3月29日、参院予算委員会で、民主党の小西洋之議員が質問に立ち、「包括的な人権規定といわれる憲法の条文は何条か」とクイズを執拗に繰り返し、安倍総理が「クイズのような質問は生産的ではない。聞かなくても調べればいいじゃないか」「大学の講義ではない」「このやりとりに何の意味があるのか」「そういう子供っぽいことは、やめましょうよ」とたしなめる一幕があった。
国会でクイズといえば、麻生政権時の、カップラーメンとか、漢字テストとかを思い出してしまうのだけれど、確かに審議で何度もクイズを繰り返すは生産的ではない。
結局、クイズの答えは憲法13条だったのだけれど、憲法13条は、生命・自由・幸福追求権の保障を規定している。条文は次のとおり。
・現行日本国憲法この条文にある「生命、自由及び幸福追求」というのは、一般に「幸福追求権」と呼ばれ、憲法15条以下の人権と新しい人権を保障するものとされる。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
元々、幸福追求権は、憲法15条以下に定められた、自由権や参政権といった個々の人権を保障する、という意味だったのだけれど、社会や経済が発展するに伴って、それだけでは、対応しきれなくなってきた。
例えば、公害による環境汚染などに対する個人の権利は、現行憲法には定められていない。そこで、憲法に列挙されていない人権も、「新しい人権」として、第13条の幸福追求権で保障されるべきだと解釈されるようになった。
もちろん、この「新しい人権」とて、何でもかんでも認められるわけではなくて、第13条に規定されているように、「公共の福祉」に反しない限り、認められることになっている。
これまで、幸福追求権から導かれる具体的権利として、プライバシーの権利、環境権、日照権、眺望権、嫌煙権などなど、色々主張されているのだけれど、今の所、裁判所で正式に認められたのは、プライバシーの権利だけ。
これに対して、自民党の憲法改正案で、この13条がどうなっているかというと、次のとおり。
・自民党 日本国憲法改正草案一見、現行憲法と、一部の語句の表現が違うだけで、内容的には同じことを言っているように見える。だけど、小西氏は、この細かい語句の表現を問題視した。たとえば、現行憲法で「公共の福祉に反しない限り」が改正草案で「公益および公の秩序に反しない限り」となっている部分がそうだという。
第13条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益および公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に最大の尊重されなければならない。
小西氏は、2012年5月16日に行われた、参議院憲法審査会で、参考人として招致された上智大学法科大学院の高見勝利教授はの発言を引き合いに出し、「公共の福祉」を「公益および公の秩序」としたのを問題だとした。
くだんの高見教授の発言は、福島瑞穂議員の質問に対して、答えた部分で、それは次のとおり。
福島みずほ 「…先ほど公益及び公の秩序に常に国民は従わなければならないという自民党憲法改正案のことを言及をされました。現憲法は公共の福祉によって制限できるとしていますが、裁判の長年の蓄積により、これは人権問の比較衡量によってどのように人権を制限するかがかなり精微になってきております。ここで高見教授が述べている、「公共の福祉」という概念を説明する唯一のものである「内在的な制約」というのは、おそらく、一元的内在制約説のことだと思われる。
御存じ、表現の自由については、ダブルスタンダードや、明白かつ現在の危険や、より制限的でないものでやるとか、様々な人権制限の基準を設けてやってきております。
ですから、公益及び公の秩序ということで基本的人権を制限するとハードルが低くなってしまうという参考人の意見に私は同じ懸念を持っておりまして、公益及び公の秩序によって制限できるというその人権制限規定が緊急事態条項を設けることによってなおさら低くなって、ある意味とても基本的人権が予想以上に制限されることが起きてしまうのではないか。…」
高見勝利 「…おっしゃるとおりでありまして、公共の福祉という概念というのは、これは憲法で申しますとというか、国家自体の存立目的が言わば国民の権利、自由というのを守るということが前提になって組み立てられているという、そういった概念なわけです。
したがって、この公共の福祉という概念というのは、人権を制約する場合には少なくとも内在的な制約ということでしか説明は付けていないわけですよね。これは、外在的な制約でもって人権制限できるとなると、これはつまり、特定の国家のある目的を引っ張り出してくればそれによって人権制限ができるという、そういう議論になるわけですね。
そこのところをぎりぎり、そういったことは駄目だというととで組み立てている理論なわけです。したがって、これに公益とか公序という民事法上あるいは刑事法上の、刑法上のそういった概念を用いて説明するとなると非常に広がってしまうわけですよね。
