今日は、久々に軍事関連のエントリーです。
1.次世代哨戒機「P-1」
3月29日、海上自衛隊のP-1哨戒機が、神奈川県の厚木基地に配備された。
P-1は、現在のP3C哨戒機の後継で純国産のジェット機。海自は保有するP3C約80機をP1約70機に置き換える計画を進めているのだけれど、25年度までにP-1を8機調達し、これに合わせてパイロットら搭乗員の養成を進めるとともに、整備員らの教育訓練も本格化する。配備は厚木基地から開始され、八戸、鹿屋、那覇基地もら順次P3CをP-1に代替していく予定。
筆者は、P-1について、2011年8月に「次期哨戒機P-1の配備遅れる」のエントリーで取り上げたことがある。当時、P-1の強度試験で、主翼などにひび割れが見つかった為、導入が遅れていた。実際、今回の配備まで、1年程遅れてしまったのだけれど、何と量産配備までこれて、ほっとしている。
というのも、現行使用されているP3C哨戒機は初飛行からもう40年。老朽化も激しく、2009年から退役が始まっている。日本の空の護りが空白になる前に後継機が間に合う意味は大きい。
「次期哨戒機P-1の配備遅れる」のエントリーでも紹介しているけれど、P-1は非常に優れた機体であり、現代のネットワーク化された海自の戦闘指揮システムの中核を担う。
また、哨戒機でありながら、兵装の搭載能力も高く、翼に対艦ミサイルを最大8発、胴体内に対潜魚雷を最大8発搭載可能。だから、有事には攻撃機にもなる。こんな純国産機を日本も持てるようになった。
2.水陸両用救難飛行艇「US-2」
また、同じく純国産機で、海自に配備されている水陸両用の救難飛行艇「US-2」が、インドに輸出される準備が進んでいる。
飛行艇とは、飛行機と船の両方の特徴を持ち、陸上だけでなく海面にも着水できる飛行機のことで、胴体部分は水面に接するように設計されている。
飛行艇は、海面や湖面という平らで広大な水面を利用して発着できるため、滑走路などの大規模な飛行場設備は必要無いから、例えば、飛行場の無い離島なんかでも使用できる。また、飛行中、何らかの故障に見舞われても、とりあえず着水しての対処も可能となる。
US-2は、全長33.3m、全幅33.2m、全高9.8mで、最大離陸重量は47.7t、航続距離は4500km以上を誇る。そして何と言っても、圧巻は、離水・着水距離の短さで、離水距離は僅か280mで着水距離も330mしかない。これは、同サイズの飛行艇Be-200の離水距離1000m、着水距離1300mであることを考えると、段違いの性能といえる。
これは、BLC(Boundary Layer Control:境界層制御)と呼ばれる動力式高揚力装置を世界で唯一実用化し搭載したことで可能としている。
動力式高揚力装置とは、主翼および尾翼のフラップ、エレベータ及びラダーから、エンジンで圧縮した空気を吹きだして、プロペラの後ろの空気の流れを下方に偏向させる装置のことで、プロペラと圧搾空気の2つの力で高揚力を生み出す仕組み。これによって、通常の飛行機の2倍の揚力を得ることができ、約90kmという極低速での飛行および離着水を実現した。
また、US-2は着水可能波高が3mと、機体の1/3の高さの荒波にも着水できる。
※Be-200の着水可能波高は1.2m
これは、胴体に溝型波消し装置とスプレー・ストリップと呼ばれる装置を配備することで、着水時の飛沫を下方に苦し、また、水流を横に逃がすことで、機体の損傷を防ぎ、「高耐波性」を実現している。
これら、US-2の持つ、極低速飛行、超短距離離着水、高耐波性といった能力は災害救援時には相当力を発揮するものと思われる。
現在、海自ではUS-2が5機とその前身であるUS-1Aが2機運用されている。
インド政府は3年ほど前から日本政府にUS-2を購入したいとの意向を伝えていたのだけれど、去年の6月に海自とインド海軍が相模湾で初めて共同訓練を行った際、海自はUS-2も投入しているから、インド海軍も直接US-2の性能を確認したものと思われる。
インドはUS-2の調達は、海上救援および海賊取り締まりを目的とするものと発表しているけれど、航続距離の長いUS-2を導入することで、海上のみならず、離島との連携強化を図ることも可能になる。とりわけ、マラッカ海峡を抜けた北西に位置する、アンダマン諸島(インド半島東岸からおよそ1500km)との連携が強化できれば、マラッカ海峡および、インド洋の安全確保・監視に大きな力となる。
既に、US-2の製造元である新明和工業は現地事務所を設け、インド政府との交渉に入っている。US-2が輸出できれば、生産増によるコスト低減によって、自衛隊の調達費を更に下げることも出来るようになる。進展を期待したい。
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この記事へのコメント
洗足池
国産の武器は国際的には極めて割高である。生産数量が少ない事も原因であるが、メーカーの談合や原価の改ざんが大きい。三菱電機が防衛省納入物件にからんで労働時間を大幅に水増していたことが発覚、数百億円を政府に返還、今3月期決算は大幅に下方修正している。
管理人も騙されているが、価格が異常に高い為、関係者は国産兵器の性能を大げさに過大評価するのだ。兵器は実戦に配備され戦闘で試されて初めて真の評価が可能になる。残念ながら国産兵器は戦後一度も実戦で使用されたことはない。米国産の兵器は米軍が24時間、365日、世界のどこかで戦闘を行っているので、厳しい評価がなされ改良されている。
輸出が可能になれば、国産兵器の第三者による客観的評価が可能になり、他国との価格競争により日本の納税者の負担も少なくすることが出来る。
sdi
US-2も日本で日本人が使うからあれほど高性能な飛行艇が高い稼働率で十二分に性能を発揮できいる、という面もあることは忘れてはいけない点でしょう。日本の場合はしっかり使いこなせているのですからそれでいいのですが、インドがUS-2を実際に配備して運用する場合は日本とインドの数値や金額で測ることのできない項目のギャップが問題になってくる可能性があります。
日比野
確かに、それは大事な論点です。ただ、インドでは日本の地下鉄を導入していて、日本並みとまではいかないまでも、それに近い精度のダイヤで運行している実績があると聞きます。ですから、意外とやってのけるかもしれないという期待をしています。
satbody
これは単に武器を売るビジネスと考えては成功しないと思います。人員の教育や運用の相互交流など日本とインドの間の関係構築が欠かせないのでは?そのような関係が構築できれば、地域の安定にも大きなインパクトがあるでしょう。