G20のお墨付きを得たアベノミクス

 
4月22日、東京外国為替市場の円相場は、1ドル=99円70~71銭で大方の取引を終え、ついに100円目前の水準となった。日経平均も円安を好感し、日経平均の終値は1万3568円37銭と年初来高値を更新している。

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これは、先週行われていたG20財務相・中央銀行総裁会議で、各国が日本の金融政策を容認したことを受けてのものと見られている。

19日に採択されたG20の共同声明の訳文はこちらの財務省HPに掲載されている。声明では、まず世界経済の現状について触れ、「金融市場は改善が続いているものの、成長はあまりに弱い」としているのだけれど、声明の中で、「日本」という単語が出てくる箇所が2つある。それは次の2つ。
・我々は、進展は見られるものの、成長を強固で持続的かつ均衡あるものとするには更なる措置が必要であることに合意している。我々が前回会合して以降、いくつかの国は経済活動を刺激するための措置を取っている。とりわけ、日本の最近の政策措置は、デフレを止め、内需を支えることを意図したものである。

・日本は、信頼に足る中期財政計画を策定すべきである。大幅な黒字国は、国内の成長源を強化するための更なる措置の実施を検討すべきである。我々は、潜在的な成長を引き上げ雇用を創出するため、引き続き野心的な構造改革を実施する。
と日本について、安倍政権の経済政策は「デフレを止め、内需を支えることを意図したもの」と明記すると共に、「信頼に足る中期財政計画を策定すべき」と述べている。

これまで、何かと言えば、中韓が、日本の金融緩和は円安誘導政策だと非難していたのだけれど、今回、G20は、はっきりと「アベノミクスは円安誘導政策ではない」と認め、声明文にそれを記載した。一体、どういう説明と外交手腕によって、共同声明に記載させることができたのかは分からないけれど、これで世界的に日本の金融緩和は容認されたことになる。これは実に大きい。

尤も、麻生財務相は「日本の金融緩和は通貨切り下げではなく、景気回復が目的だという点を説明し、反対意見は出なかった」としている。

また、黒田日銀総裁も「会議での議論は日本の今回の金融緩和を念頭にしたものではなく、主要な先進国がそろって大幅な金融緩和を続けているなかで、長期的に何らかの副作用が出てこないだろうかという議論だった。将来、先進国の経済が回復し、金融緩和策からの出口を模索する際の影響を取り上げる参加者もいた」と述べている。

実際、国際通貨基金のある幹部は、「日本、米国、ヨーロッパの経済が回復できなければ、結局は自分たちも成長は難しいという事実を新興国が認めた」と述べたそうだから、或いは、他国の方が大きく見方を変えつつあるのかもししれない。



ただ、同時に、声明では「信頼に足る中期財政計画を策定すべき」と釘を指している。だから、もしかしたら、日本が、財政規律の健全化を約束する代わりに、金融緩和政策を認めさせたという"バーター的"なことも、有り得なくもない。

4月19日、麻生財務相は、ワシントン市内での講演で、今年半ばに「中期財政計画をまとめる」と話しているから、G20でもそれなりの発言はしたのではないかと思われる。

先日、麻生財務相が、イギリスのフィナンシャル・タイムズに寄稿し、消費税について「予定通り引き上げる」との考えを表明したとして、日本のマスコミは、「これまでより一歩踏み込んだ」と評している。

だけど、経済評論家の三橋貴明氏が自身のブログで指摘しているように、実際の発言は「昨年夏、不人気な消費税増税について三党合意があった。我々の財政再建に対する国際的なコミットメントは成立している。日本は2015年までに主要な財政赤字を半減し、2020年までに解決する。私は消費税を「予定通り」に上げるだろう。」ということであり、従来から別に踏み込んでいるようには読めない。

消費税増税は、あくまでも、景気動向をみてのことであり、それ以上でも以下でもない。それに麻生財務相自身、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、「自律的な景気回復は少なくとも2、3年先」との見解を述べている。

