問責決議と野党の賭け

 
6月26日、生活の党、社民党、みどりの風の野党3党が提出した安倍総理に対する問責決議が参議院本会議にて可決され、参院は閉会した。

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これは、衆院小選挙区を「0増5減」する公職選挙法改正案に対して、民主党が参院での採決を見送ったのが発端。反発した自公は21日に民主党の平田健二参院議長への不信任決議案を提出し、翌週の参院予算委員会を欠席。これに野党3党が「憲法に違反する許し難い暴挙だ」と批判し、25日夕方に問責決議案を提出したのが大枠の経緯。

確か去年の11月に民主党は、「0増5減」の先行実施に同意し、衆院選挙制度改革法に賛成していた筈。ところが、安倍政権になったら、その「0増5減」の法案に反対する。

筆者は3月28日のエントリー「一票の格差違憲判決と衆参ダブル選挙」で、民主党は衆参ダブル選挙をやらせないために、抵抗野党の本領を存分に発揮して、区割り変更、選挙制度改革や定数是正に、ありとあらゆる手段を駆使して、猛反対してくるのではないか、と述べたことがあるけれど、果たして、参院議長を擁する民主党は、その権限を利用して"採決しないで放置する作戦"に出た。

参院に送られて60日以内に採決しないと、みなし否決を見做されるから、法案を通すには衆院で再可決するしかない。民主党は、衆院での再可決に持ち込めば、参院選を前に「与党の強引な国会運営」をアピールできるとの計算が働いたともいわれている。見事に抵抗野党の本領を発揮している。

ただ、民主党自身も「0増5減」法案は兎も角、その他の重要法案まで審議拒否するつもりはなく、重要法案は成立させつつも、問責を可決するという"都合のいい"ことを考えていたようだ。

前日25日、民主党は、与党に水面下で「問責よりも積み残しの法案処理を優先する」と伝え、26日午後の参院本会議で成立させることで大筋合意していたのだけれど、他の野党には「自分たちは問責を出さないが、皆さんが提出すれば賛成する」と話していた。

民主が賛成するのならと、生活、社民、みどりの風の3党は、25日の夕方に、問責案を提出するのだけれど、この時点で民主党は、26日の参院本会議の採決を、「与党提出の平田健二議長不信任案」「積み残し法案」、「問責決議」の順でやろうとしていた。それぞれ否決、可決、可決とすれば、重要法案を成立させつつ、問責も可決することができる。

だけど、物事はそうそう思い通りにいくものじゃない。



26日午前、参院議院運営委員会理事会で、積み残し法案が可決すれば、問責なんてほったらかしにされるかもしれないと警戒した、みんなの党が、問責の先行採決を主張して話をややこしくした。当初、民主党は自公との合意通り、問責決議案の採決は、最後にするよう求めたのだけれど、このゴタゴタに、運営委員会委員長である自民党の岩城光英氏が、採決をいつにするかを委員会で採決すると決めてしまう。

民主党が委員会採決で否決すれば、みんなの党との共闘路線は崩れてしまう。さりとて、みんなの党に賛成すれば、問責が可決して、積み残し法案は流れてしまう。民主党は、参院選前に与党寄りと映っては拙いと判断し、最終的に与党との水面下の「合意」を反故にして賛成に回ったというのが事の顛末。

まぁ、野党間のゴタゴタをみた自民党の岩城氏に足を掬われたということも出来るだろうとは思うけれど、それ以前に、法案を通すよと自民と合意する一方で、他の野党には問責に賛成するという"コウモリ"な対応に否は無かったのか。

他党とて人間の集まりなのだから、感情も持ってるし、それぞれの都合も思惑も当然ある。自分の思い通りにいくとは限らない。どうも民主党は、先方には先方の都合があるという認識が薄いように思えてならない。

因みに、問責の煽りを受けて、廃案になった法案・条約承認案は次のとおり。
 ●政府提出法案(4件)

・電気事業法改正案

・生活保護法改正案

・生活困窮者自立支援法案

・海賊多発海域船舶警備特別措置法案

 ●議員立法(2件)

・水循環基本法案

・雨水利用推進法案

 ●条約承認案(6件)

