人が四感を支配する日
東京農工大学の開発チームがディスプレイに映し出されたモノのにおいを実際に画面から発生する装置を開発した。
これは、アメリカ・フロリダ州のオーランドで3月16日から23日まで開催された「IEEE Virtual Reality conference」にて、発表されたもので、「Smelling Screen」と名付けられている。開発したのは、東農大大学院工学研究院の石田寛准教授らのグループ。
「Smelling Screen」には、ディスプレイの四隅にジェル状のペレット剤とファンが備えられていて、ファンが発生する気流によって、ペレットから蒸発する匂いを、スクリーンを見ている人に送り届ける仕組み。使用者は、桃やリンゴ、コーヒーなど画面に表示されたものの香りを感じることができる。
この「Smelling Screen」の最大の特徴は、風をコントロールしたことにある。
過去に、食品の販促やイベントなどで空中に匂いを放出する装置を導入した例は既にある。だけど、その殆どは、ファンで起こした風に匂いを乗せて遠くまで運ぶか、匂い付きの空気をほんの少しだけ、その場に出すだけのものだった。
実際、118種類の香りのアロマカートリッジをプリンターへインクカートリッジを装着するように装備し、DVDに組み込まれた匂い情報をトリガーにして匂いを出す「SMELLIT」という装置のコンセプトもあるようだ。
だけど、いずれにせよ、匂いを出す装置を見る人の顔の正面に置く必要があるため、どこから匂いが出ているかバレバレになるのは避けられない。
そこで、石田准教授らは、風を制御することで、あたかも匂いや風がモニタやスクリーンに映し出された画像から来るような感覚を与えることができないかと考えた。
まず、二つのDCファンを、見る人の左右両側に向かい合わせに配置して、同じ強さの風を発生させる。風は中央で衝突して、四方八方に流れていく。この時、ファンの背後のチューブから匂い蒸気を放出すると、ちょうどその中央部で、匂いの濃い部分が作られるのだけれど、中央部で衝突した風の一部は、モニタを見ている人に向かって流れ、その人は、疑似的に匂いを感じることができる。
当初、この装置は、MSF(multi-sensorial field)ディスプレイと名付けられ、左右のファンで発生させる風の強さのバランスを調節することで、風の衝突点を左右にずらし、匂いの分布を移動させることが出来た。
このMSFは、2010年の東京農工大学・学園祭で、電子広告を模擬した展示に使ったところ、見学した人の多数が、液晶モニタに映った桃から匂いが出ているように感じたと話している。
だけど、MSFでは、中央で衝突した風がモニタを見ている人の方向だけでなく、正反対のモニタ側や上下方向にも流れてしまうので、ある意味、匂いの送付先に無駄な部分が発生してしまう欠点があった。
そこで、石田准教授らは人のいない方向への風の生成を抑えるために、ファンにノズルカバーを付けて、風の流れを調べたところ、縦長のノズルを付けた場合、上下に吹く風が抑制されることが分かった。また、ノズルカバーを付けた状態でも、カバーが無い時と同様に、左右のファンの風量を調整することで、匂い分布の位置を変えることも出来ることが分かった。
今回、発表された、「Smelling Screen」が縦長のノズルを持っているのも、おそらくは、上下方向の風の流れを抑制するためだと思われる。
今の所、「Smelling Screen」は1回につき1つの匂いをポンプで送り出しているだけれど、次には、プリンタのようにカートリッジを組み込んで簡単に匂いの交換ができるように改善していく予定だという。
以前「家電再編と感触を伝えるロボット」のエントリーで、疑似触覚を生み出す「テレイグジスタンス技術」を取り上げたことがあるけれど、これと今回の「Smelling Screen」を組み合わせることで、「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」と人間の五感の内、四感を刺激する装置を造れる可能性が出てきたことになる。
とうとうバーチャルリアリティの世界が夢物語では無くなってきた。それに、24時間、年柄年中何か食べている人なんて普通はいないから、「味覚」以外の四感を疑似体験できるようになったということは、もう殆どの場合において、バーチャルリアリティを実現できるということを意味してる。
面白い時代になってきた。
この記事へのコメント
mohariza
<グランド ハイアット 東京は、危険な建物で、不親切極まり無い!>を弊ブログに記しました。
昨日、鳩子の結婚式に参列して、
<六本木ヒルズ内にあるグランド ハイアット 東京の宴会場の建物は、危険極まりない建物である。
火事が起こった場合、宴会場から逃げるほとんどの人が大パニックになり、死傷者が出る!
設計者(設計事務所)、当然、経営者の責任が問われ、定期検査をしている消防署の責任も問われると思う。>
ことを感じ、
「色・素材等意匠は良いかも知れないが、人間心理学も、色彩心理学も無視した設計で、言語道断な、欠陥建物だ!」と、強く思い、
私としては、このような建物を見ると、同じ建築設計者として、情けなくなり、頭に来て、怒りが起こってしまい、
このようなことが世の中にまかり通るのも、頭に来て、
よく今まで、誰も このような危険性があるのを指摘していなかったのか?
大変不思議に思い、
世の中の設計者なり、建築の専門家の常識も問われる気がしました。
私は、不正義がまかり通った「 なあ~なあ~な世界」は、許すことは出来ません。
日比野
「・ヒトに備わったもろもろの感覚同士が、通常考えられているほどバラバラに働いておらず、それどころか複数の感覚情報が相まって処理されていることが、共感覚者と一般人の別なく、脳の重要な特性である…」
そういえば、テレイグジスタンス技術(触原色原理)も4つの異なる触覚受容器それぞれからの触覚刺激を(脳内)合成することで、様々な触覚を認識するという技術ですから、視覚や嗅覚といったものも同様に脳内で合成処理されるというのは十分有り得ることだと思います。
実際に、クロスモーダル技術(http://kotobukibune.at.webry.info/201212/article_9.html)などのように、視覚情報と単純な振動刺激だけで、リアルな触覚を生み出す技術もあります。ですから、mohariza様の仰るような装置は十分実現できる余地があると思います。