4月19日、ネット選挙を解禁する改正公職選挙法が、参議院本会議で全会一致で可決され成立した。
1.ネット選挙解禁
この改正法は、夏の参議院選挙とそれ以降に行われる衆議院選挙と地方選挙にも適用される。改正された内容はざっと次のとおり。
《解禁内容》今回の改正は、ネットで自分の政策や主張を発信する政党や議員も増えているなか、選挙運動には利用できないという不都合を解消し、有権者により多くの判断材料を提供することを狙いとしている。と同時に選挙妨害や、誹謗中傷・成りすまし対策をしっかりとやることも大切になる。
・ホームページやブログ、ツイッターやフェイスブックなどのSNS、動画投稿サイト等による選挙運動が全面解禁。
・今後現れるインターネット上の新しい手段も利用可能。
・電子メールについては、誹謗中傷や成りすましに悪用される懸念から、政党や候補者だけに認め、一般の有権者の利用については、今後の検討課題とする。(夏の参議院選挙の次の国政選挙から「適切な措置を講じる」と改正法付則に明記。)
・ネット上の有料広告は、ホームページに誘導する「バナー広告」を政党に限って認める。
《注意事項》
・誹謗中傷・成りすまし対策として、発信元が特定できるよう、ホームページなどに連絡先の表示を義務づけ。連絡先は、電子メールアドレス以外に、ツイッターのユーザー名でも可。但し違反しても罰則なし。
・電子メールを利用する場合には、連絡先に加えて、政党名や候補者名の表示も義務づける。違反した場合には禁錮か罰金刑、場合によっては公民権停止も有り得る。
・氏名などを偽って表示した場合にも、罰則が科される。
《その他・関連法》
・プロバイダー責任制限法では、候補者などからプロバイダーに対して、名誉毀損に当たる情報の削除を求める申し入れがあった場合、情報の発信者に対して削除依頼に同意するかどうかの照会期間を7日から2日に短縮する特別規定を設ける。また、メールアドレスなどの表示義務に違反している情報も、同意照会なしにプロバイダーが削除しても免責される。
与野党は近く、新たな選挙運動に関する指針案をまとめ、違法となる具体的な運動の判断基準を示す予定だそうだけれど、自民党は選挙中に弁護士団による対策チームを新設し、専用窓口で相談を受け、法的な対策を助言する方針のようだ。
みんなの党はネット上で同党がどう評価されているかを分析し、支持拡大に役立てるとしている。また、成りすまし防止のために、所属議員のメールに電子認証を付与する方針を決め、日本維新の会は、ネット対策強化に国会議員団の研修会を開催する方針のようだ。
民主党もネットでの無党派層への浸透などを期待しているようで、細野幹事長は「ネットを活用し多くの人に有効な情報を伝えたい。党としてしっかり取り組みたい」と述べ、党所属議員にフェイスブックとツイッターを開設するよう促している。また、ネット放送用のスタジオ機能のある車を用意して、討論会の映像を配信するなどの準備をしているそうだ。
だけど、いくらネットを使って、より多くの有権者に訴える機会を増やせたとしても、大切なのは、その中身であり、突っ込まれ所満載の無茶苦茶な内容であれば意味がない。
前回の総選挙前、ニコ動での党首討論が行われネットで生中継されていたけれど、その時のニコ動コメントや、ツイッターでの実況および感想をみていても、バシバシつっこみや意見が流れていた。特に、ネットで政治を見るような層は、自分で情報を取りに行く層でもあるから、余りに変なことをいえば、すぐに炎上する可能性もある。その意味では、駅前で街頭演説をしているときとは一寸勝手が違うかもしれない。
因みに、ニコ動を運営している株式会社ドワンゴの川上会長は、棋士の羽生善治氏との対談で、「実際今、ニコニコのほうで一番見られてるものっていうとアニメ、政治、そして将棋なんですよ」と述べているから、多寡がネットだなんて、ネットの情報発信を馬鹿していると痛い目にあう。
とりわけ民主党は、街頭演説をしているときでさえ、「もう頑張らなくていいから」などと声を掛けられるくらいに嫌われている。それがネットだともっとそれが激しくなると思われる。