だから、麻生財務相は本心では、消費税を上げられるようになるのは、2、3年先の話であって、それも「予定通り」の範疇に入ると考えているのではないかと思う。

なぜなら、消費税増税についての三党合意の中には、景気条項があり、今年の4~6月の景気をみて判断することが記されている。だから、景気動向によって、増税をやるやらないの判断をするというのは、三党合意に基づいたものであり、嘘を言ったわけでもなんでもない、「予定通り」。

だから、多分に贔屓目なのかもしれないけれど、麻生財務相の一連の発言は、海外から「アベノミクス」は、円安誘導政策だという批判を躱し、金融緩和を世界に容認させる"カード"としての財政計画であり、消費税増発言だったのではないかとさえ。

仮に、今年から数えて"2年後"の2015年に、財政赤字が半減しているのであれば、それは相当国内景気が回復して、税収が増えているということであり、そのタイミングであれば消費税増による悪影響は最小限で済むことも期待できるから、増税するにしても、やはり景気回復してからの方がどう見ても妥当だと思われる。

このように、世界から「アベノミクス」に対するお墨付きを着実にゲットしていると、一見"障害"が無くなってやり易そうに見えなくもないのだけれど、仮にここまでやって、上手くいかなかった場合、その反動は大きなものになる可能性がある。世界からの日本に対する信頼に傷がつくことだって十分有り得る。安倍政権の責任は重い。



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この記事へのコメント

  • 洗足池

    麻生大臣が消費増税の必要性を正式に表明した。さて安陪が消費増税に何というか見ものだな。

    麻生の子分の三橋が消費増税について最近口を濁していると話題になっている。親分の意向を反映したものだろう。そのうちTPPもやむを得ないと言い出すに違いない。全ては選挙の為とはいえ、ここに集まる三橋信者には腹立たしく裏切られた思いだろう。アベノミクス最初の試練はTPPと消費増税だ。

    パンチのある第三の矢が出て来ないなら株高も終わりだろう。
    2015年08月10日 15:23
  • opera

    財政健全化の国際的な定義は、公的債務(政府+地方)の絶対額を減少させることではなく、対GDP比を減少させることですから、経済成長によりGDPを拡大させることがそのまま財政健全化に結び付くということを、もっと周知させるべきでしょうね。消費税を増税しても、-成長になってGDPが減少し、なおかつ税収が減収になったのでは本末転倒ですから(この馬鹿げた事を日本は1997年に一度やっていますが)。

     ところで最近、アベノミクスを含んだ安倍政権の基本方針、というより今後の日本国の基本方針について、かなり示唆に富む指摘を見聞きしました。

    ○オールジャパンで「構造強靭化」を!
    http://www.mitsuhashitakaaki.net/2013/04/16/fujii-37/

     この中で、藤井聡教授は、
    『第一回懇談会にて、事務局から提案された資料にありますように….国土強靱化の取り組みは、様々な行政上の取り組みのさらに「上位」に位置づけられ、強靭化で議論した内容を、様々な行政の取り組みに反映させていく、という見通しが紹介されています。
    (事務局からは、こういう考え方は、全ての計画/取り組
    2015年08月10日 15:23
  • 日比野

    operaさん、コメントありがとうございます。

    >…「戦略階層」に置き換えた場合、どのように整理する事ができるのか…

    実は私も、「『第一回懇談会にて、事務局から提案された資料にありますように….国土強靱化の取り組みは、様々な行政上の取り組みのさらに「上位」に位置づけられ、…」の箇所を読んだときに、丁度「戦略の階層」で考えたらどうなるのかな、と思いました(苦笑)

    何時のエントリーに書くとは言えませんけれども、宿題とさせてください。
    P.S …宿題溜まってますねぇ。白なまずさんからの4S炉も途中まで書いてほったらかしになってますし…。頑張らなくては…
    2015年08月10日 15:23

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