3月26日、安倍総理は自民党の高市政調会長と党本部で会談し、夏の参院選の公約作りを指示した。
参院選公約は、高市氏と参院選公約検討委員会を中心に、5月末迄に取り纏める方針のようなのだけれど、どうやら、参院選では96条改正を強調すると共に、政権の成果も強調する形になると見られる。
まぁ、政権与党が選挙に臨む際には、成果を強調するのが普通だし、現にアベノミクス期待で円安株高基調になっているから、当然の内容だといえる。
また、昨年末の衆院選では憲法改正を謳っていたにも関わらず、参院選公約では96条改正を強調するのは、一見後退のように見えなくもないけれど、おそらくこれは、野党と与党の立場の違いに依るものではないかと思われる。
野党の立場であれば、多少過激なことを言っても、見逃して貰える面もあるのだけれど、与党の公約となると、選挙で勝たせるとそれが本当になってしまう可能性があり、影響が半端ない。それゆえに、多くの有権者に受け入れられるために、より慎重な公約作成が求められる。
自民党としても、"憲法改正"と大上段に構えると、なにやら物凄い大事のように聞こえるかもしれないけれど、"96条改正"なら、それほど大したことないかと、より受け入れられ易いと見ているのかもしれない。
ただ、それでも96条は、日本国憲法の改正手続について規定している条文だから、96条改正はやっぱり憲法改正にまで繋がる道ではある。憲法96条では次のように定められている。
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。以前、G7各国の憲法改正条項についてエントリーしたことがあるけれど、今の憲法改正条件である「衆参両院それぞれの総議員の3分の2以上の発議とその後の国民投票での過半数が必要」というのは、G7と比べて、特段に厳しいとまでは言わないけれど、それでも厳しいことには変わりない。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
G7の他の国は、大体議会の3分の2以上の賛成があるか、又は、議会と国民投票それぞれで過半数の賛成があれば、憲法改正されるのだけれど、日本のように衆参両院で3分の2以上かつ国民投票で過半数が必要というのは、G7で最もハードルが高いといえる。
安倍総理は、96条の発議の要件を国会議員の2分の1に緩和する改正を目指していると言われているけれど、憲法改正要件としては、これが実現して漸く他のG7諸国並みということになる。
そういう狙いを持って、参院選に臨む安倍自民党なのだけれど、それに待ったをかけるかもしれない動きがある。一票の格差違憲判決がそれ。
昨年12月衆院選の「1票の格差」を巡って、弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟を全国14の高裁・支部で計16件起こしていたのだけれど、3月26日迄に15件の判決が下された。その結果は、13件が「違憲」で、2件は「違憲状態」、合憲判断が一つもない事態となっている。27日の仙台高裁秋田支部での高裁判決で、全部の判決が出揃い、それを受けて、最高裁大法廷が今夏にも統一判断を示す見通しとなっている。
全15件の判決では、区割りを違憲とする判断についてはほぼ一致していて、選挙無効の有無および効力発生日については結論が分かれているという違いしかないから、司法の統一見解も区割りが違憲となる可能性は高いだろう。ただ、選挙無効の有無及び効力発生日の見解については、どうなるか分からない。
というのは、地方裁ではなく、最高裁で統一見解として選挙無効の判断をすれば、それは訴訟された31選挙区すべてが無効の対象となってしまうから。国政に与えるインパクトは決して軽いものじゃない。最高裁はこれまで2回、衆院選で「違憲」判決を出しているけれど、両方とも「事情判決の法理」を用いて無効を回避している。
安倍総理は判決について「判決をよく精査していきたいと思います。適切に対処していきます」と述べており、いずれにせよ何らかの対処は必要になってくるだろう。
