日本の核武装とバックパッシング
3月12日、アメリカ上院情報特別委員会で、世界のあらゆる脅威に関する報告書が提出された。
1.テロよりサイバー攻撃が脅威
その内容は、北朝鮮やシリア情勢などさまざまな分野に及んでいるけれど、アメリカの安全保障に関しては、デジタル面あるいは軍事面で近いうちに米国が壊滅的な攻撃を受ける可能性は低いとした上で、今では、政府やコンピューターネットワークに対するデジタル攻撃が過去の脅威に代わる存在になっているとの認識を示した。
この日の上院軍事委員会での公聴会では、米軍サイバー部隊トップのアレクサンダー陸軍大将が、銀行を中心に米企業に対するサイバー攻撃が増えている状況を指摘し、今年は内容・数ともに攻撃がさらに厳しくなるとの見方を示した。
アメリカに対するサイバー攻撃といえば、2月21日のエントリー「サイバー真珠湾61398」で触れたように、中国によるハッカー攻撃が思い浮かぶ。
無論、この辺りの問題はアメリカ政府はちゃんと認識しているようで、早くも中国を牽制に入っている。
3月11日、国家安全保障問題を担当するドニロン大統領補佐官は、ニューヨーク市内でアジア太平洋政策について講演し、サイバー攻撃に関して、米中間の経済問題の最前線に浮上していると指摘した上で、中国政府は関与者の摘発に向け、捜査に真剣に取り組み、止めねばならない、と警告した。また、不正に企業秘密などを盗み出すサイバー攻撃に対しても、アメリカ企業が深刻な懸念を抱いていると懸念を示し、中国政府に善処を求めていることを強調した。
これには中国も素早く反応し、翌12日には「相互の尊重及び信頼に基づき」、サイバーセキュリティー問題について協議する意思があると表明、アメリカ政府も「中国の声明を歓迎し、建設的な対話を行えることを期待している」と歓迎の意向を表明している。
2.中国にプレッシャーを掛けるアメリカ
ただ、勿論、アメリカもこれだけで安心したわけではなくて、早速、中国に対して、駆け引きを始める。オバマ大統領は、13日放送のABCテレビのインタビューで、米国を標的にしたサイバー攻撃の脅威は一貫して高まり続けており、その一部は「国家の支援を受けている」と指摘した上で、中国と「極めて厳しい話し合い」を行い、国際規範を順守するよう求めていく意向を示している。
また、ロサンゼルス・タイムズは、アメリカ政府機関や企業にハッカー攻撃を加えた団体に属した「中国人民解放軍兵士」のものとされるブログを見つけ、その内容を報じている。
それによると、ブログの主は、25歳の兵士で、インターネット・セキュリティーに関する修士号を取得後、上海にある「集団」に加わった経歴の持ち主で、主な仕事はコンピューター・システムを乗っ取るウイルスの開発。給料は安く、高校の同窓会で法曹界や金融業に就職し高給を得ている友人たちに「恥ずかしくてあいさつできない」とこぼし、「私の唯一の誤りは、わずかな利益のために国に身を売り、自身を辱めたこと」と嘆いているという。
アメリカ政府とロサンゼルス・タイムズが裏で連携して動いているかどうかは分からないけれど、結果として、こうした中国の関与を匂わせる報道をちらちら出すことによって、中国にプレッシャーを掛けている。まぁ、外交交渉とはこういうもの。
アメリカの脅威に関する報告は東アジアにも及んでいる。報告書は、北朝鮮軍が事前に察知されることなく、韓国などに限定的な攻撃を仕掛け得る態勢を整えていると警告。また、金正恩が急速に権力基盤を固めているとした上で、表向きは国民生活の向上を掲げているものの「真剣に経済改革を進めている兆しはない」と指摘し、金正恩体制が脅かされない限り、核兵器を使用する可能性は低いとの見方を示した。
但し、北朝鮮が過去に原子炉建設を支援したシリアに続き、イランなどに対して、核技術を輸出する可能性を警戒しているとしている。
これに関して、クラッパー国家情報長官は、上院情報特別委員会の公聴会で、北朝鮮が昨年4月の軍事パレードで初めて公開した移動式の新型ミサイル「KN―08」について「外見は大陸間弾道ミサイル(ICBM)だ。既に実戦配備に向けた初期段階の作業に着手したとみている。」と証言。金正恩第1書記についても「若い新指導者の行動は極めて好戦的だ」と懸念を表明している。
3.日本はバックキャッチャーに成り得るか
ただ、アメリカは「金正恩体制が脅かされない限り、核兵器を使用する可能性は低い」としながらも、北朝鮮に対する脅威はそれなりに感じているようだ。
3月7日、アメリカ上院の外交委員会は、「アメリカの対北朝鮮政策」と題する公聴会を行ったのだけれど、その中で、「日本の核武装」というテーマが何度も論じられたそうだ。
その中身は「アメリカは北朝鮮の核武装、特に核弾頭の長距離弾道ミサイルへの装備をなんとしてでも防ぐべきだ。だがこれまでの交渉も対話も圧力も制裁も効果がなかった。いまや北朝鮮の核武装を実際に非軍事的な手段で阻止できる力を持つのは中国だけである。その中国がいま最も恐れるのは日本の核武装だ。だから日本の核武装というシナリオを中国に提示すれば、中国は北朝鮮の核武装を真剣になって止めるだろう。」 というもので、まぁ、見事なバックパッシング。
まぁ、アメリカからみれば、こうした、バックパッシング戦略を取ってくることは合理的な判断であるし、ある意味当然とも言える。問題は日本に、それを受ける気があるかどうか。
今回の、脅威に関する報告書については、3月14日、菅官房長官は午前の記者会見で、「わが国の認識と一致している。北朝鮮包囲網をしっかり狭めていきたい」と述べ、関係各国として、アメリカ、ロシア、中国、韓国を挙げ「緊密に連携を深めながら、国連安全保障理事会の決議を履行していきたい」と強調しているけれど、それが、日本の核武装にまで話が及ぶことまで計算に入れているかどうかは分からない。
何せ、今の日本は、武器輸出三原則を守るかどうかで議論が起こり、憲法9条改正でさえ揉めているような段階。本来は、もっとこうした議論を加速して、国家としての方向性をきちんと決めなければいけない時期にある。
アメリカのバックパッシングに乗って、憲法改正・核武装にまで行くなら行くで、国会でもっと真剣な議論が必要になるし、国民も、日本に対する脅威を実感するだけでなく、その抑止について、きちんと考えなくてはいけない。
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