
今日も雑談的に…
1.回帰するアメリカ
「TPPと安倍・麻生コンビの力」のエントリーのコメント欄で、opera様にお返事をした後、TPPとアメリカの戦略の関係について、ぼ~っと考えていたのですけれども、普段、巡回しているブログをちらちらと覗いていたら、「オフショア・コントロール」について取り上げていたのを見て、非常に示唆的だなと思いましたので、これについて…。
まず、TPPとアメリカの国家戦略についてですけれども、opera様が経済評論家の廣宮孝信氏のブログ記事を紹介されています。
廣宮氏は元々、「TPPは安全保障だ」説は持っていなかったようなのですけれども、安倍総理がTPP参加表明会見で、安全保障と発言したことから、見方を変えざるを得ないと告白しています。そして、アメリカ議会調査局の報告書から、ジョージ・W・ブッシュ大統領政権下から、軍事面でのアジアシフトを開始し、オバマ政権で更に加速。そして、それに伴って、韓国とのFTA締結とアメリカのTPP参加をもたらした、と紹介しています。
そして、これらの報告書の内容から、廣宮氏は「オバマ政権はアジアシフト戦略のため、本当に、かなりの本気でTPPを重視している」と結んでいます。
私は、当初から、TPPは安全保障の意味合いがあるという目でみていましたから、TPPが安全保障だ説は、全く違和感がなかったのですけれども、私は、2010年の時点で、アメリカはアジアシフトよりも、更に自国に引きこもる動き、いわゆるモンローシフトをしていくのではないかと感じていました。ただ、同時にこれまで持っていた市場を捨てることはせず、アジア市場への関与を強めていくのではないか、と当時のエントリーで述べたことがあります。
「アメリカの世界戦略について その1:モンローシフトを始めたアメリカ」これらのエントリーでの要旨は掻い摘んで、次のとおりです。
「アメリカの世界戦略について その2:トヨタ・リコール」
「アメリカの世界戦略について その3:海賊版とグーグル」
「アメリカの世界戦略について その4:日本と第7艦隊」
「アメリカの世界戦略について その5:中華封じ込め戦略」
1)アメリカはモンローシフトし、国内産業、知的財産、石油、ドル覇権の囲い込みをするだろう上記の5つのうち、1~3と5はTPPに相当し、4と5はアメリカ軍のアジアシフトに当たるのではないかと思います。ですから、細かくみれば、モンローシフトとアジアシフトの違いはあるものの、廣宮氏の「アメリカが軍事・経済の両面で、アジアシフトを取っており、TPPはその一環なのだ」という解説は実に腑に落ちるものであり、納得できるものです。
2)中国に対する戦略としては、知的所有権の保護を強化してゆくはず
3)アメリカは今持っている市場は捨てないし、今後有望な市場には更に介入してゆくだろう
4)アメリカは中国に対して、民主国家になって大国の責務を果たさなければ、これ以上の勢力拡張は許さないと決めたのではないか
5)アメリカは中国の封じ込めをしている間に、日本や東南アジア圏に影響力を強化してアジア市場の囲い込みをするだろう
では、モンローシフトと、アジアシフトで何が違うのか。
2.オフショア・コントロール
一般に、モンロー主義とは、第5代アメリカ大統領ジェームズ・モンローが、1823年の教書演説で、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸間の相互不干渉を提唱したことに端を発する、いわゆる孤立主義の原型だけれど、現在的には、アメリカが世界の警察官を止めるということになるかと思われます。
これを軍事的にみればどのような戦略になるかというと、一番マッチするのは「オフショア・バランシング」戦略になるのではないかと考えています。
オフショア・バランシングについては、これまで何度か当ブログで取り上げたことがありましたけれども、平たくいえば、アメリカ軍を紛争地域の外に駐留させ、紛争地域内の勢力を互いに牽制させバランスさせる戦略ですね。基本的にアメリカは外交的介入を主とし、万一、地域内の軍事バランスが崩れた場合には弱い方に味方する、というやり方です。