そういう意味で、公共の福祉の概念を破棄して新しい人権制約原理を入れてきたということ自体は、やっぱり非常に平常時における人権保障の在り方から見ても問題のある概念であろうというふうに思っています。ましてや、それが緊急時においてそれすら停止されるということでありますから、福島先生おっしゃるように極めて問題であるという、そういうことであろうかと思います。」
これは、東大名誉教授で法学者であった宮澤俊義により主張され、通説とされてきた学説で、「公共の福祉」を、憲法規定にかかわらず、すべての人権に論理必然的に内在しているとするもの。
この説では、自由権を保障する為に人権を制約する場合、および、社会権を保障するために自由権を規制する場合には、それぞれ必要最小限度の規制だけを認めるという立場を取る。
だけど、実際に、どのような場合にどの程度まで人権や自由権が制約できるのかについては明確になっていないため、人権を制限することで得られる利益と、制限することで発生する損失を天秤にかけて、利益が大きければ、その制約を是とし、損失が大きければ否とする判断方法(比較衡量論)や、人権を「精神的自由権」とそれ以外の「経済的自由権」の2つに分けて、精神的自由権を制限する場合には、厳格審査が適用されるべきだとする理論(二重の基準)などが提唱されている。
要するに、高見教授は、現憲法にある「公共の福祉」という文言には、前提として内在制約説が含まれており、そうであるがゆえに、外部から人権を制約することはできないように組み立てられている。だから、この文言を「公益とか公序」に変えてしまうと、制限の範囲が広がり、基本的人権がとても制約されかねない問題を含んでいる、という。
まぁ、確かに憲法学上の厳密な解釈からみれば、そうなのかもしれないけれど、であれば、小西氏は単純に、そういった懸念があるから、自民党の改正草案が想定している「公の秩序」とは何を指すのか、それは国家がそうしたいという制約を人権に課すものなのか、を問えばいいだけのこと。何も憲法を知っている、知っていないとかクイズにするまでもない。
実際、この問題について、安倍総理は、「『公益および公の秩序』は、社会秩序のことであり、国家が守ろうとする秩序のことではなく、国民社会の平穏な生活を脅かしてはならない、という意味であって、『公共の福祉』をより判り易く書下したものだ」と答弁しているから、これで終わり。それでも、かみ砕いた表現では、後々、恣意的に解釈・運用される懸念があるのならば、そういって、文言を直させればいいだけの話。
それにしても、何故、こんなにも偉そうな態度で質問するのだろう。小西氏に限らず、民主党にはこのような上から目線で質問する議員が多いような気がしてならない。小西氏は、質問の最後で、安倍総理が質問に答えられなかったとして、問責に値する、と勝利宣言をして質問を終えた。
案の定、小西氏のブログは盛大に炎上しているけれど、こんな態度では国民から反発を喰らうだけ。その報いは参院選で明らかになるだろう。
この記事へのコメント
↑のものです
失礼しました
小次郎
一方、近代西欧においては、全能の神に付与された不可侵の権力である「主権」をめぐる国王と市民との抗争(市民革命)を経て、無制限の権利を有するバラバラの個人が契約を結んで国家を形成したという「社会契約説」と「国民主権」概念が生まれ、個人間の対立調停のため「公共の福祉」概念が生まれた。
この概念はアメリカ占領軍によってわが国に持ち込まれ、木に竹を接ぐように現行憲法に埋め込まれた。これはわが国の伝統、国体に反する。
よって13条は、現行憲法の中でも9条と並んでもっとも忌むべき、廃棄すべき条項であり、これを金科玉条のごとくたてまつる民主党の議員諸君とは、思想的に接点がないと言わざるを得ない。
…と安倍総理はいうべきでした。
マスゴミ並みですね
つまり、あなたは医者が作業着を忘れたのには鬼のように叩き、肝臓がわからないのに肝臓手術をしようとしている人間は咎めない様な事と同じになると思いますが
洗足池
給料は上がらないのに毎日買うものは上がっている。アベノミクスって大丈夫なのかな。値上がりするからって、ガソリン、食品を先に買う人がいるのかな? 給料も上がらない、いつ首になるか分からないのに、住宅が値上がりしそうだからといって、数千万のローンを組んで買い急ぐ馬鹿がいるのかな。こんなに不安な時代だからこそ、物価の値上がりを予想したら益々貯蓄に励むのが人間の心理じゃないか? インフレにすれば消費拡大、景気回復なんて今の日本では考えられない。逆に消費は萎縮して、不景気になると思うのだが。
TPP支持率6割以上は国民が馬鹿で騙されてるという指摘があった。馬鹿だから支持してるのかな? マスメディアの中で最も知的レベルの高いと思われる日経電子版の調査では9割以上が賛成している。
ちび・むぎ・みみ・はな
申し訳ないが, 面白い.
炎上ではあるが, まともなコメントが大半だ.