孤立化する中国

 
昨日のエントリーのつづきです。

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4.李記者の奮闘

昨日のエントリーでは、ワシントンポスト記者であるハーラン氏の曲解報道による中国の反発について述べたけれど、同じ記者でも、それを正そうとした記者もいる。それは、他ならぬ中国鳳凰衛視(フェニックステレビ)の李・ミャオ氏。

鳳凰衛視(フェニックステレビ)は、香港に拠点を置き、世界の中国語圏に向けて放送をしている衛星テレビ局で、世界150カ国で視聴可能。中国本土だけで2億人が見ているとも言われている。

李・ミャオ氏は、中国の大学で日本語を勉強した後に来日し、慶応大学の博士課程を修了した。専門は国際関係で、大学院生時代はNHK国際放送の中国語番組のキャスターを務め、日本滞在は十数年に及ぶ。現在は鳳凰衛視(フェニックステレビ)の東京支局長に就任している。

今回のワシントンポストの曲解記事について、李・ミャオ氏は、中国版ツイッター「微博」でこの報道は間違いであるとつぶやき、訂正しようとしていた。そのつぶやきは、ざっと次のとおり。

日本首相官邸を通じて、安倍首相発言の日本語原文を確認したけど、安倍首相は「衝突」という単語を使ってないし、「中国の日本やアジアの隣国との衝突は、中国の根深い需要に基づく」とも発言してませんよ。むしろ日本の官僚が驚いていて、どこのメディアが報道したんだって聞いてくる。常識的にいって、安倍首相が直接こんな表現を使うわけはないから。
2月21日



これが真相です。さっき菅義偉官房長官に質問しました。(1)菅官房長官は、安倍首相は「中国の日本やアジアの隣国との衝突は、中国の根深い需要に基づく」とは発言してないと明言しました。「ワシントンポストの報道に誤りがあり、誤解を引き起こした」として、日本はすでに中国側に説明したとのことです。(2)日本はまた、在中国日本大使館を通じて、中国メディアにも正確に報道するよう要求しています。
2月22日



さっき日本外務省を取材して知りましたが、安倍首相発言の誤報問題について、今日正午、外務省はすでにワシントンポスト側に警告したそうです。「安倍首相発言の報道は不正確であり、誤解を招いた」、と。
2月22日

経過:21日、日本は中国の照会を受けました。紹介の内容は「環球時報の報道内容は事実かどうか」。日本外務省は確認語、すでに「外交ルートを通じて中国メディアに正確に報道し、誤解を引き起こさないよう要求する」と回答しています。外務省言うところの「中国メディア」とは環球時報のこと。環球時報は確認し、正確な報道に努めると日本外務省に回答しています。
2月22日



アメリカメディアや日本メディアなどともかく海外メディアが「報道した」というだけで正確な情報だと思い込むロジックはいったいどうして生まれたものなのやら?海外メディアの曲解や誤報も相当多い。疑いの眼で真相を追求するのが記者の責任です。安倍首相は2月15日、東京でワシントンポストの取材を受けました。安倍首相の日本語発言は首相官邸に元の記憶があります。今日、首相官邸で記録を見せてもらいましたが、「中国の日本やアジアの隣国との衝突は、中国の根深い需要に基づく」と発言していません。
2月21日



海外メディアが報道した → 中国メディアは翻訳、報道できる → ゆえにもし海外メディアの報道が間違っていたとしても、中国メディアはただ翻訳しただけなので責任はない。わかりました。こういうロジックなのですね。
2月22日



その道理はわかったけど、付ける薬がないとしか。どれだけ説明しても無駄でしょう。自立した思考を学び、疑いの目をもってニュースを読めるようになるまで、まだ時間が必要なんだと思う。
2月22日



安倍首相のワシントンポストインタビューの日本語原文を入手しました。安倍首相は「衝突」「中国は対立、衝突を希望している」とも言っていない。ワシントンポストが報道した「Chinese need for conflict is ‘deeply ingrained”」とも、あるいは中国側が報道したような「中国の日本やアジアの隣国との衝突は、中国の根深い需要に基づく」とも発言していません。中国に関連する部分を翻訳しました。議論の前に原文を読んでください。
2月23日

と、このような感じで、官邸に取材し、インタビューの原文を入手した上で、きちんと説明している。単にそれだけのことで、特段日本寄りのつぶやきというわけじゃない。

この李・ミャオ氏は、先般、小野寺防衛相が「中国機に信号弾を撃つ」と発言したと、朝日新聞が捏造デマ報道をして騒ぎになったときも、そんな発言はしていないと、いち早く「微博」で流し、事態の鎮静化に貢献している。