オフショア・バランシングは、アメリカは蚊帳の外にいるのが原則なので、モンローシフトを取る場合には、軍事的にマッチするものと思います。
これに対して、アジアシフトは、中東からは少し手を引く代わりに、アジア重視のシフトを取るということですから、もう少し積極的な介入があると考えるのが自然です。すると、この場合に一番マッチする軍事戦略に何があるか。
ここで、筆者が示唆的だなと感じたのが「オフショア・コントロール」という戦略です。
これは、アメリカ海兵隊の元大佐のトーマス・ハメスが唱えた概念で、対中国を意識した戦略。掻い摘んでいえば、アメリカの同盟国を守りつつ、中国のエネルギー・貿易ルートを締め付けることで、経済消耗戦に持ち込み、互いに行き詰まりの状態をつくる。その結果、軍事衝突を回避する、という戦略ですね。
オフショア・コントロール戦略には、拒否(deny)、防御(defend)、圧倒(dominate)の3つの柱があります。
「拒否」とは、中国が「第一列島線」の内側の海を使用するのを拒否することで、その為に「第一列島線」内で航行排他海域を確立する。具体的には、潜水艦と機雷、それに空軍力を使って、中国の艦船を沈めるというものです。
「防御」とは、協力してくれる同盟国の領土を守るためにあらゆる手段を使うこととしています。これによって中国は長距離を越えて戦わなければならないのに対し、アメリカと同盟国側は自国の近くで戦えるという地の利を持てます。
「圧倒」とは、中国の兵器が届く範囲の外側の、インドネシア列島からアメリカ西海岸までの海域にあるいくつかのチョークポイントにおいて、商船などの通行を阻止することです。
このオフショア・コントロール戦略は、中国の領空内への侵入は行わず、「決定的な勝利」は求めないとしています。その理由は、中国が核保有国であり、しかもどういう風にその核を使うか分からないからで、完全勝利を目指すのではなく、中国が対インドや対ベトナム戦争をストップした例に倣って、中国に「相手に教訓を与えた」と勝利宣言させるための状況づくりが重要だとしています。つまり、中国に"花を持たせて"面子を立ててやれば、結果として戦争をエスカレーションさせずに集結させる、ということです。
3.アメリカの力を見せつける
なにやら、武田信玄の「およそ軍勝五分を以て上となし、七分を中となし十分を以て下となす」、「戦いの勝ちは六分をもって良しとする」を彷彿とさせるやり方ではありますけれども、面子を立てて矛を収めさせるという辺りは、対中国としてみれば、なかなか有効な戦略なのかもしれません。
また、日本を含め、アメリカの同盟国にとっても、オフショア・コントロール戦略には次のような利点があるとしています。
A)透明性があり、秘密はないこうしてみると、オフショア・コントロール戦略はアメリカにとっても、軍事費の負担を減らしながら、抑止力を維持するという目的に適った戦略のように思えます。
・オフショア・コントロールでは秘密はなく、平時から敵と同盟国の両方と一緒に軍事演習などを行ない、オープンにしておくことで、敵味方の「相互理解」を深めておくことができる
B)同盟国への依存状態を減らす
・オフショア・コントロールでは、オーストラリア以外には同盟国の基地を必要としない。
・同盟国がアメリカに求められるのは、中国の攻撃から海と空を守ることだけで、具体的には地上の防空システムと短距離の海洋防衛(機雷設置/除去など)しかない
・アメリカは同盟国に対してこの方面の軍備を増強するように求め、平時から軍事演習を定期的に行う
C)同盟国とさらなる協力を行えるチャンスが拡大
・平時は共同演習をして相互運用を確認しておきながら、紛争がいざ起こっても同盟国に無理矢理一緒に戦うことを強要しなくてもよい
・同盟国側も中国との経済的な結びつきが強いため、アメリカと中国攻撃の演習をして中国を刺激したくない事情に配慮している