・日中韓など投資協定5件

・日印社会保障協定
これらの重要法案は、民主党が"自分の都合"を優先した余り、流れてしまった。

身から出た錆とまでいうのは、言い過ぎかもしれないけれど、国民にとって何が一番大事なのかを、ちょっとでも考えていたのであれば、こんな「コウモリ」な対応をして、墓穴を掘ることはなかったのではないかと思う。

さて、問責決議を受けた安倍総理は、国会閉会にあたっての会見で「きょう問責決議が可決をされました。まさに、これこそがねじれの象徴だと思います。このことによって、この問責決議によって、残念ながら電力改革のための法案など重要な法案が廃案となってしまいました。…景気回復を加速させていく。加速させていくためにも、ねじれを解消しなければいけない。その決意を新たにしたところであります」と、法案が流れたのは民主党のせいだとアピール。民主党はみすみす敵に塩を送る形となった。

それにしても、この問責可決は、野党にとって、参院選後の国会対応に大きく響くことになる。

仮に参院選で、自公が過半数を取ってしまえば、安倍総理は退陣することもなく続投することはいうまでもない。それなのに、野党は自分達で問責を出してしまった手前、審議に顔を出すわけにはいかない。筋論からいえばそうなってしまう。しかも与党で参院過半数を押さえてしまえば、法案もバンバン通せる。

本当は、そういうときこそ、積極的に国会で討論して、自分たちの意見を幾許かでも法案に反映させるべきなのだけれど、その機会を自分で奪ってしまってる。一体何をしたかったのか。

野党にとって、今回の問責にメリットがあるとすれば、参院選で自公が過半数を取れなかった場合、安倍総理の退陣問題が出てくること。つまり、安倍内閣政権維持のハードルを上げたことくらい。

だけど、それも都議選を例に出すまでもなく、今のままでは参院選では自公は過半数を取ると予想されているし、万が一過半数を取れなかった場合でも、その他中小野党との連立に動くことで、退陣を避けることだって考えられる。

そう考えると、今回の問責可決は、相当分の悪い"賭け"にしかみえない。



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この記事へのコメント

  • mohariza

    政治記事にはコメントをなるべく避けていますが、
    今回の民主党の執(取)った行為は、議会としての民主主義の議論の結果の採決を拒否したものと云え、
    結果、国民の為の法案を反故にしたものと見なされ、
    国民の心が離れて行くことを察知出来ないことを証明したと思われ、
    政党としての存在意義が問われると思います。
    2015年08月10日 15:22
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    岩城光英の活動は

     電源立地及び原子力等調査会副会長
     道州制推進本部副本部長
     スポーツ立国調査会副会長
     エネルギー戦略合同部会副会長

    と言う訳で, 発送電分離を唱う

    ・電気事業法改正案

    に反対だったのだろう. この改正法案が潰れた
    影には頭の切れる保守議員がいたお蔭だと言える.
    2015年08月10日 15:22
  • sdi

    今回の問責決議と重要法案の廃案化、民主党が自分に都合のいい計算をしてその計算自体に足元を掬われたという点はあります。しかし、私はむしろ民主党の「これからは昔のように『反対』『反対』『自民に反対』の民主党に戻ります。自民が嫌いな方は、どうか我々を支持してください」という「先祖がえり」路線の延長上にあるのではないでしょうか?
     都議選での敗北はたったから一週間たらずです。今の民主党の党内の状況を見ると、わずかな期間で路線変更などできるとは考えられません。今回の問責決議は「都議選の勝利」に続く政局イベントとして当初から予定されていたのでしょう。ただ、前倒しになった可能性はあります。
     民主党は結局、参議院選挙で「反自民」を旗印に「もういちど政権交代させてください」と叫ぶことになるのでしょうね。
    2015年08月10日 15:22
  • 日比野

    sdiさん。どうもです。
    >民主党は結局、参議院選挙で「反自民」を旗印に「もういちど政権交代させてください」と叫ぶことになるのでしょうね

    確かに、この路線が一番有り得ると私も思いますけれども、それでは余りにも進歩がないですよね。与党経験させてもらって、一体何を学んだんでしょうか。
    2015年08月10日 15:22

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