「週間ロビ」と人に近づくロボット

 
2月27日、デアゴスティーニ・ジャパン(DeAGOSTINI JAPAN)は2013年2月19日より発売を開始した初心者向けロボット組み立て雑誌「週刊『ロビ』」の創刊号が、発売後数日で品切れとなったことをうけ、重版を決定した。

画像



1.人間らしい動きをするロビ

デアゴスティーニ・ジャパンは、イタリアに総本社おく、世界33ヶ国に進出しているデアゴスティーニ・グループの日本法人。分冊百科とよばれる、毎週出版される分冊をひとつひとつ全部買っていくことで、モノが組み上がったり、コレクションできたりする週刊誌を販売することで有名だけれど、今回の「週刊『ロビ』」は全70号を買い揃えることで、小型ロボットが完成するというもの。

だけど、デアゴスティーニがロボット分冊を発売するのはこれが初めてという訳じゃない。過去にもロボット分冊をデアゴスティーニは売っていて、全90号の分冊「週刊 マイロボット」を2006年2月から発売。2007年1月には全85号の分冊「隔週刊 ロボザック」を発売している。

ただ、これらロボットは、往年の海外SFに出てきそうな姿だったり、男の子向けのトランスフォーマーチックな外見だったりと、如何にも"ロボット"ロボという外見だったのだけれど、今回の「ロビ」は、丸っこくで非常に可愛らしいデザインでロボットなのに愛らしい。



ロビは完成すると高さ34センチ、重さ1キロで、200以上の言葉を理解する音声認識による自然な会話も楽しめるという。また、目の色や身ぶり手ぶりで感情を表現でき、複数の性格があり、話し言葉も少し変わるそうだ。更に、曲に合わせてダンスしたり、踊ったりし、テレビのリモコン代わりにチャンネルも変えることも出来る。

デアゴスティーニ・ジャパンによると、週刊「ロビ」の好評の要因として、ホビーロボット市場の枠を超え、家族や女性など普段ロボットに触れることのないまったく新しい層に強く支持されていることや、独自のキャラクター性やコミュニケーション機能によって新規のロビファンが開拓されているという。

確かに動画を見る限り、ロビの動作は非常に細かい上に、人間っぽい動きをしていて、"ロボットロボット"していない。例えば、頭の動きひとつとっても、声のする方向に首をひねる動作を入れながら返事をしたり、タイマーをときも、一々頷きながら、リズムをとって、「時間だよ」と教えてくれる。

また、ロビの声もロボット合成音なんか使わずに、ピカチュウの声で有名な声優の大谷育江さんの声を当てることで、より人間らしい感情表現を実現している。

要するに、ロビは、ロボットでありながら、ロボット的な要素を排しているところに大きな特徴があり、そこに人気の秘密が隠されているいように思われる。これは、ロビのデザインを担当した、ロボットクリエーターの高橋智隆氏の力が大きい。




2.ロボットクリエーター高橋智隆

高橋智隆氏は、現在、株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長で、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。高橋氏がロボットづくりを志したのは、大学在籍時代だという。当初高橋氏は、立命館大学産業社会学部に在籍し、1998年頃には就職活動もしていた。ところが第一志望の会社には落ちたことを切っ掛けとして、モノづくりの究極系あるロボットを作りたいと思い、京都大学工学部に入学。そこでロボットづくりに没頭した。

当時は、ホンダのロボット「P3」が二足歩行しただけで騒ぎとなるような時代で、バランスを崩して、こけないようにするという技術的課題があり、ロボットに二足歩行させることは難しいとされていた。

けれども、高橋氏は、ロボットの足の裏に磁石を付けて、鉄板の上を張り付かせたら簡単に安定するのではと考えた。早速、ガンダムプラモのザクの中身を刳りぬいて機械を押し込み、足の裏に電磁石を取り付け、交互に電気を流してみると、上手く歩くことができた。制作費は全部で10万円ほどだったという。これを特許出願し、企業に売り込みに行ったのが、高橋氏のロボット開発、製作の始まり。

