4月4日、日銀は、金融政策決定会合を行い、市場の予想を遥かに上回る大胆な金融緩和策を発表。市場に衝撃を与えた。
1.圧倒的な緩和策
緩和策の内容は次のとおり。
1)マネタリーベース・コントロールの採用日銀は、これらの施策について「質的金融緩和の導入」としているのだけれど、何と言っても、1の政策目標を金利からマネタリーベースの量に変更したことは注目に値する。日銀はこれについて次のように決定している。
2)長期国債買入れの拡大と年限長期化
3)ETF、J-REITの買入れの拡大
4)「量的・質的金融緩和」の継続
(1)「量的・質的金融緩和」の導入マネタリーベースとは、中央銀行が供給する通貨のことで、 日本銀行券及び補助貨幣といった現金通貨と、民間金融機関の法定準備預金(日銀当座預金)との合計に当たる。
日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。このため、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。
中央銀行は、通貨発行権を持っているため、このマネタリーベースを「直接」コントロールできる。これに対して、一般法人、個人、地方公共団体等の、金融機関と中央政府を以外の経済主体が保有する通貨の合計をマネーサプライまたはマネーストックと呼ぶのだけれど、こちらは、中央銀行が直接手を下せる経済主体ではないから、当然のことながら、中央銀行は直接コントロールすることは出来ない。
因みに、マネタリーベースとマネーサプライの比は、信用創造によって、中央銀行が供給した通貨が、最終的にどれだけの通貨を生み出したかを見る指標、即ち「貨幣乗数」あるいは「信用乗数」と呼ぶ。
日銀は、民間銀行の有価証券を買いオペ或いは、売りオペすることで、金利を目標金利にまで誘導する政策を取っていた。これは、例えていうならば、自転車のタイヤ(市場)に空気(貨幣)を入れるとして、空気入れのポンプの柄を一回動かして(買いオペ)はタイヤを触り、その"硬さ(金利)"から空気が入っているかをいちいち確認して、"目指す硬さ(インタゲ)"まで空気を入れましょう、というやり方。
これに対して、マネタリーベースのコントロールは、タイヤの硬さを目安にするのではなくて、空気入れのポンプから入れる空気の量そのものを調節しようじゃないかというもの。このやり方はタイヤに入れる空気の量を見る分、より直接的なコントロール方法だと言える。
ただし、この場合は、空気入れのポンプの柄を動かすストローク量や、動かすスピードをどれくらいにするか、そして、いつまで空気を入れ続けるのかといったことが重要になる。無論、ポンプの柄は上下に大きく、かつ素早くやればやるほど、空気は沢山入ることになる。
今回、日銀は、その空気入れから入れる空気を、これまでの2倍(マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大)にし、2年間でタイヤを目標の硬さ(消費者物価の前年比上昇率2%)にする、と決定した。
ただ、ここで一つ疑問として出てくるのは、その2年でタイヤが目指す硬さにならなかった時、即ち2年でインタゲ2%を実現できなかった時、どうするかということ。いつまで空気を入れ続けるのかという問題。
2.無制限に緩和をしていくことで初めて市場は反応していく
これについては、日銀は今回の金融緩和策の4、「『量的・質的金融緩和』の継続」で、次のように決定している。
④「量的・質的金融緩和」の継続と、このように、この金融緩和は"必要な時点まで"継続する、としている。つまり、たとえ、2年で達成できなくても、達成するまで続ける、ということ。
「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。
今回の日銀の政策会合で、上述の1から3までの政策については、日銀の9人の委員全員の賛成を持って決定したのだけれど、唯一、この、量的・質的金融緩和の継続期間についてだけは、反対者が一人だけいた。
その一人は、エコノミストの木内登英審議委員。木内氏は元野村証券金融経済研究所経済調査部長で、2012年7月に日銀の政策委員会審議委員に就任している。
今回の政策会合で、木内氏は、(1)の「量的・質的金融緩和」の導入の部分について、「2年程度の期間を念頭に置いて」を削除し、「2年間程度を集中対応期間と位置づけて、『量的・質的金融緩和』を導入する」との一文の追加、及び④の「『量的・質的金融緩和』の継続」の段落を削除するとの議案を提出し、反対多数で否決されている。
この木内氏の提案は、要するに、金融緩和は2年は目安としてやるけれど、そこから先は約束しないよ、というものであり、無制限というわけじゃない。その意味では、これまでの日銀のスタンスに近いと言える。
だけど、この提案は圧倒的多数で否決された。筆者はこの否決が決定的に重要だと考えている。なぜなら、「金融緩和を必要な時点まで継続する」とすることで、日銀の中央銀行としての、非常に強い意思が感じ取れるから。これはまた、同時にアベノミクスの流れに沿った決定でもある。
