WBC日台戦と地政学
段々と、WBCが盛り上がってきました。
1.素晴らしかった日台戦
3月8日、東京ドームで第2ラウンドが開幕し、台湾と日本が歴史的激闘を演じた。侍ジャパンは、先発の能見が3回、押し出しで先制点を与え降板。2番手の摂津も5回に2連打で1点を失う苦しい展開。
なんとか8回に同点に追いつくものの、6回からマウンドに上がった田中が、8回裏3連打を浴びて、再び1点勝ち越される。絶体絶命の9回裏、井端が中前打を放ち土壇場で同点に追い付くと、延長10回、中田が犠牲フライで決勝勝ち越し点。
筆者は途中で何度も負けを覚悟したのだけれど、日本は驚異的粘りを見せての逆転勝利。素晴らしい選手達を讃えたい。
それにしても、台湾は強かった。そして台湾野球のレベルの高さに正直驚いたし、台湾チームの選手達の態度も素晴らしかった。
試合後、マウンドから観客席に向かって深々と一礼をしていたし、台湾の謝監督も記者会見で、「選手たちはすばらしいプレイをしてくれました。おつかれさま、と言いたいです。こうした国際試合で日本というレベルの高いチームを相手にして、少しは近づけたかなという感じです。敗れはしましたが、大きな重圧を相手にはかけらたのではと思います。今後も国際試合でこのような粘り強い試合をみせてほしいです。今日の結果は残念でしたが、こういう国際舞台で粘り強く戦い続け、いつの日か勝てるようになることを願っています」と述べているけれど、本当に素晴らしいコメント。グッドルーザー。
また、日本・台湾戦では、双方のファンの交流にも注目が集まった。台湾メディア・TVBSは、東京ドームにやってきた台湾在住の日本人教師と日本人留学生が、それぞれ中華民国国旗を掲げて台湾を応援する様子を紹介。留学生が「日本も台湾も好き。両方に頑張ってもらいたい」と語ったことを伝え、日本人ファンが「東北大震災のときに台湾から多くの援助をもらったにもかかわらず、 日本政府は台湾に対して感謝の意を示さなかった」と、台湾に感謝の気持ちを込めながら語ったことを併せて紹介した。
また、台湾メディア・NOWnewsは、日本にいる台湾の野球ファンが「日本のテレビ中継のとき、試合日程表に『チャイニーズ・タイペイ』ではなく『台湾』と書かれていた」ことを発見したと伝え、台湾が現在に至るまで五輪などの国際試合において「台湾」や「中華民国」の名称を使えない状況を説明し、「どこの局かは分からないが、日本がわれわれにくれた善意は台湾ファンの心を温めた」と紹介。そして、日本のファンが2011年の東日本大震災の際に、台湾が多額の義援金を贈ったことなどに対する謝意を示す横断幕を用意しているとの情報と、中継では台湾代表と言ってくれることに注目し、台湾のヒップホップグループ・拷秋勤のメンバーが「日本を侮辱するような標語を球場に持ち込まないで」とファンに呼びかけたと紹介している。
ダイジェストを見直してみると、公式発表ベースでは「チャイニーズタイペイ」表記になっていたのだけれど、やはり、日本人にとっては、台湾を「チャイニーズタイペイ」なんて呼ぶほうが違和感がある。それは、他の人にとっても同じらしく、細かいところではやはり台湾表記が所々残っていたようだ。
2.チャイニーズタイペイ
台湾は、1949年に国共内戦で勝利した中国共産党が中華人民共和国を樹立したのに伴って、国民党の中華民国政府が政府機能を台湾に移転してからは、両者の間で「中国を代表する正統な政府」としての権利を巡る対立が生じている。
現在の台湾世論は、台湾は中華民国という国家であり、中華人民共和国の主権に帰属しないというのが大勢のようなのだけれど、国際社会では、「中国を代表する正統な国家」として中華人民共和国を承認する国が大勢を占めている。
ただ、殆どの国は、中華人民共和国を「承認」しながら、中華民国との実務関係を維持しているというややこしい関係にある。
こうしたことから、台湾は国際社会では「台湾」を名乗っても受け入れて貰えない。2007年には、国連やWHOに「台湾」名義で加盟申請したことがあるけれど、却下されている。
そこで、中華民国は、国際社会に参加するため、主権・国家承認問題を棚上げした妥協案として「チャイニーズタイペイ」という呼称を使うようになった。
だけど、表記というのは、その対象そのものを表すものだから、意外と軽々には扱えない。「チャイニーズタイペイ」は、英語名称だけれど、これを中国語表記ではどうするかについては、台湾と中国大陸とでは異なる。台湾国内では、チャイニーズタイペイは「中華台北」となるのだけれど、中国大陸では、公式には「中華台北」を使っているものの、報道などでは「中国台北」と呼ぶべきであるとされていた。その証拠に、2008年の北京オリンピックの宣伝資料の中国版には「中華台北」ではなく、「中国台北」の呼称が使われていた。
「中華台北」というのは、"中華民国の台北"という意味だけれど、「中国台北」となると、これは"中華人民共和国の台北"という意味になってしまう。つまり、表記レベルで大陸中国は台湾を併合してしまおうとしていたということ。これには台湾は猛反発し、開会式・大会のボイコットを示唆したことを受けて、ようやく、新華社通信を始め大陸メディアも「中華台北」を使うようになった。
このように、国際社会的には「台湾」表記は、デリケートな問題だったりする。だから、台湾のニュースが日本のテレビで台湾表記があったことを取り上げるのも、故なきことではない。ただ、今回の台湾表記にしても、テレビの左下隅にちょこっと映っただけのもの。こんなところの台湾表記を見つけて、それがニュースになってしまうことの意味を、日本も、もう少し知った方がいいかもしれない。
地政学的にみても、日本にとって台湾は重要な位置にあり、台湾との関係は良好であることに越したことはない。台湾の世論が自分達を、中華民国という国であると認識しているのであれば、一足飛びに政府レベルで認めることは難しいにしても、国民レベルでそれを後押しというか、もっと認知することができないかということ。
2005年から日本のプロ野球では、セ・パ交流戦を行っているけれど、これは元々、低迷していたプロ野球人気の回復策の一手として行われた。まぁ、正直言って、交流戦が人気回復につながったとは言いかねる部分もあるけれど、いっそのこと、セ・パ交流戦だけでなく、台湾リーグとの交流戦をやってみるのも面白いのではないかと思う。
今回のWBCでも視聴率は高い。1次ラウンドA組の日本-ブラジル戦は平均視聴率25.4%。日本-キューバ戦でも22.8%をたたき出している。
だから、国内リーグでは人気が低迷しても、海外のリーグとの交流戦だと、また一味違ってくるのではないかと思う。
既に、この間の試合で、台湾のプロ野球レベルは日本と遜色ないことが証明された。日本と台湾とで交流戦をやっても、一方的な試合にはならないだろうし、両リーグ間の交流ももっと深まる。そうすることで、野球ファン、国民レベルで、台湾が一つの国として暗黙のうちに認知されていくことになる。
台湾と日本との関係を強固にしつつ、プロ野球人気の回復を図ることができるのではないかと思う。
この記事へのコメント
白なまず