TPPに楔を打ちこんだ安倍総理

 
昨日のエントリーの続きです。

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3月16日、安倍総理は、党本部で開かれた全国幹事長会議で挨拶し、TPP交渉参加について「党と共に国益を守る決意だ。あのときの判断は間違っていなかったと思ってもらうような交渉を展開する。どうか信頼していただきたい。…アジア太平洋地域の大きな経済圏で日本が主導的な役割を果たし、同盟国の米国とルール作りを行う。日本は主役になるべきだと判断した。…美しい田園風景を守っていくのが私たちの使命だ」と述べ、理解を求めた。

これに対し、北海道連の岩本剛人幹事長が「事前に地方の意見を踏まえて判断してほしいと言っていた。…国益が守れないなら脱退することもお願いしたい」と発言するなど、他に農業が盛んな地域の県連が懸念を表明したようだ。

ただ、国内産業から反発が上がるのは、日本だけではない。TPPを主導しているとされるアメリカ国内でも、日本の交渉参加を脅威と感じている業界もある。例えば自動車産業などがそう。

3月14日、アメリカ民主党の議員団48人は、オバマ大統領へ書簡を出し、「自動車のようなわずかな利益しか得られない産業では、2.5%の関税削減は日本への大きな利益となり、アメリカの産業は何も得られない。さらに多くの車が日本から輸入され、アメリカの生産や雇用は減少する。」と日本のTPP交渉参加に懸念を表明している。

尤も、これについては、既に、日米両政府の事前協議では、2.5%の関税を五年超、トラックの25%は十年超残すことで大筋合意したと、交渉関係筋が明らかにしたとの報道もある。日本としては、この手土産で、日本のTPP参加を承認して貰う腹積もりのようだけれど、自動車で譲ったのであれば、その見返りにコメやその他"聖域"は守りたいところ。

ただ、安倍総理は、先の日米首脳会談でオバマ大統領に、日本がTPP交渉に参加する6条件について伝えている。その上で、安倍総理が今回、TPP参加交渉表明したということは、日本はTPPについてこれら6条件を満たしていると判断したと、少なくともアメリカに対して宣言したことになる。

そして、その6条件の1つである「聖域なき関税撤廃を前提としない」部分について、先手を打つ形で、アメリカの自動車に対する関税維持を認めることに大筋合意した。つまり、カードを先に切ってみせることで、6条件の1つが成立することを証明し、その前例を作って見せた。

となると、今度は、他の参加国が「じゃあうちにも例外を認めろ」と言い出す可能性があり、楽観的に考えれば、TPPはFTAに毛の生えた程度ものにまで変質することさえあるかもしれない。その意味では、安倍総理は、TPPの一角に楔を打ち込んだもといえる。



また、これとは別に、今頃になって、TPPは安全保障問題でもある、という論説がマスコミから出始めた。

先日、アメリカの戦略研究家イアン・ブレマー氏が「中国がいたからこそ日本はTPPに参加できた」と、NHKのインタビューで語っていたし、13日には、ズムワルト米国務次官補代理は、ワシントンでの講演で、日本のTPP交渉参加について、「米国を含むアジア太平洋地域の自由貿易の枠組みができる。日本にとっての戦略的な意義があり、それがTPPだ」と述べている。

まぁ、こうした論が出回り始めたのも、昨日の安倍総理のTPP参加表明で、「日本が同盟国である米国と共に新しい経済圏を作る。そして自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々が加わる。…さらに共通の経済秩序のもとに、こうした国々と経済的な相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にとっても、またアジア太平洋地域の安定にも大きく寄与することは間違いない。」と述べたことが大きいように思われる。

その意味では、TPPは経済問題だけではない、政府から正式にそうお墨付きがでたと言える。

勿論、中国もその辺りは感づいている。3月8日、中国の陳徳銘商務相は、全人代開会中の記者会見で、TPPについて、「第三国を排除するものであってはならない」と述べ、中国がアジア太平洋地域の枠組みから排除されることに警戒感を示している。

そして、15日には、安倍総理のTPP交渉参加表明を受けて、中国外務省の華春瑩報道官は「中日韓などアジア太平洋地域の自由貿易協定(FTA)交渉はまさに進んでおり、そうした現実を尊重すべきだ」と、日本のTPP交渉入りを牽制している。