安倍総理は、去年の11月、都内で開かれた読売国際経済懇話会で「自民党政権で10年間やってきた政策とは次元の違う政策をやっていくべきだ。日本銀行と政策協調して大胆な金融緩和を行っていく。…一番いいのはインフレ目標を持つことだ。2%がいいのか3%がいいのかは専門家に議論して判断してもらいたい。…無制限に緩和をしていくことで初めて市場は反応していく」と述べ、今年、2月28日の衆院予算委員会でも、「2%の物価目標達成は日銀に責任をもってやってもらう」と発言している。
だから、今回の日銀の金融緩和を必要な時点まで行う、というのは事実上、「無制限」ということであり、安倍政権との政策協調の表れだといえる。
安倍総理が「無制限に緩和をしていくことで初めて市場は反応していく」と述べたとおり、今回の政策発表後、円相場は2円以上円安に振れ、約200円安だった日経平均は272円高まで急反転するなど、通常では考えられない動きを見せている。
3月4日、ロイター通信は、この緩和策について、「黒田日銀の『バズーカ砲』に市場も驚いた」「ボルカー以来の衝撃」と伝えている。
まさに、異次元の金融緩和政策だといっていいだろう。金融コンサルタントの中には、白川日銀時代の金融政策について、2012年6月当時の日銀当座預金残高の約30兆5200億円からマネタリーベースを増やすことは難しく、国債やETFの買い取りを増やしたところで市場に大きな効果は見込めず、金融政策は出尽くした、なんて言っていた人もいたようだけれど、現実はその真逆。マネタリーベースは2倍、円も株も急反転した。
黒田総裁は、金融緩和策決定後の記者会見で「戦力の逐次投入はせず、2年での2%の物価目標達成のために必要な措置は全て決定した」と述べているけれど、それもこれも、インタゲを達成するまで止めない、という強い意志があってのことだと思うし、市場関係者も、景気を回復させるという本気度を感じ取ったのではないか、正にバズーカ砲。いや、もしかしたら、波動砲並みかもしれない。
この記事へのコメント
洗足池
異常な低金利とインフレ期待は矛盾するもので、どちらかが間違っている訳だが、今後インフレ率が2%以下に留まるなら、日銀は約束を果たすため無制限に買いオペを続けざるを得ない。功を奏して2%以上に達したとき、日銀手持ちの国債は500兆を超えているかもしれない。
インフレが高進し5%-6%になれば(その時も今の様な低金利とは考え難い)、経済学本来の意味のインフレターゲットに戻らねばならない。買いオペが一転して売りオペになるのだ。日銀の所有する大量の国債が市場に溢れ出した時、金利が高騰するのは目にみえている。その時から、安陪晋太郎は日本を破滅に導いた最悪の首相として歴史に記録されるだろう。
株好き会社員
毎年、普通に継続すれば良いと思うけどなあ
物価安定目標2%(コアまたはコアコア)の金融政策の出口のことかなあ
一定期間、物価が2%を超過している状況だとデフレ対策の縮小、それでも
加熱している場合は、反対のインフレ対策を実施して2%前後を継続させる
ことが「物価安定目標」のことだと思うのだが、出口が必要なのかなあ
出口って何のこと言っているのか、残念ながら「船の片道燃料」の事例では
理解できないので、誰か解説をお願いします。
個人的には、物価が2%を超える状態が継続しているときは好景気で税収も
増えるため普通に国債発行が減少して、量的緩和も抑制されると思うのだが、
自動出口みたいな感じがいいですね
sdi
それにしても、三橋貴明氏のプログにのってましたが日本も含めて先進諸国の国債金利は、相変わらずなんて低さなんだか。金利が1%未満なんて、財政再建が叫ばれはじめたころの日本の国債金利の10分の1です。こんな状態が普通だ、と思ってしまうくらいいウルトラ低金利が続きすぎたということですね。さすがにそろそろ脱却すべきでしょう。
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日本銀行総裁
黒田東彦
── 平成25年3月28日、参議院財政金融委員会
(略
日本経済は、15年近くも、デフレに苦しんできました。これは世界的に見ても異例なことです。物価が下落する中で、賃金・収益が圧縮され、投資・消費が減少することで、更なる物価下落に陥るという悪循環は、日本経済を劣化させています。デフレからの早期脱却は、日本経済が抱えている最大の課題です。
物価安定は中央銀行の責務であり、デフレ脱却における日本銀行の役割は極めて重要です。日本銀行は、これまでゼロ金利政策や量的緩
和政策を行ったほか、最近では、包括的な金融緩和政策を通じた金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援といった様々な取り組みを行ってきましたが、デフレ脱却には至りませんでした。もとより、わが国の物価の低下圧力を与える要因としては、海外からの安値輸入品の増加、規制緩和などに伴う流通の効率化、それらと相まって生じた企業の低価格戦略や家計の低価格指向の拡がりなど、国内外に多々あります。(略)
日本政府はどのような成長戦略を掲げるのか片方でイン
WN
で、国債を売って現金を手にした誰かは、そのお金をどうするというんですか?
インフレ=お金の価値の下落ですから、現金を持ち続ければ損するだけですよ。