北京毒霧と偏西風

 
中国各地の大気汚染が深刻化している。

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特に深刻なのは北京市で、1月でスモッグがなかったのはわずか5日間しかなかったそうだ。だけど更に深刻なのは、その汚染度で、1月12日には、北京で大気汚染指数(AQI:Air Quality Index)が過去最高の755を記録したという。

大気汚染指数(AQI)とは、毎日の大気汚染状態を示す指標のことで、大気がどのくらい清浄か、又は汚染されているかを示し、さらに汚染された空気中で数時間又は数日過ごした場合の健康への影響の尺度となっている。

大気汚染指数(AQI)には0~500の尺度があって、大気汚染指数(AQI)が高いほど大気の汚染がひどく、健康への影響も大きくなる。通常は、大気汚染指数(AQI)が50の場合、大気の汚染状態は「良好」で健康への影響はほとんどなく、100を超えると、汚染状態は敏感な者に対して不健康とされる。大気汚染指数(AQI)が300を超えると汚染状態は「危険」となり、すべての者に対し、健康への影響を及ぼす可能性が高いとされる。

だから、北京で記録した大気汚染指数755というのは、尺度の最大500を更に振り切るほどの凄いものであることが分かる。

北京の大気汚染の原因について、市当局幹部は、厳冬で暖房用の石炭使用が急増したことに加え、自動車の増加や景気テコ入れのための建設工事拡大などの影響を指摘し、更に北京市内に吹く風の風速が低下し、湿度が高かったことで有害物質が地表に滞留したとしている。

1月14日には、北京市当局は、58企業の操業停止、41企業の減産を命じ、公用車の利用を30%減らすことを決めたのだけれど、それでも汚染は改善せず、遂に29日には操業停止企業を103社まで拡大し、20社以上に減産を命じている。

市内ではビルや地下鉄などのインフラ工事も中止され、実に360カ所以上の建設工事が中止となったようだ。視界不良などから高速道路は多くの区間で通行禁止となったり、航空便などの欠航が相次ぎ、企業の物流などに悪影響が出ているという。

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人間の健康を脅かす汚染物質には、大きく分けて、地表オゾンと浮遊粒子状物質(SPM)の2つがあるとされている。

前者のオゾンは、酸化力が強く、光化学スモッグを引き起こして人間の呼吸機能や植物の光合成活性を阻害することが知られている。また、後者の浮遊粒子状物質(SPM)とは、大気中に浮遊する粒子状物質のうち、粒径が10μm以下のものを指す。粒子が微小なため大気中に長期間滞留して、人間の肺や気管などに沈着して、呼吸器に影響を及ぼすとされる。

浮遊粒子状物質(SPM)には、工場などから排出される煤塵や粉塵、ディーゼル車の排出ガス中に含まれる黒煙など人為的発生源によるものと、土壌の飛散など自然発生源によるものがある。また、生成機構の違いにより、発生源から直接粒子として大気中に排出される一次粒子と、ガス状物質として排出されたものが大気中で光化学反応などにより粒子に変化した二次粒子に分類される。

この浮遊粒子状物質(SPM)のうち、遥かに小さい直径2.5μm以下のものは、「PM2.5」と呼ばれているのだけれど、PM2.5は、通常の浮遊粒子状物質(SPM)よりも肺の奥まで入り込むため、喘息や気管支炎を起こす確率が高いとの研究がアメリカで報告されている。

例えば、大気汚染物質のひとつであるディーゼル排気微粒子は、大部分が粒径0.1~0.3μmの範囲内にあるため、「PM2.5」に分類される。

1月12日、北京ではこの「PM2.5」が一時993μg/m3を記録、1日の平均でも大半の場所で400μgを超えた。病院には気管支系の不調を訴える人が多数訪れたという。日本及びWHOの、「PM2.5」の環境基準値は1日平均35μg/m3以下だから、その汚染の凄まじさを物語っている。

次のグラフは北京と東京のPM2.5濃度の時間毎の推移グラフだけれど、東京が大凡30μg以下程度であるのに対して、北京のそれは比較にならないほど酷い。

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また、こちらのサイトでは、中国各地の大気汚染指数(AQI)をリアルタイムで公表しているのだけれど、2月4日現在、北京や成都の指数は200を超え、「非常に不健康」な状態にある。

ただ、もっと問題なのは、この中国の有毒大気が、偏西風に乗って、日本にまでやってくる可能性があること。

九州大学の竹村俊彦准教授はシミュレーションで大気汚染物質を多く含んだ空気が偏西風によって中国から西日本に流れ込んでいる状況を明らかにしているけれど、「春になると越境大気汚染はより頻度が高まりますし気象条件によっては数日にわたって越境大気汚染物質が日本付近に留まるという現象も起きますからこれからがむしろ警戒が必要になる。」と警告している。

北京市は市内の大気汚染の約20%が自動車の排ガスとみられていることから、2月1日から自動車の排ガス規制を強化し、3月1日以降は新基準を満たす自動車の販売しか認めない方針を出した。これにより排出される窒素酸化物の量を現在より40%程度削減できるとしている。ただ本当に40%削減できたとしても、時に、大気汚染指数(AQI)の最大値である500を振り切るほどの極悪大気がそれで一気に解消するとも思えない。

ただ、それでも、出来る限りの対策をやって貰わないと、こちらだって困る。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    AQIの範囲が0~500なのに, 何故 755 という
    数字が出るのだろうか? 支那仕様か?
    2015年08月10日 15:23

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