しかも、これは、オフショア・バランシング程、内向きではなく、一歩引きながらも、同盟国を支援し、紛争に介入するという戦略ですから、アメリカがアジアシフトをしているという前提で考えると、このオフショア・コントロールが一番マッチしているように見えるんですね。
そして、既に、アメリカは、オフショア・コントロールを内々に進めようとしているフシがあります。今年の2月1日に、日本の防衛研究所とアメリカ国防大学国家戦略研究所(INSS)との間で、テレビ会議が行われ、このオフショア・コントロールについて、提唱者であるハメス上級研究員から報告が行われたそうです。
既に、日米間の国防を担う組織の間で、オフショア・コントロールが取り上げられているわけで、今後の米軍再編や自衛隊の組織編制および合同軍事演習などから、そうした動きが本格化しているかどうかが見えてくるのかもしれません。
オフショア・コントロールは、情報をオープンにしながらも各局面での優位を築きながら、守りの姿勢を取ることで、消耗権を強いる戦略ですから、中国をして、アメリカとその同盟国群には、表向きは面子を保ちつつも、内心では敵わないと思わしめることが肝要になります。
その意味では、中国に見せつけるという意味でのアメリカ軍との合同軍事演習の機会が増えてくるのではないかと思います。昨年9月に、パネッタ国防長官(当時)が訪中した際、中国海軍を2014年のリムパックに招待し、先日、中国がそれを正式に受けたという報道がされていますけれども、これも、もしかしたら、オフショア・コントロールの一環で、中国にアメリカ軍と同盟軍の力を見せつける、という意味合いがあるのかもしれませんね。
オフショア・コントロールによって、中国を山の頂で永遠の眠りにつかすことができるのかどうかは分かりませんけれども、ともあれ、今後、オフショア・コントロールという戦略概念に注目すべきではないかと思っています。
この記事へのコメント
白なまず
イライラは穢の元なので、これでもみて憂さ晴らししましょう。
ちょっと長いので、最後だけですが、、、それでも17分もあります。
【尖閣を守るゲームを作ってみました 3/3】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20160381
55
おそらく参加国も答えられない人が適当に賛成と言ってるのが現状だとおもいますねしかもFTAやEPAを結んでると言うことも知らん人が・・・
そもそも3月のTPP交渉で関税などの部分の交渉が終わったとか・・・
これではどうしようもないのではないでしょうかね
opera
まぁ、アメリカ思惑としては結びつく面があるのかもしれませんが、傍迷惑な思い込みです。また、前回のコメントでも述べましたが、オフショアコントロール乃至アジア回帰が成立するには、シェールガス革命が成功して中東への依存が解消することが前提条件ですが、それがどうなるは不明です。
結局、現時点での結論は廣宮さんとほとんど同じで、そのまま引用すると、
『今回のまとめ:
・TPP問題に関しては、中東情勢と北東アジア情勢も見ながら検討する必要がある
・安倍政権はオバマ政権の立場を理解し、協力すべきは協力しつつも、TPP交渉では毒抜きに集中すべき
・自民党の慎重派・反対派議員はその安倍政権を支えつつも厳しく監視すべき
ほんでもって、
・他力本願ながら、できればTPPはアメリカ議会でぶっ潰れて欲しい
という具合です。
1.アベノミクス支持
2.オバマ・安倍の良好な関係構築を支持
3.ただし
洗足池
地方の人間も、泣き言を言って国の保護や補助金ばかりを要求していないで、自分の頭と体を使って自立の道を歩いたらどうか?国のお荷物にはならないぞという日本人の誇りはないのか?
WN
「モノカルチャー」という、中学や高校の社会科教科書にも登場するレベルの初歩的な用語も知らないような人が、笑わせないでくださいな。自由貿易に関する知識が付け焼刃なのはバレバレです。
ちなみに私は、あなたの妄想とは異なり都会の人間ですよ。