ただ、民主党代表である海江田氏は、ネット選挙は今一つのようで、ツイッターもフェイスブックも使っていない。
今回の法改正についても、前日の18日に記者会見で、ネット選挙への戦略を質問され「私は毛筆をこよなく愛します」とコメントしている。2月24日の民主党大会では、「自民・公明の過半数獲得は許さない」としながらも、「対話と行脚を徹底する『靴底減らし運動』を行う」としているから、海江田代表に、ネット選挙に本腰を入れる様子は見られない。
党内の関係者からは、 「選挙区が狭い衆院選なら靴底を減らしての『どぶ板』も理解できるが、選挙区が広い参院選ではネット活用による情報発信こそが大きな焦点になるのでは」という声があるという。
まぁ、国民から半ば売国政党だと見做されている民主党にしてみれば、ネット選挙に精を出すより、従来型でやったほうが返っていいのかもしれない。
2.情報の信頼性は絶えず変動する
デジタルマーケティングを取り扱う株式会社アイレップは、2月27~28日に、20~60代の男女1000人を対象に、ネットでネット選挙解禁に関する調査を行い、このほどその結果を公表している。
それによると、50.2%の有権者がネット選挙解禁賛成し、ネット選挙が解禁となることで、有権者自身の投票先に「変化が生まれる可能性がある」という人は全体の28.2%、政策論争が「深まると思う」という人は全体の38.1%、「投票率が上がると思う」という人は全体の56.7%となった。
更に、過去の選挙でネットを参考にしたことがあるという有権者は56.6%。ネット選挙解禁後にネットを参考にしたいと回答した有権者は76.1%と実に3分の2を超えている。有権者のネット選挙に対する関心は高い。
但し、検索エンジンを使って選挙情報を探したことがある人が「毎回、何らかの検索をしている」という人が8.3%、「何度か選挙で検索をしたことがある」という人が24.1%で、自分で検索までした人となると、3割程度にまで落ち込んでいるから、やはりネットで、積極的に情報発信することはそれなりに意味あることだと思われる。
アイレップは、ネットの検索エンジンを使って、候補者名で検索した際に、検索結果にネガティブなサイトが多く上位表示していた場合、それらのサイトに、低品質なリンクを数万単位で張る等のGoogleが定めるスパム施策を仕掛けて、無理矢理そのサイトの検索結果順位を下げようとしたり、競合となる政党名や候補者名をGoogleヤフーの検索エンジンで検索した際に表示される関連検索ワードに、ネガティブな単語が出現するように、恣意的に仕向ける可能性を指摘している。
実際、アイレップの調査では、何らかの検索をしたことがある有権者のうち、検索結果で候補者にとってネガティブな情報ばかりが表示された場合、「自身の投票先に影響が出るかもしれない」と回答した有権者は、57.5%と半数を上回っているから、ネガティブ情報の取り扱いには注意が必要になる。
これはネット選挙でも、ネガティブキャンペーンが効果を発揮するということを示唆している。キャンペーンと誹謗中傷の線引きをどうしていくかという問題がクローズアップされる可能性はある。
尤も、これは、これまでマスコミが散々やってきたことでもあるのだけれど、逆にマスコミがこの問題を利用して、「だからネットは信用できないのだ、有権者はテレビを見るべきだ」なんて、"ネット下げキャンペーン"を張ってくるかもしれない。
ゆえに、ネットだろうが何だとうが、情報発信者からの情報の信頼性と、情報を受けた側のリテラシーの双方が作用した結果としての"磨かれた情報"こそが価値を持つようになると思われる。
4月19日、維新の会の橋下共同代表は、「ネットを有効活用できる政党は少ない。政党は広告代理店の餌食になる。…代理店から受けた提案で、有権者の意識を方向付けるなんて、すぐにはできない。…政党が発信する情報よりも、有権者の間で出回る情報で、流れができる。それが選挙におけるネットの役割だ」と述べているけれど、或いは、橋下氏もこのネットで"磨かれた情報"の意味に気付いているのかもしれない。
