シェールガス革命の罠
アメリカが「シェールガス革命」に沸いている。
1996年に0.3TCF(兆立方フィート)であった年間生産量は、2006年に1.1TCF、2009年には3.1TCFと急増し、2020年までに、年間8.1TCFを超す生産が見込まれている。
だけど、この余りにも急激なシェールガス増産は、天然ガス価格の急落を招き、今や2008年5月の405.63$をピークとして、2013年3月現在の136.33$と三分の一以下にまでなっている。
だけど、この価格下落によって、倒産する企業も出てきた。
オクラホマ州に本社を置く独立系の石油・ガス開発会社GMXリソーシズは、4月1日、連邦破産法第11条の適用を申請し、倒産した。GMXリソーシズは、ノースダコタ州やテキサス州でシェールガス及びシェールオイルなどの開発を手がけていたのだけれど、生産量の大半をガスが占めていたため、価格下落の直撃から資金繰りが悪化。経営が行き詰ったようだ。
また、シェールガス生産の急増は、他のエネルギー資源にも影響を及ぼしている。例えば、原発がそう。
電力大手デューク・エナジーは、今年2月、フロリダ州のクリスタルリバー原発を廃炉にすると発表した。この原発は格納容器のひび割れで、2009年に稼働を停止していたのだけれど、補修費用が巨額で、工事も長期間を要するために採算がとれないと判断、廃炉となった。
また、電力大手ドミニオンも昨年10月に、ウィスコンシン州のキウォーニー原発の閉鎖。原子力発電最大手のエクセロンも、ニュージャージー州のオイスタークリーク原発を当初計画より10年前倒して、2019年に廃炉にするとしている。
アメリカの原発の多くは1980年代以前に建設され、改修費用が嵩む上に、アメリカ原子力規制委員会(NRC)が、福島第1原発事故を踏まえた安全対策の強化を命じている。
そこへきて、この急激なシェールガスの増産で、天然ガスを使った火力発電が急増し、原発のコスト競争力が低下している。
その余波を受けて、現在アメリカ国内で20基以上ある原発計画も、その変更を懸念されているという。このままシェールガスの増産が続いて、アメリカ国内で原発が新設されなければ、古い原発から廃炉されるにつれて、アメリカ国内の原発シェアはどんどん低下し、やがては無くなってしまうだろう。
エネルギー供給において、原発を廃炉に追い込み、無くさせてしまうのであれば、確かに、シェールガスは「革命」といえる。だけど、それは、シェールガスが今後何年、何十年と生産が安定的に続けられるという見込みがあっての話。
今の所、アメリカ全土に広がるシェール層に埋蔵されている石油や天然ガスは、ゆうに100年分を超えるといわれている。
だけど、いくら埋蔵量があるからといって、それが即生産量になるとは限らない。埋蔵されているシェール層全てを掘りつくせるとも限らないし、ずっと安定的に生産が持続できるかどうかについても不安がある。
シェールガス田は既存のガス田と比べて寿命が短い傾向がある。それは、シェールガスが頁岩層から抽出するといいう構造そのものに起因する。
シェールガスは既存ガス田のように、ガスの貯留槽ではなく、その上下の頁岩層に浸み込んだ、ガスや石油を頁岩を砕いて採掘する。例えるならば、分厚い和紙で出来た容器があったとして、容器にいれた水を汲み上げるのではなく、水の浸み込んだ和紙をグズグスにして、染み出た水を吸い取るようなもの。
容器から水を吸い上げる時は、ストロー1本を、水面の何処かに刺してやれさえすれば、吸い上げることができるけれど、和紙に浸み込んだ水は、和紙に突き刺したストローの周辺の水分しか吸い上げることができない。これが、シェールガス田の寿命が短い理由。
アメリカのエネルギー省は、エネルギー需給見通し年間2012年度版(Annual Energy Outlook 2012)で、アメリカの主要シェールガス田の生産下降カーブを公表しているけれど、それによると、その殆どが5年で頭打ち、正味では2~3年しか生産できないことが分かる。過去の実績を見ても、2005年当時、アメリカにはシェールガス井が14990坑あったのだけれど、その三分の一にあたる4185坑は2007年に生産を終えている。
したがって、シェールガスを安定的に生産しようとすると、2~3年毎に次から次へとガス田を掘り続けなければならず、一度不測の事態、例えば、採掘中の事故や環境問題等、ちょっとしたことで、シェールガス田のいくつかが止まってしまうと、途端に受給が不安定になってしまう。
