昨日のエントリーと関連して…。
先日発表された、日銀がインフレターゲットを宣言した共同声明では、物価上昇2%への期限が提示されていないけれど、では、実際どれくらいで達成できそうなのか。
その前に、まず、物価上昇の定義を確認したい。
総務省は毎月、消費者物価指数(CPI:Consumer Price Index)というものを1946年から発表しているのだけれど、これは、消費者が実際に購入する段階での、商品の物価変動を表す指数のことで、小売物価統計調査を元に算出する。
CPIは、世帯の消費生活に及ぼす物価の変動を測定する指数だから、当然、家計の消費支出を対象とする。よって、直接税や社会保険料などの支出や有価証券の購入および土地・住宅の購入などの支出は指数の対象には含めないのだけれど、たとえ持家であっても、長年住んでいるとあちこち傷んだりするし、改装することだってある。そこで、持ち家から受けるサービスを所有者本人が消費すると見做して、その額を市場価格で見積もって、家計として計上することがある(持家の帰属家賃)。
日本のCPIでは、持ち家について、持ち家を"借家"と見做した場合に支払われるであろう家賃を持家の住宅費用
とみなして指数に組み入れている。
ということで、指数の計算に採用する品目は、家計の消費支出の中で重要度が高いこと、価格変動の面で代表性があること、継続調査が可能であることなどの観点から、587品目を選定し、そこに、先程の持家の帰属家賃1品目を加えた588品目を使用する。
採用品目は、5年毎に算出し直される、CPIの基準年に見直しが行われ、現在採用されているCPIと採用品目は、平成22年に改定されたもの。
総務省は2008年から、このCPIを含めて、全部で3つのCPIを公表している。
・総合指数(CPI)このうち総合指数については、これまで説明してきたCPIなのだけれど、そこから、生鮮食品を除いた指数を、コアCPIと呼ぶ。
・生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)
・食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)
これは、天候等の条件によって生鮮食品の価格が大きく変わる影響をキャンセルした指標で、一般に、インフレやデフレといった物価の基調を見るための指標として使われる。
日銀は、2001年からの量的緩和において、その政策変更の判断材料として、このコアCPIの前年比の動きを使うと説明していて、2006年3月には、前年11月から、コアCPIの前年度比がプラスに転じていたことから、量的緩和を解除している。
そして、更に、このコアCPIからエネルギーの指標を抜いた指数(コアコアCPI)があるのだけれど、これは、エネルギー価格の変動がコアCPIに影響を与えることがあるためで、諸外国では、この指標をコアCPIと呼んで、こちらを重視しているようだ。
これら3つのCPIそれぞれが同じような動きをするのであれば、インフレターゲットが達成したかどうかの判断をするのに、どのCPIを使っても大差はないだろうけれど、世の中そんなに甘くない。コアCPIも、コアコアCPIも元々、天候に左右される物価やエネルギー価格の変動をキャンセルするために作られた指標なのだから、当たり前といえば当たり前。
次のグラフは、1971年からの日本のCPI、コアCPI、コアコアCPIの変動を記したものなのだけれど、3つのCPIのうい、CPIとコアCPIはそれなりに連動して動いているのだけれど、コアコアCPIについては、他の2つと大きく外れて動いている年が散見される。
経済評論家の三橋貴明氏は、日本がデフレを脱却するためには、「エネルギー価格」がCPIの中に含まれる"日本版"コアCPIではなく、コアコアCPIを使うべきだと指摘している。
では、こうした"指数の罠"について、政治家が認識しているのかどうかよく分からないのだけれど、一部の議員はちゃんと分かっているようだ。例えば、自民党の山本幸三衆議院議員などもその一人。
山本幸三議員は、今年1月に、この辺りについてのインタビューに対して、次のように答えている。
まずデフレ脱却ですが、日銀金融政策が最大のポイントで、日銀にだまされないことが非常に大事です。物価目標2%、安倍さんが強く言ったので、日銀も認めざるを得ないと思っているが、細かい話になるとみんなよくわからないと思ってだまされかけるので、そうしないように僕がチェックをかけます。
たとえば、物価目標2%と言っても、何が2%なのか。消費者物価指数(CPI)で見ますが、総合で見るのか、コアで見るのか、コアコアで見るのかによって、違うんですよ。そんな細かいものはみんなわからないから。総合CPIは、生鮮食品、エネルギーもみんな入っている。異常天候で野菜が上がったら上がるわけで、経済実態と関係なしに上がってしまうことがあるので、そんなのはダメ。生鮮食料品を除いたコアCPIが通常使われている消費者物価指数。
ところが、これも中東で原油価格が上昇すれば上がっちゃうので、それだけでデフレを脱却した感覚になる。エネルギーも除いたコアコア、本当はこれが1番いい。それが日本自体の経済における物価の姿。本当は、コアコアで2%という議論をしないといけないんだが、みんなわからないのでちゃんとしていない。
2つ目は、期間をしっかり決めないとダメということ。「中長期的」というのが日銀の手で、それでは今までと変わらない。いつまでたっても、なるかならないかわからない。どこの国でも、「中長期的」と言えば実際の運用は1年半から最大2年がインフレターゲットの常識。そうでなければ、市場も信頼しないし、責任もはっきりしない。これも押さえておかないとダメだ。
安倍さんは「ダメだ」とはっきり言っています。僕が「1年半でないとダメだ」と言ってきたから、その意識があったと思う。それをきちっと押さえないといけない。どんなに長くたって2年、できれば1年半で達成しないと意味がない。
このように、山本幸三議員もコアコアCPIで2%の議論をすべきだとしている。確かに、筆者もコアコアCPIで考えるべきだと思う。特に原発の殆どが停止して、エネルギー価格が上がりつつある昨今の状況で、エネルギー価格を含めたコアCPIを使われてしまうと、エネルギー価格に引っ張られて、コアCPIが上昇する懸念がある。
ガソリン代、電気代が倍になったので、物価上昇率2%になりました。なので増税しますなんてことになったら、堪ったものではない。やはり、生活実感として好景気であり、仕事もあって、給与が上がる状況にきちんと持っていくことが求められる。
山本幸三議員は、先日の共同声明を取り上げ、日銀はインフレターゲット達成のための期間として「中長期的」としたことについて、世界的には中長期的とは1年半から2年のことだとしている。山本幸三議員によれば、1年半から2年という期限は、安倍総理の意識にもあるはずだという。
そうであれば、やはり1年半から2年後、つまり2014年夏から2015年に掛けて、物価がどうなっているかが一つのポイントになるのだろうと思う。
この記事へのコメント
SAKAKI
2%の物価上昇→国債の金利上昇→国債の下落→銀行危機
です。
国債利率が1.○×%を超えたら、日本の金融機関では、日本国債を売るというのが、僅か半年前の話です。
自民党になってこの辺がどうなったか情報が得られません。
また円安歓迎の風潮もどうかな??と思います。
日本の貿易決裁の40%はすでに円と言われてます。
さらに追い打ちがシェールガス革命による石油精製方式の変更です。
極論すれば、臨海の石油精製施設のほとんどを作り替えなければ生き残れません。
ならば、アメリカ本土でエチレンやナフサを生産することになるかもしれません。
産業面でも大きな転機なのですが・・・この円安が何を示すのか??
日本のマジな没落??本当に「だいじょーぶ」か??慎重に見極めたいを思います。
クマのプータロー
デフレ脱却を推進する産業政策の基礎となる資料がこの消費者物価指数です。
基本の「き」を誤らせないように政治家の先生方には気をつけてもらいたいものです。