この高橋氏のロボットは業界にセンセーションを巻き起こした。この話に玩具メーカーの「京商」が飛びつき、共同開発がスタート。そして、2001年に歩くロボット『ガンウォーカー』が発売される。『ガンウォーカー』は、「スタジオぬえ」の宮武一貴氏がデザインを担当し、た限定生産5000体だったものの見事完売。

だけど、高橋氏は、多勢で作ると良くも悪くも平均的な優等生的なものになってしまう、もっと、家族として迎えたくなるような、アトムのようなロボットを作りたい、と卒業後、ロボット製作会社ロボ・ガレージを設立する。

高橋氏はロボットの製作に、設計図を作らない。高橋氏は、設計図は、複数の人間でやったり、工場で作ってもらうためにあるのであって、一人でやっている分には必要ないという。設計図をかこうとすると、つま先から頭のてっぺんまで、全部設計しないといけない、そうなると、「ここはどうなるかわからないから、多めにスキマを空けておこう」みたいな部分も出てくる。それだといいモノにはならないのだ、と。ただそれだと商品化の時に困るので、別に商品化用のプロトタイプを作っておくのだそうだ。

高橋氏は東京に拠点を移す前は、実家の2階の6畳間をロボット製作工房としていた。CADもない。曲面を作るときも、木型にカセットコンロで熱したプラスチックを押しつけて、裏から掃除機で空気を抜いて作る。部品と向き合いながら製作している方が、機械としてもデザインとしてもより良いものができるという。




3.シン・ウォーク技術

高橋氏のデザインするロボットは人間くさい。それは氏の独特の発想とアプローチによる。例えば、二足歩行ひとつとっても、人間は、重心を軸足へ瞬時に移しながら歩いている。つまり、二足歩行には重心を左右に移動させる必要があり、この技術を開発するのが非常に難しいとされていた。

ロボットも、足を持ち上げるために左右に重心移動をする。だけど、躰を傾けて重心を一方に移動させるのはいいけれど、重心をかけていない方の足の付け根は、重心を掛けた方の足の付け根と比べて、傾けた分だけ地面からより離れた位置にある。この状態で、重心をかけていない方の足を前に踏み出すと、今度は足の長さが足りず、地面に届かないという困ったことになる。これまでのロボットは、その欠点を隠す為に、膝をあらかじめ曲げている状態にして歩くことで、足りない分の長さを稼ぐようにしていた。これが、これまでの二足歩行ロボットが中腰で歩いていた理由。

高橋氏は、これが気に入らなかった。

人が歩く時には足が届かないといことはないという事実を元に、高橋氏は、原点に戻って考え、人間の足の付け根の軸は骨盤に垂直ではなく、斜めに付いていることに気付く。そこで、ロボットの足の軸を人間と同じように配置したところ、中腰にならずに滑らかに歩くことができるようになった。高橋氏は、この技術を「SHIN-WALK(シン・ウォーク)」と名付けて特許を取得し、既に、いくつかのロボットに採用されている。

更に、高橋氏は、それだけではなく、ロボットの動作にも気を配っている。例えば、立上がるときなど、腰を上げる前に左足をちょっと持ち上げて、反動をつけたりするといった余分な動作をさせることで、ロボットに個性を与えようとしている。その為に、なるべく多くの関節一度に動かし、一見無駄な動きを入れることで、実は自然な動きに見えるのだそうだ。

画像


これまでのロボット開発は、中身があって、外見は飾りで、最後の工程だった。だけど、高橋氏は、「こんなロボットがあったらいいのに」とか「こんな外観だったらいいのに」「こんな動きだったらいいのに」というのが先にあり、それを実現させるにはどんな技術開発が必要なのか、という発想が必要だと言う。外見のための中身にする。高橋氏のロボット開発は、今までと逆の開発アプローチから始まっている。