日中韓の3ヶ国は、5月にも首脳会談を含む本格的なFTA交渉に入る見通しとなっているけれど、日本のTPP交渉参加表明は、中国を揺さぶるひとつの外交カードとなる可能性もある。まぁ、あまり過度な期待は禁物ではあるけれど、持てるカードは多いに越したことはない。




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この記事へのコメント

  • opera

    同じ民主主義・自由経済による国家連携と言っても、アメリカのように画一的(しばしばダブルスタンダード的)な対応をするのか、相互に歴史や文化・伝統を背負った存在であることを承認しつつ、民主主義といった普遍的な価値を拠り所として国家連携を図るのかでは、随分と異なったものになるはずです(一例として、過去20年にわたるミャンマーに対する日米の対応の違いが参考になります)。

     結局のところ、安倍首相が言うように、多極化する世界にあって日本が本当に一つの極として立つ覚悟を決めたのかどうか、TPP「交渉」を道具として何を実現しようとしているのか、国民としてはTPPにあくまで反対の態度を貫きつつ、今後の推移を見守りたいところです。
    2015年08月10日 15:23
  • sdi

    TPPを単にFTAを含む経済交渉だけなら「TPP参加及び参加交渉国中でアメリカについで圧倒的な日本の市場規模と経済力を梃子にアメリカのルール面での独走を阻止する」という構想を安倍首相はじめ政府首脳が持っているとしても、成否はともかくその意図は理解できなくもないです。ただし、それはTPPへの参加が前提での行動になりますね。それにTPPは経済政策以外、そしてのそれより上位の階層の枠組みが含まれているように見えます。有体にいえばアメリカの掲げる世界観(自由経済、民主制、法治主義etc)に対する回答、という面もあるということです。もし、交渉が成果を上げずに物別れに陥り日本がTPP参加交渉の席を立つ場合、日本はTPPの掲げる世界観とは別の世界観を提示しなくてはならないのではないでしょうか。これは「自由と繁栄の弧」構想をどうやって成立・維持していくか、という問いに対する回答でもあります。
    さらに、TPPが経済面のみならず対中国の政治・外交・安全保障の枠組みの性質を持つなら、日本がその中で枠組み変更の活動を活発化させてしまったときに誰が得をするのか、と当然突っ込まれます。回答はいわずもがなですね。活
    2015年08月10日 15:23
  • 洗足池

    君子は豹変す!!!

    安陪君よくやった褒めてやる。
    TPPが国益になる事はよっぽど馬鹿でない限り分かりきった事だ。
    天下国家を考えて反対するふりをするのが多いが、実は競争が厳しくなり自分が損するから反対しているだけの事だ。

    こういう無能で怠け者は日本には不要だ。TPPは寄生虫の様な日本人を駆除する虫下しのようなものだ。文句もいわず3K仕事を黙々とやる外国人の方がよっぽどましだ。このブログに集まる田舎者のように税金の分け前よこせなんて厚かましい事はいわないからね。

    安陪君、頑張れよ。例外なしのTPP参加へ一直線だ。
    2015年08月10日 15:23
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    TPPに関しては外務省周辺は安全保障の面を
    強調していたが, 安倍首相としては対支那
    政策としてTPP参加表明をしたのではないかと思う.
    通常戦力では負けないが, 核を持った国が相手で
    あれば米国を引き込むしかないが, オバマ政権が
    続く限りは米国を強引に引きずり込むしかない
    現在の自民党が健在である限り,
    TPPはなるようにしかならないだろう.

    問題は電力自由化を含め構造改革勢力が
    蠕いていることらしい. 安定した集中管理を嫌い,
    何故, 基本的に不安定な分散制御型の電力自由化
    を目指すのか? 漸化的社会主義革命思想に
    因われているとしか思えない.

    この点については欧米での実体を詳細に検討すべきだ.
    漸化的社会主義革命勢力が「良い」と言うことは
    実際には社会を「悪い」方向にしか動かさないと見る
    のが正しいのではなかろうか. これらの勢力の
    困った点は, 目前の東北の大災害を反省材料とせず,
    原発などの特定の部分だけを言い募ることだ.
    社会は大きなシステムでできている. こんなことは
    ニューギニアの高地民族でも知っていることだ.
    2015年08月10日 15:23
  • WN

    >TPPが国益になる事はよっぽど馬鹿でない限り分かりきった事だ。

    TPPがモノカルチャー化の危険性を伴うものであることは、よっぽど馬鹿でない限り分かりきった事ですね。
    2015年08月10日 15:23

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