日本はこうした記者を大切にするべきであり、普段からパイプを作っておいたほうがいいだろう。




5.孤立化に向かう中国

だけど、こうした沈静化の努力をにも関わらず、中国は聞く耳を持たない。2月28日、中国網は「中国メディア、日本のワナに注意すべき」と題した記事を掲載し、「安倍総理が実際の発言の中で『紛争』、『中国は対立や紛争を望んでいる』などと直接触れることはなかったけれども、中国の愛国主義教育・反日教育を同一視し、中国の愛国主義教育の中日関係に対する妨害は根深いものだとする認識が間違っているのだ」と逆切れした。

まぁ、元々、射撃レーダー照射しても、していないと言い張る国なのだから、こうした"逆切れ"も少しも不思議なことではないけれど、わざわざ反論するということは、それなりに思い当たるフシがあるということ。

尖閣有事と長期戦」のエントリーで、筆者は、日本の海外に対する広報努力によって、尖閣ついて、欧米メディアを中心に、国際法上日本の主張に分があり、中国の対応は各国共通の懸念になっているとの論調が目立つようになってきたと紹介したけれど、やはりアメリカでも同じ流れにあるようだ。

産経新聞の湯浅博氏によると、当初、昨年9月に安倍自民党総裁が誕生したときには、ワシントンポストは日本が右傾化して「第二次大戦後、最も対決的になっている」と報じ、安倍政権誕生後の今年1月3日、ニューヨークタイムズは社説で、安倍総理を「右翼の民族主義者」としていた。

ところが、その後、中国海軍の「ロックオン」事件とその公表があり、2月にはアメリカの各機関が、中国からのサイバー攻撃をうけ、人民解放軍部隊「61398」部隊が関与している疑いが濃厚だとする報告がなされ、2月17日には、中国が「米議会スタッフ招聘プログラム」をもち、文化交流を名目に、米議会議員、スタッフ、ジャーナリストに対して買収まがいの視察旅行を施していた実態が暴露されたと伝えている。

筆者は、これまで何度か中国の「三戦による攻撃」について述べたことがある。「三戦」とは、2003年12月に改定された「人民解放軍政治工作条例」の中で「輿論戦、心理戦、法律戦」を実施し、敵軍の瓦解工作を展開すると規定した三つの戦い方のことで、大雑把にいえば「輿論戦=宣伝戦(プロパガンダ)」、「心理戦=軍事的圧力」、「法律戦=法的正当性」になるのだけれど、ここ最近、中国は、日本に対しては、度重なる領海侵犯、領空侵犯をして軍事的圧力をかけ、アメリカに対しては、サイバー戦を仕掛けるという「心理戦」を行い、また、「米議会スタッフ招聘プログラム」なるものでアメリカの重要人物達を買収して、自国に都合の良い発言をさせる「輿論戦」を主に仕掛けてきていた。

それに対して、日本は、先般の火器管制レーダーに照射を公表し、中国の異常性、違法性を暴き出すという「法律戦」によってカウンターパンチを放ったというのが、今年に入ってから日米中の3国を舞台として行われている「三戦」。

湯浅博氏によれば、こうした中国の実態や工作が明らかになるにつれ、欧米メディアの論調も日本寄りになりつつあるという。例えば、安倍総理の訪米では、ワシントンポストの社説が一転して中国に厳しくなり、イギリスのフィナンシャルタイムズも、中国とのいさかいも民族感情に訴えることなく、かつ毅然と対処した、好意的だという。

事実そのものは、不変だけれど、嘘に基づいた宣伝は、いったんバレるとその途端に効力を失う。

中国は、自身の振る舞いによって、急速に自らの信用を失いつつある。身から出た錆。流石に中国も、味方が欲しくなったのか、韓国に甘い囁きを始めている。

2月25日、中国外務省の華春瑩報道官は、韓国の朴槿恵大統領の就任について、「中国は韓国と大変良好な関係にあり、今後ともに各分野における友好交流を進め、両国間の戦略的協力関係を充実させていきたい」と述べ、就任式に、これまで派遣していた中央委員級の幹部よりワンランク上の政治局員である劉延東国務委員を派遣している。

また、1月11日には、政府特使として韓国を訪れた張志軍外務次官が、「日本が歴史を否定し続け歴史問題を正しく認識しなければ、経済がいくら発展しても道義的に立つことができない。…日本が歴史問題でどのような選択をするかが、この地域の平和と安定に影響を与える。…韓国と中国がはっきりとした態度を取らねばならない」と、韓国に「共闘」を呼び掛けている。

こうした中国の動きについて、中国政府系シンクタンクの研究者は「日本との歴史認識や領土問題 などで、朴政権と共闘できれば理想的だが、少なくとも安倍晋三首相が主導する“中国 包囲網”への韓国の参加は阻止したい」と分析しているそうだけれど、筆者も同感。中国は、自分が世界から微妙に孤立しつつあるのを感じ取り、焦り始めているのではないか。

となれば、やはり、中国の挑発には乗らず、逆に、挑発させることで、国内の危機意識を高め、粛々と国防力を増強し、自衛隊法、憲法改正に向けて準備を進めつつ、対外広報に注力するのが得策になる。




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