5月29日、安倍総理は、首相官邸でインドのシン首相と会談した。
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会談後の共同声明はこちらで公開されているけれど、両首脳は、「2+2」対話、次官対話、次官級政務協議、防衛政策対話、日米印三カ国協議など幅広い分野での協力と成果を確認・歓迎している。
この共同声明の15番目の項目で、インドの高速鉄道システム導入について、日本の新幹線について触れている。くだんの声明文は次のとおり。
15:シン首相は,インドにおける高速鉄道システム導入支援に関する日本の関心に留意した。シン首相は,高速鉄道(新幹線)システムの設計及び運用に関する日本の高い専門性を評価した。現在、インドには6路線の高速鉄道計画があるのだけれど、今回合意したムンバイとアフマダーバードを結ぶ、延長約650kmの路線は、計画路線の中でも最初に建設される予定となっている。
シン首相は,インドのインフラ優先順位,事業可能性、財源に基づきインドは当該事業を計画する旨述べた。両首脳は、両者が,ムンバイ=アーメダバード路線の高速鉄道システムの共同調査に共同出資することを決定した。
元々、この区間の事業化調査はフランスの企業が受注していたのだけれど、1兆円規模とされる本工事を落札するために、日本勢は官民一体となって巻き返しをしていた。
2012年11月にインドのシン首相と、野田首相(当時)との会談で、日本の新幹線システムの採用を念頭に、両国間で具体的な協議を進めていくことで一致。安倍政権になってからも、今年2月に、アフマダーバードで日本政府は「インド高速セミナー」を開催。梶山弘志・国土交通副大臣、大橋忠晴・川崎重工業会長、石司次男・JR東日本副社長らが出席し、車両だけでなく、運行システムなどを含めた「パッケージ型インフラ」としての売り込みを行っていた。
インドの高速鉄道整備事業については、フランス以外にも、中国も受注を狙っていたのだけれど、どうやらインドは、国家安全保障を考慮し、日本との協力を選択したようで、デリー大学東アジア研究センターのマーシャ・バラ氏は「高速鉄道整備事業において、インドは中国との協力によって国家の安全が脅かされることを心配している」と指摘し、日本は最高のパートナーだと述べている。
こうして、インドの高速鉄道に、日本の新幹線が採用される見通しが出てきたのだけれど、着工時期は用地買収などに数年かかるため未定。見通しでは15年度以降の着工となるようだ。
想定している最高速度は300km/h。実現すれば現在7時間かかっている両都市間が2時間半で結ばれる。今の所、この路線は年間110万人の需要があると見込んでいる。
筆者は去年3月に「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」のエントリーで触れたけれど、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)のマスタープラン策定の殆どを欧米企業に握られたにも関わらず、よくぞ、今回のムンバイとアフマダーバード間の高速鉄道に新幹線を捻じ込んできたものだと思う。
アフマダーバードは、ムンバイとデリーの間に位置し、デリーとムンバイの間の工業団地と港湾を結ぶ貨物専用鉄道(DFC西回廊)建設計画でも経由する都市だから、この区間を新幹線が抑えることができれば、大きな意味を持つことになる。
実際、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想事業については、2012年末に日本側から19の事業候補リストがインドに提出されているのだけれど、そのうち、5件は鉄道関連事業で、「アフマダーバード市~ドレラ地区間の鉄道建設事業」、「デリー~マネサール工業団地~ニムラナ工業団地間の都市鉄道建設事業」、「東芝によるムンバイ近郊プネ市における都市鉄道建設事業」、「デリー近郊のダドリ~ノイダ~ガジアバード間の都市鉄道建設事業」、「双日と日新による自動車完成車の鉄道輸送事業」となっている。ムンバイ~アフマダーバード間が新幹線に正式決定すれば、それを契機に、これらの鉄道関連事業の受注も期待できるだろう。
なんとなれば、2段積み貨物コンテナを乗せられるような、貨物輸送専用車両を新幹線で作ってやれば、更なる受注も出来るかもしれない。
また、鉄道事業以外では、既に、日立・伊藤忠が係る海水淡水化・工業団地への水供給事業についてグジャラート州政府の間で水供給の契約を締結している。
※「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」のエントリー冒頭で紹介
今回、安倍総理は、インド南部のタミル・ナードゥ州政府に約130億円を供与すると表明しているけれど、これは、「インド南部拠点開発構想」と呼ばれるもので、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想とはまた別のプロジェクト。これは、共同声明の13番目の項目で触れられている。該当の声明文は次のとおり。
13:チェンナイ・バンガロール地域の開発の重要性を認識しつつ、両首脳は、両者の協力を一層強化する決意を強調した。シン首相は、関係当局に対し、エンノール、チェンナイ及び隣接地域における港湾、道路、橋及び工業団地並びに電力・水供給といったインフラ改善を加速し、タミル・ナド州投資促進プログラム(TNIPP)を活用してその進展を監視するよう指示した。現在、インド南部のバンガロールや、ベンガル湾に面するインド南部の都市チェンナイ周辺には日系企業の進出が急増している。バンガロールにトヨタ、チェンナイに日産、東芝などが拠点を構え、その数はこれら都市を抱えるタミル・ナドゥ州全体で286を数える。
両首脳は、JICAによる包括的な統合マスタープランのための予備的調査の成果及びチェンナイ・バンガロール産業大動脈(CBIC)のマスタープランのためのTOR署名を歓迎した。両首脳は、関係当局に対し、2014年度末までにマスタープランを進展させる取組の加速化を指示した。
だけど、これら地域は、北部に比べて、インフラ整備が遅れ、物流コストが高いなどという問題がある。その為、港湾・アクセス、工業団地といった、インフラ整備のニーズが高く、2011年1月には、経済産業省がタミル・ナドゥ州政府との間でインフラ開発等を共同で行う枠組み構築の協力合意書を交わしている。
インドのインフラ整備が遅れているのは、州政府などに都市計画作りのノウハウが乏しいことが一因にあると見られているのだけれど、日本は、州政府などの都市整備計画の策定に、国際協力機構(JICA)を通して都市計画の専門家を派遣し、実行チームを指揮して実務にあたる方針のようだ。
インフラは一旦出来上がってしまえば、その後何十年にも渡って使われる。インフラや都市計画のレベルで日本がインドに協力できれば、相当大きな財産になる。
日本とインドが固く結びつくことで、対中牽制にもなる。積極的に推進していくことを望む。
この記事へのコメント
白なまず
sdi
インドに弱点があるとしたら、西と北、特に北でしょう。西の問題はインド自身がある程度織り込み済みで十分対応可能と思いますが、カシミールとネパールへの中国の介入に対して遅れを取っているように見えます。特に現地の交通事情からインド側が兵站面で劣勢になりつつあるようで予断を許しません。