危うい朴槿恵大統領

 
韓国の朴政権の組閣がようやく進みだした。

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1.朴政権発足

3月17日、韓国与党セヌリ党(旧ハンナラ党)と最大野党・民主統合党は、党幹部による交渉で放送振興政策を政府機関の放送通信委員会から新設予定の未来創造科学部に移管することなどで合意した。これによって、未就任だった閣僚の任命が進み、ようやく朴槿恵政権が本格的に発足する見通しとなった。

朴槿恵大統領のスタート直前の支持率は44%と歴代大統領最低。李明博前大統領、盧武鉉元大統領、金大中元大統領の就任直後の支持率が70~80%台だったことと比べると随分低い。

先の韓国大統領選では、朴氏は当初大接戦で、投票率が上がると不利になると予想される中、75.8パーセントという高投票率であったにも関わらず、対立候補であった民主統合党の文在寅氏に、100万票以上の差をつけ、1500万を超える票を獲得して勝利した。得票率も51.6パーセントあり、民主化以降、6回目の大統領選で初めて半数を超えたそうだから、圧勝とみてもいいように思われる。

だから、ぱっと見には、大統領選の結果と支持率にギャップがあるのは不思議に見えるかもしれないけれど、朴氏と文氏の世代別支持率をみると、20代~30代では、4:6の割合で文氏に支持が集まっていた一方、50代~60代では、これが逆転し、7:3の割合で朴氏が支持されていた。(40代は共に半々くらいの支持)

韓国の人口ピラミッドは30代後半の世代が最も膨らんだ、「卵型」のような形状をしているのだけれど、大統領選では50代以上の投票率が高かったため、相対的に朴氏の票数が伸びたということのようだ。

ということで、朴大統領は、見かけ上大統領選に圧勝したものの、支持率としては、40%台と、半分以下になるのも理由のないことではない。

その一方、朴大統領に対して「今後5年間、職務遂行をよくやるだろう」との期待値は70%を超えているというから、政治的手腕については、韓国国内で認められているといえる。

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2.選挙の女王

朴槿恵大統領は、朴正熙元大統領の娘として、18年間青瓦台で過ごしたことは、よく知られているけれど、1979年に朴正熙元大統領が暗殺された後に権力を握った全斗煥政権は、朴正熙元大統領の遺族たちが、国立墓地で追悼式を行うことを許さなかった。遺族は、何年もの間、父の追悼式を公に行うことができず、3人だけで家でひっそりと法事を済ませていたという。

更に、追い打ちをかけるように全斗煥政権内部からも、朴正熙元大統領に対する猛烈な非難と罵倒が浴びせられた。朴槿恵大統領は当時について、自叙伝で次のように語っている。

 「18年間、一国を率いた大統領である以上、死後に政治的評価を受けるのは当然である。だが、それが新しい権力に取り入ろうとする人々によってウソや推測、非難一色で罵倒され、歪曲されたら、悔しくないはずがない。父がしたことをけなし、無残に名誉を傷つけるだけでは飽きたらず、墓の中にいる父に対する人身攻撃は度を超えていた」

朴槿恵氏に高齢者層の支持が高いのは、こうした朴槿恵氏の半生を知っているがゆえなのかもしれない。

朴槿恵氏は1997年に政界入りを決意。当時、朴槿恵の所属するハンナラ党は、97年の大統領選に敗れ、厳しい状況に追いやられていたのだけれど、朴槿恵氏は、98年4月の再・補欠選挙に出馬。「ハンナラを助けるには、最も厳しい選挙区で最も難しい相手に勝つのが一番」と、有利な条件が整っていた聞慶・慶北から出馬する予定を変更して、ハンナラ党の誰が出ても勝てないと言われた大邱・達城で立候補し、資金・スタッフに事欠いたまま圧勝した。

