる。
組織は、次の事項に説明責任を負うべきである。
#NAME?
- 故意ではなく、かつ、予想できなかったマイナスの影響の再発を防ぐためにとる行動
2.偏向報道是正にISO26000を使う功罪
筆者は、国民がマスコミに対して不満を持つ理由のひとつには、その責任を取らない姿勢にあると考えている。仮に偏向報道をしたとしても、直ぐにその責任が問われ、社長なり役員なりの首が飛ぶのであれば、ここまでメディア不信が募ることはないだろうと思う。
特に、2009年、2012年と、わずか3年半で2回も政権交代があり、マスコミの民主党と自民党に対する報道の仕方の違いに気づいている人も多い。であれば、なぜそうなのか、という説明責任は当然問うべき。
ただ、ガイドラインが出来たから、マスコミがそれをきちんと守るのであれば何も苦労しない。あるいは、マスコミはISO26000は認証規格ではなく、ただのガイドラインだからと、口だけ遵守してます、と言ってはほったらかしにする可能性は否定できない。
だから、例えば、マスコミが何か偏向報道をしたと思ったときなどは、放送法4条の「報道は事実をまげないですること」や「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に反しているから調べてくれと、マスコミにいうよりは、スポンサーに問い合わせた方が効果はあるだろうと思われる。
ISO26000の4-6「法の支配の尊重」には、「組織は、国際行動規範とは整合しない他組織の活動に加担することを避けるべきである。」とある。従って、マスコミが"国際行動規範とは整合しない"活動をしているのであれば、そこをスポンサーになっている企業は、ISO26000を守っていない組織だということになる。
これは、ISO26000の遵守に力を入れている企業であればあるほど、敏感に反応することになる。だけど、ここで注意しなければならないことがあるとすれば、客観性の部分だと思う。
たとえば、ある番組が「事実を曲げて報道している」と思うと言って、そのスポンサーに「違法行為に加担」していないか調査してくれ、と依頼したとしても、その曲げたという"事実"とやらをスポンサー自身が持っているわけじゃない。だから、調査といっても事実関係の確認は非常に困難であることが予想される。
つまり、スポンサーにしてみれば、加担してはいけない「違法行為」とやらを確認・認定するのが非常に難しいがゆえに、あまり踏み込んだ判断はできないのではないかと思う。要するに、スポンサーの調査結果も、木で鼻を括ったような通り一遍の回答になるのではないかという懸念はある。
また、余りにも、ISO26000に抵触しているとジャンジャン調査依頼がくると、スポンサー側も調査コストがどんどん嵩んでくる。勿論、社会的責任を果たすために、ある程度のコストが掛かることは想定しているにしても、やはり限度というものはある。だから、許容量を超える調査依頼がくるような番組だったら、もう業務に支障をきたすということで、スポンサーを降りるという判断になるかもしれない。
仮に、スポンサーを止める判断を下す企業が大勢となるような流れになったとすると、マスコミはマスコミで、なんとかスポンサーを続けて貰えるように、あまり文句が出ないような番組ばかり作るようになるだろう。
それは、公平中立な番組であれば、理想ではあるのだけれど、公平中立ということは、逆にいえば、右からも左からも文句が出る訳で、数の大小はあるにせよ、やっぱりスポンサーにISO26000に基づいた調査以来がいってしまう。スポンサーにしてみれば、それもあまり好ましいものではないだろう。
すると、それさえも避けようとすると、もうこれは「報道しない自由」を行使しまくって、少しでも視聴者の意見が分かれそうな事案は、ことごとく報道せずに、なかったことにしてしまうしかなくなってしまう。
だから、折角、ISO26000を使って、偏向報道をなくそうとしてみても、下手をすると、何もない"無向"報道ばかりになってしまうかもしれない。何も報道されない社会は、これはこれでよろしくない。
従って、筆者はこのような事態を避ける意味でも、偏向報道しているか、してしないか、或いは、放送法を守っているかいないか、というよりは、何故そのような放送をしたのか、何故そのような編集をしたのか、という「説明責任」の部分を果たすように依頼した方がよいのではないかと思う。
スポンサーにとっても、事実かそうでないかという難しい調査を依頼されるよりも、御社がスポンサーをしている番組は「説明責任を果たさない」と思うから、善処してください、と言われるほうが、ずっとやり易い。スポンサーをしている番組に、「説明をしてください」といって正式回答を貰えばいいだけだし、回答が不十分だと思えば、突き返して、再度回答させればいい。
マスコミが説明責任を果たしたか、果たしていないかは、誰の目にも客観的に分かることだから、スポンサーも降りる降りないの判断もしやすいし、角も立たない。
どこかの新聞社のように、安倍総理を叩くのが社是なのであれば、そういう説明をして社会的責任を果たすべき。もしも、マスコミが説明責任を果たした上で、それでも批判を受けるのであれば、持って瞑すべし。
この記事へのコメント
白なまず
昔ISO9000シリーズを国内企業が導入を始めたころ、一部のキチンとした企業は何で、欧州のレベルに合わせて、品質基準を下げなければ成らないのかと言う意見を聞きましたが、日本人とは価値観が違うとか、ISOを取得しないと欧州へ輸出できない等の理由から、本質的な議論が無くなっていったと思います。
日本人の価値観を最優先にしたいのであれば、ISOなんて畜生どものルールではなく、日本人の道徳によるものでなければ、誰も納得できないのではないでしょうか。
almanos
ちび・むぎ・みみ・はな
都合の悪いことを一切報道しなくなったメディアは
間違いなく「消費者」から見離される. 従って,
ISO によって報道できないようにしてしまうのは
良い長期作戦だ.
それから, 海外と競争をしている企業は足元でも
注意を払わなければならない. 何故なら, 海外,
特に欧米はあからさまな自国優先をするので,
ISOを遵守していないといクレームは非常に恐い.
欧米から生まれたISOを国内基準で考えてはなるまい.