人間らしさとは、その動作によっても引き起こされる。歌舞伎などでは、男性が女性を演じる「女形」というのがあるけれど、本当は男性であるのに、女性の様に見えてしまうのは、その役者が"女性らしい動き"をしているから。綺麗な顔の男性が、女性の衣装を着たところで、動作が男の動きのままであれば、「女装」の域を出ることはない。

だから、ロボットに人間らしい動作を入れるということは、一見無駄なように見えて、実は人間らしく感じさせる効果が隠されている。そして、更に、ロビの声に声優をあてることで、もっと人間らしさを出すことに成功している。

高橋氏は、2009年にロビのプロトタイプともいえる二足歩行ロボット「ロピッド(ROPID」を開発・発表している。ロピッドは、動きこそロビと遜色ない動きをするのだけれど、その声は、如何にもロボットといった合成音声だった。声が声優から合成音声になるだけで、随分と印象が変わる。

だから、無駄な動作や声といった、一見、飾りと見えるようなところこそが大事であって、そこに人気が隠されているのだろうと思う。

ここまで人間チックな可愛らしいロボットが出来てくると、将来的には、カーナビと連携して、車内で会話しながら、ナビしてくれるとか、ドライバーが行く先を思い出せなくても、半年くらい前、何処どこに行く途中であった店とか、曖昧な表現からでも、過去のドライブ履歴から検索して「ここかな?」と教えてくれるようになるかもしれない。

ロボットが家にいるのが当たり前の時代はすぐそこまでやってきているかもしれない。




画像

この記事へのコメント

  • 日比野

    白なまずさん、コメントありがとうございます。

    >将来は、エンジニアと言うよりは、アニメーターの様に人の動きを観察し「らしさ」を表現できる人がロボット開発のリーダーに成りうると言うことですね!

    そうだと思います。この高橋氏は、江戸の昔に生まれていたら、きっと、カラクリ人形師として、名を上げていたのではないかと思いますね。ある意味、日本のロボットの進化の方向性を指し示した、といったら言い過ぎかもしれませんけれども、業界に与える影響はとても大きいと思います。
    2015年08月10日 15:23
  • sdi

    >「こんなロボットがあったらいいのに」とか「こんな外観だったらいいのに」「こんな動きだったらいいのに」というのが先にあり、それを実現させるにはどんな技術開発が必要なのか・・・・
    良くも悪くも、実に日本の職人的技術者だと思います。こんな人が自分の創りたいものを実際に形にして、それが一定のマスをもつ市場に評価される社会というのは誇ってよい。
    同時にこうも思うんですよ。
    「そのロボットで何をやりたいのか?」
    「何を成し遂げるためにそのロボットを開発したのか?」
    自分の満足するロボットを作りたいから作った、というのも確かに回答ですがそれだけでいいのでしょうか?。全てを高橋氏のような技術者が考えねばならないわけではありませんが、技術の上位にある戦略というものを考えて技術開発の方向性を決定する人材が必要なのでは?、と記事をみて思いました。
    2015年08月10日 15:23
  • 白なまず

    将来は、エンジニアと言うよりは、アニメーターの様に人の動きを観察し「らしさ」を表現できる人がロボット開発のリーダーに成りうると言うことですね!
    エンジニアの仕事は基本パーツのモジュール化、規格化位、生産でしょうか。制御プログラムなんかもモジュール化で役割分担が明確になり、プログラムすら書く必要がなくなりモジュールの機能として認識され、表情、感情などの情緒を表現するプログラムはAIプログラムの味付けとなり、プログラムと言うより、アニメのキャラクター設定の様になるかもしれません。
    それにしても、CADの類で設計する方法より高橋さんのデザインの方がブレイクスルーが早い?のは、昔のカラクリ師のように感覚が優れているからでしょう。
    2015年08月10日 15:23

この記事へのトラックバック