また、盧武鉉大統領時代の2004年4月の国会議員選挙を前に、現有137議席で第一党だったハンナラ党は腐敗党のレッテルを貼られて強い逆風を受け、よくて50議席獲得がやっと、場合によっては壊滅的な打撃をこうむるとの予想が支配的だった。だが、選挙の3週間前に就任したばかりの朴槿恵代表率いるハンナラ党は、121議席を得て強力野党の地位に踏みとどまった。

こうした経歴をみると、朴槿恵氏が 「選挙の女王」の異名を持ち、「用意された大統領」というキャッチフレーズを持ち出すことも頷けるものがあるし、朴槿恵氏が「原則を曲げない政治家」と言われるのも、氏の半生がそうさせていったのではないかとも思える。




3.筋と亡国

その一方、韓国では、父親である朴正煕元大統領が「親日派の頭目」のように思われていることもあり、韓国左派の一部からは「親日派の娘」とレッテルを貼られている。選挙戦中のテレビ討論会で、少数左翼政党の泡沫女性候補から「親日と独裁の後継である朴槿恵候補を落選させよう」などと攻撃されている。

また、今年の初め、安倍総理の特使として、額賀元財務相が訪韓した際、額賀氏から「『選挙の女王』として日本でも知られていますが、秘訣は何ですか」と問われて顔を綻ばせただけで、韓国の一部メディアに揶揄されたというから、あたり一帯、敵だらけと言った様相。

こうしたことから、朴槿恵大統領は、日本への歩み寄りは政治的なリスクが大きく、日本に友好的な政策をとるとは限らないという観測すらある。

ただ、平時であれば兎も角、今は、北朝鮮が3回目の核実験を行い、休戦協定を白紙に戻すと宣言した、事実上の"有事"状態。安全保障を考えるならば、反日ブーストをかましている余裕などない。

となると、強力なリーダーシップを発揮して、事態の打開を図るべきということになるのだけれど、朴槿恵大統領の生い立ちを考えると、筋を曲げずに正面突破という選択をする可能性があるとみる。

まぁ、「筋を曲げない」という態度は、政治家として誇るべき特質ではあると思うけれど、その曲げないという"筋の善し悪し"はまた別の話。その曲げなかった"筋"が間違ったものであれば、亡国の憂き目に遭う。

筋を曲げないことが却って、危機を呼びこんでしまうことだってある。

仮に、筋を通して国を滅ぼすか、筋を曲げて生き残りを図るかの二者択一を迫られた場合、どう動くのか。朴槿恵大統領は冷静な決断ができるのか。

いくら「選挙の女王」だといっても、選挙と戦争は違うし、選挙と経済もまた違う。状況を打開しようとして、最も困難な相手に真正面からぶつかったとしても、それがいつも成功するとは限らない。

また、朴槿恵大統領が冷静な判断を下せるとしても、それが「親日政策」であったとしたら、国内の反発を受けて、それを選択できなくなる。それでも、「親日政策」を決断するのなら、それは韓国国民の反日感情を"最も困難な相手"と見做して、自分を支持してくれた自国民を正面突破しなくちゃいけなくなる。

だから、韓国国民の期待とは裏腹に、朴槿恵大統領は、既に、政治的板挟みの状態にあり、下手をしたら、有事の際には身動き出来なくなってしまうのではないかとさえ。

朴槿恵大統領は既に、日本に対して、「1000年の恨み」発言をして、"親日政策"カードを半ば捨てるような真似をしている。選択肢を既に狭めている。これは戦略的にはあまりいいとはいえない。

今の韓国は、国としての重要な岐路に立っているのではないかと思う。




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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    南朝鮮においては, 反日を打ち上げて国民を掴み,
    北朝鮮に何かを仕掛けてもらって日本と協力する,
    もしくは, 完全に中共政府の下に擦りよる,
    それ以外の手はないのではないか.
    親父の記憶があるなら, 後者は無い気がするが.

    北にしかけてもらうのは野党を牽制できるし,
    日本に協力してもらえる点で一石二鳥になる.
    2015年08月10日 15:23

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