続・調子に乗りすぎるなよ中日新聞

 
昨日のエントリーのつづきです。

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フリードマンの「k%ルール」に対して、近年、注目されているルールがある。それが「テイラー・ルール」。これは、1993年にスタンフォード大学のジョン・テイラー教授が提案したルールで、経済状態に応じて、貨幣の供給量ではなく政策金利を変化させるという金融政策ルール。

これは、政策金利を、3つのパートで構成されると見做して、それぞれのパラメータに、実際の経済状況のものを当てはめることで、定めるべき政策金利を算出するルールとなっている。

テイラー・ルールでは、政策金利を次の3つのパートの和として表現する。
政策金利…(均衡名目金利)+(目標インフレ率と実際のインフレ率との乖離)+(需給ギャップ)
均衡名目金利とは、経済実体として、投資と貯蓄を均衡させると考えられる金利(実際の生産量を潜在的な生産量に一致させ、それによって物価を安定させる実質金利)、すなわち、均衡実質金利(自然利子率)と目標インフレ率の和のことで、要するに、景気と物価の両方が目標水準で安定している状態の金利。

この、均衡名目金利を基準にして、今現在、インフレ率が目標からどれくらいズレているのか(目標インフレ率と実際のインフレ率との乖離)と、今現在の需給ギャップのそれぞれを調整する金利を、均衡名目金利に足しこんでやることで、最終的な政策金利を決める、というのがテイラー・ルール。

テイラー・ルールを式で書くと、次のとおり。
政策金利=(均衡実質金利+目標インフレ率)+ α×(インフレ率-目標インフレ率)+ β×需給ギャップ
ここで、αとβは政策反応パラメータと呼ばれる正の定数で、この値が大きいほど経済の振れに対して、積極的に金利を上下させることを意味する。

テイラーは、最初にこのルールを発表した時、1987~92年頃のFRBの金融政策を記述できるパラメータとして、
目標インフレ率を2%。政策反応パラメータのαは1.5、βは0.5と設定している。

後に、このテイラー・ルールは、実際のいくつかの国について推計されることになる。1998年には、ドイツ・日本・アメリカ・イギリス・フランス・イタリアの6ヶ国について、テイラールールの推計が行われ、ドイツ・日本・アメリカの1979年以降の中央銀行の政策金利がテイラールールに従っていることと、イギリス・フランス・イタリアの政策金利がドイツの影響を大きく受けていることが明らかになった。

今では、テイラー・ルールは中央銀行の政策決定に広く使用されている。

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ここで、仮に、均衡実質金利を0.5%、インフレ率を0%、目標インフレ率を2%、需給ギャップを-3%、政策反応パラメータα、βをそれぞれ1として、テイラー・ルールの式に代入してみると次のとおり。
政策金利=(0.5+2)+1×(0-2)+1×-3
      =-2.5

また、政策反応パラメータを少し弄って、α=1.5、β=0.5にして計算すると次のとおり。
政策金利=(0.5+2)+1.5×(0-2)+0.5×-3
      =-2.0

と、この条件下だと、とるべき政策金利はマイナスになってしまう。だけど政策金利をマイナスには出来ない。そこで出てきたのが、「時間軸効果」と呼ばれる政策。

時間軸政策とは、「中央銀行がゼロ金利を将来に渡って、継続すると公約する政策」のこと。中央銀行がゼロ金利を継続するというのは、短期金融市場の金利(無担保コール翌日物レート)をゼロ金利で維持するということを意味するのだけれど、これは当然、長期金利に影響を及ぼす。

普通、長期金利は短期金利よりも高く設定される(現在の10年最長期国債利回りはおおよそ0.7~0.8%)のだけれど、短期金利がほぼゼロ%にまで低下した場合でも、ゼロ金利を将来にわたり継続すると中央銀行が宣言すると、市場は、長期金利も当分上がらないだろうと"期待"して、長期金利が下がってくる。これは、金融緩和と同様な効果を発揮する。

従って、中日新聞のコラムの「ゼロ金利以下には金利を下げられないから、物価2%になるまで金利は上げません、という時間を使ったいわばマイナス金利なのさ」という説明は、この時間軸政策について述べたものだと思われる。

ただ、この時間軸政策でも、長期金利が下がるところまでは期待できても、それが景気を刺激して、物価上昇まで繋がるかどうかについては、まだ検討の余地があるという議論もあるようだ。

くだんの中日新聞のコラムは、3つの段落に分かれているけれど、最初の段落では「時間軸政策」を説明し、次の段落では、ヘリコプター・ベンを例に出して、「金融緩和政策」を説明している。そして、最後の段落で、インフレになったら、預金は目減りするから金を使えと強いるのは、お金が回ることではない、調子に乗るなアベノミクス、と結んでいる。

確かに、時間軸政策と金融緩和によって、長期金利が低下して、銀行に大量の現ナマが積み上がったとしても、お金がそこから外に出ていかなければ、やっぱり景気は回復しない。お金を使う必要があるという意味では、中日新聞のコラムの説明は正しい。

だけど、"お金を使うこと"は"無理に使わせる"ということを必ずしも意味しない。それはただの「浪費」であって、経済活動すべてが「浪費」で成り立っているわけじゃない。

経済活動の中には、「投資」もある。投資があってこそ、新しい価値が創出され、産業を生み出されていく。これは、"お金が回ること"そのもの。

アベノミクスは、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、 民間投資を喚起する成長戦略を「3本の矢」とする経済政策を提唱している。投資を生み出す成長戦略も含んでいる。

だから、アベノミクスには、"お金が回る"ための政策がある。無理に使わせるだけじゃない。にも関わらず、中日新聞は「調子に乗りすぎるなよ、アベノミクス。」と批判する。これでは、アベノミクスを知らずに批判しているとの誹りは免れない。

調子に乗りすぎるなよ、中日新聞。




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