では、ネット情報の信頼性について、どう考えるべきか。これについては、次の2つのエントリーで述べたことがある。
「メディアの利用実態とネットの可能性について」
「情報の信頼性について考える」
これらのエントリーでは、SNSやブログの信頼性は新聞やテレビと比べてまだまだ低いこと。ネットは情報の歪みに気付く機会を与えたこと、そして、その信頼性は、過去の実績や、多くの人の目による判定の集積を見ていくしかないと述べている。
つまり、多くのユーザの目という様々な角度からの検証に耐え、仮に間違いがあったとしても、直ぐに訂正するなど、正しい情報伝達に努め続けている、という実績がその目安になるということ。
だけど、何時も自分がチェックしていて、過去の主張や記事の内容の正否を知っているというサイトならいざ知らず、初めてみるようなサイトで大々的にネット選挙などをされても、どこまで信用できるのか、どこまで影響力があるのかを推し量るのは中々難しい。できれば、なんらかの指標があればその助けになる。
その指標として考えられるものがあるとすれば、例えば、googleで行っている、より多くの良質なサイトからリンクを貰うことでランクが上がる、「ペイジランク」であるとか、人気ブログランキングなどの順位があるだろう。
これらは、いずれも、人気のあるサイトは"悪いサイトではない"、"信頼されているサイトである"といった、民主主義的な考えをその基礎としている。まぁ、厳密にいえば「ペイジランク」はよりサイトの質に重みづけが為されているのに対して、人気ブログランキングは、毎日の人気の変動を拾っていくという違いがあるのだけれど、一年ほど前、筆者が「ペイジランクと人気ブログランキングの相関」で検証してみたように、双方はそれなりの相関関係がある。
最近は、ツイッターやフェイスブックに関しても、こうしたランキングというか影響力を測定、スコア化するサービスが出てきている。例えば、ソエンドという会社が提供している、Qrust(クラスト)というサービスがそれ。
「Qrust」とは、 Quality(品質)+ cred(信頼性)+clout(影響力)+ trust (信用) + crust(堅牢な外殻)の5つの要素を組み合わせて凝縮したソエンド社による造語。その詳しいスコア化の原理は分からないけれど、少なくとも、これら5つの要素を計測して、スコア化していることは間違いない。
ソエンド社によると、現在twitter661万アカウントとFacebook45万アカウントの合計700万アカウント以上を定期的に解析しているそうなのだけれど、解析には、単にフォロワー数や発言数と言ったような固定要素からスコアを算出しているのではなく、実際に700万アカウントの発言とその発言への反響を全て計測・分析した上で、総合影響力や人気度、対話性、スパム姓などおよそ20のスコアに加え、時間や曜日ごとの利用形態などの統計データを出している。
このQrustスコアの面白いところは、日によって、その値が変動すること。つまり、影響力が株価の様に変動しているということであり、これはこれで、その情報発信者のネット上での市場価値を表しているように興味深い。
Qrustスコアの最高値は100なのだけれど、スコア55程度で「上位4%の情報発信者」。スコア90ともなると、「1万人に1人のソーシャル伝道者」になるようだ。
因みに朝日新聞の公式ツイッターアカウントのひとつである、朝日新聞官邸クラブ(asahi_kantei)のQrustスコアは4月18日現在で、スコア81(3千人に1人のインフルエンサー)、そして、以前、「ネット弁慶」発言で物議を醸した、NHK広報局(NHK_PR)は同じく4月18日現在で、スコア95ある。
こうした試みは、日々変動する現代に置いては、時流に沿ったもののように思われるし、どんどん進化していってほしいとは思うけれど、依然として、マスコミの影響力は大きく、ネットの上でもリテラシーを働かせておかないと、その影響を受けてしまっている可能性があることには注意が必要だろう。
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