特に、違憲判決と広島1区、2区の選挙無効を言い渡した広島高裁は、判決の効力について「13年11月26日の経過をもって発生する」と述べ、衆院選挙区画定審議会が改定作業を開始してから1年を猶予期間としている。
※広島高裁岡山支部は、猶予期間を設けず即時無効とするもっと厳しい判決を下している。
判決が確定すれば、広島1区、2区の選挙はやり直されることになるから、それを回避したければ、猶予期間内に格差是正の処置をしなければならなくなる。更に、広島1区、2区の1票の格差は2倍以下で、過去の最高裁判決で違憲とされた2.3倍には達していない(1区:1.54倍、2区:1.92倍)。にも関わらず、今回違憲と判断されてしまっている。
だから、もしもこの判決がこのまま確定してしまうと、今度は、これが選挙無効の"判断基準"となってしまって、他の選挙区にも影響が出てしまう可能性がある。これは留意すべき点。
そして、こうした判決が、なぜ96条改正にまで影響してくるのかというと、違憲判決とされた区割りで選挙して出来上がった政権に正当性はあるのか、という話になるから。ある自民党関係者は「安倍首相が悲願の憲法改正に踏み出す場合、司法から『違憲』『無効』と突き付けられた衆院ではやりにくい。護憲を掲げる野党やメディアから事あるごとに『違憲・無効なのに』と批判される」と述べたという。
そこで、俄かに永田町でクローズアップされてきたのが、夏の参院選に合わせて衆院総選挙を行う、いわゆる衆参ダブル選挙。
過去、衆参ダブル選挙は、1980年と1986年の2回行われたことがあり、いずれも与党が圧勝している。今の安倍内閣の支持率と自民党の支持率は高く、他を圧倒しているから、今の状態でダブル選挙をやったとしても、自民が勝利する可能性は高い。そうなれば、一気にねじれと一票の格差を解消し、大手を振って96条改正に取り組める。
だけど、そんな理想通りにいくとは限らない。第一、7月まで3ヶ月ちょっとしかない。それまでに、区割りの見直しと、選挙制度改革と定数削減の3つを全て終わらせるのは、流石に時間的に厳しい。
それに、今、ダブル選挙をやれば、先の選挙で凋落した民主党は壊滅するのではないかとも言われている。従って、民主党はダブル選挙をやらせないために、抵抗野党の本領を存分に発揮して、区割り変更、選挙制度改革や定数是正に、ありとあらゆる手段を駆使して、猛反対してくることだって考えられる。
であれば、一票の格差是正の話だけを進めておいて、まず参院選で勝ち、その後で一気に格差是正をやるほうが、まだ可能性があるのではないかと思う。
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
昨年の世野党合意案を衆議院2/3で強引に
通して衆参同時選挙を行なう.
のんびりしていると尖閣諸島衝突に間に合わない.
sdi
今回は衆議院が小選挙区比例代表並立制、参議院は小選挙区非拘束名簿式比例代表制とかなり似通った選挙になります。ですので、過去二回野党側が直面した二律背反現象を回避することは可能です。但し、「入念な野党間の候補者調整」と「十分な選挙準備期間」があればですが。今回は野党側にそんな時間は与えられていません。あと4ヶ月しかなく、しかも野党のなかにリーダーシップをとっさて選挙共闘を主導できるような人材も、それだけの勢いをもった政党もありません。維新と民主が連合すれば、という意見もあるでしょう。しかし、それは民主党にとって結党以来15年を経てやっと定めた党綱領との整合性をどうするのか、という問題が生じます。
参議院選挙に関しては6年前の議席数に比べて自民党が増加、民主党が
洗足池
地方では松原の半分以下の得票数で多数当選している。その殆どがTPP反対派なのだ。東京では8割近い近くの都民がTPP賛成。議員(石原宏高も賛成派)も殆どが賛成している。これは全ての消費者がTPPで利益を得るからだ。地方には生産者が多いから反対派が多いのは不思議ではない。国全体でみれば消費者の方が圧倒的に生産者より多い。だからTPPが国益になるのは明々白々なのだ。
インチキ選挙制度で選ばれた議員がTPP反対を叫んでも正当性はない。