かといって、掘れるうちに掘っておけとばかり、過剰生産してしまうと、先のGMXリソーシズ社のように、倒産する会社も出てきてしまう。
だから、アメリカとて、あまりにもシェールガスに頼ったエネルギー政策を取ってしまうと、シェールガス革命が「革命」ではなかったら、大ダメージを受けてしまう。
その意味では、あまりにも早い段階での原発の廃炉は大きなロスになる可能性がある。
翻って日本は、国内エネルギー自給率が低いがために、エネルギー確保のための、ありとあらゆる手を打っておく必要がある。既存の石油・ガスを入手するためには、シーレーンの確保とその防衛は必須になるし、原発技術やその他の新エネルギー技術や、資源開発技術を開発、研鑽しておかなくちゃならない。
さもないと、イザという時に、行き詰ってしまう。
「技術」は、それがあるという事実そのものが、エネルギー安保を下支えする。
たとえば、何か新しい資源が見つかったとしても、それを採掘・利用できなければ、意味がない。シェールガスにしても、水圧破砕技術やその他の新技術の開発がそれを可能にした。
シェールガスについていえば、最近は、シェールガス採掘に伴う排水や薬液などの環境問題が懸念されるようになっている。
だけど、シェールガスに限らず、こうした様々な、問題が日本の優れた技術によって解決できるのなら、引き続いて資源として活用されることになるし、その新資源を日本に供給することに便宜を図って貰える可能性もあるだろう。
だから、資源利用ひとつとっても、それを利用するための鍵となる技術が日本にしかない状況にしてしまえば、その資源の命運は日本が握ることになる。これは、安全保障上有利に働く。
ゆえに、エネルギー自給率の低い日本は、エネルギー供給の多様化、リスクヘッジを行うことはもとより、国力が許す限りにおいて、たとえ、実用化までいかないものであったとしても、普段から、あらゆる資源を活用できうるよう研究し、万一に備えて置くべきだと思う。
この辺りについて、国が面倒を見るべきなのか、企業にやらせるべきなのかについては、匙加減が微妙なところがあるのだけれど、あまりに採算性を求めすぎると、アメリカのようにシェールガスに追われて原発が廃炉に追い込まれるといったように、多様化を目指した筈なのに、却って逆行することになる。
国家百年の計は簡単ではない。
この記事へのコメント
白なまず
【パナマ運河拡張計画】
http://www.embassyofpanamainjapan.org/jp/canal/plan/
洗足池
ス内パー
国賊は出ていけ、でしたっけ。さ、出ていきなさいな。止めませんよ~
sdi
記事中のシェールガスの生産過多による値崩れが何故おきてしまったのか?当のアメリカ自身が自国内で国内需要を遥かに超える量が生産される、という状況に対応できなかったのは確かでしょう。北米大陸内ならガス田から消費地までパイプラインを引いて事足ります。海外に輸出しようとするなら液化プラントとLNGタンクと積出港のセットが必要ですが西海岸には一箇所です。日本の商社がもう一箇所建設中ですが稼動は四年後です。元々アメリカは海外に輸出する能力が乏しいのです。強化するための投資も積極的ではなかった。生産量の伸びとガス需要の両方を見誤っていたことも
opera
シェール層自体は油田がある所ならどこにでもあると言われていて、中東はもちろん、ロシア・シベリア、中国、日本の日本海側にも結構な埋蔵量があるとされていますね。問題は、採掘技術以外にも、採掘に大量の水を必要とする点でしょうか。また、汚染水を浄化する技術は日本にしかないという話も聞いたことがあります。結局のところ、現時点で採算ベースで採掘できるのはアメリカしかないということかもしれません。
日比野さんが仰るように、資源問題は常に様々な可能性を考えて、多面的な問題についての一貫した研究・開発が必要で、コストや利益に縛られる民間企業には不向きな場合が多く、以前のエントリーメタンはイドレードや石油を造る藻のような日本向きの技術には、国の継続的な支援が必要でしょう。
ただ、個人的には、近未来において最も熾烈な争いになるのは水資源をめぐるものではないかという気がしています。アメリカは氷河期に蓄えられた膨