変貌する高速バス業界

 
7月30日、国土交通省は、今年の4月29日に発生した、関越自動車道での高速ツアーバス事故を踏まえ、高速乗合バスと高速ツアーバスを今後1年以内に「新高速乗合バス」として一本化すると発表した。

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従来の高速乗合バスは、便数や価格の変更に30日前の届出が必要なることに加え、繁忙期に他社の車両を使うことも禁じられていたため、時節柄需要が伸びてもそれに対応することが難しかった。

その従来型高速乗合バスの弱点を突いたとも言えるのが、高速ツアーバス。こちらは、旅行業者が、貸切運送契約を結んだ貸切バスを手配し、それに客を乗せる方式。この方法だと、需要が伸びても、その分、他の貸切バス事業者と契約を結んでやれば、いくらでも便の増減が調節できる。従来の高速乗合バスが自由に運行便の調整ができないのを尻目に、あぶれる顧客をかっさらっていた。

しかも、高速ツアーバスでは、旅行業者に安全上の責任がなく、安全上の負担をすることなく、ツアーの企画の内容メインで商売することができた。また、従来型高速乗合バスのような運賃の事前申告も不要で、価格設定も自由に行えたこともあり、高速ツアーバスは、安さをウリに近年急速な伸びを見せていた。

ところが、2012年4月29日、関越自動車道上り線藤岡ジャンクション付近で都市間ツアーバスが防音壁に衝突する事故が発生。乗客7人が死亡、乗客乗員39人が重軽傷を負った。原因は運転手の過労による居眠り運転とされ、対策が急がれていた。今回の高速ツアーバスの廃止と「新高速乗合バス」への一本化はその対策の一つ。

新制度では、従来、高速ツアーバスを運行させていた旅行業者も自らバスを保有し、乗合バス事業者としての許可を取得しなければならないようになり、貸切バス事業者に運行を委託する際には、国土交通省の許可が必要となった。更に、その外部委託の範囲も、委託者の高速乗合バス事業の原則2分の1以内とされ、運送の安全確保責任は委託者が負うこととなった。

要するに、高速ツアーバス業者は自前でバスを持って、同じく安全責任も持てということ。どちらかといえば、従来型高速乗合バス業者と同じ土俵で勝負するようルール変更されたに等しい。

一応、便数や運賃の変更についての事前届出について、その期間を7日前に短縮するほか、割引運賃についても、運賃タイプ毎に、上限額と下限額(上限額の80%以上)の幅による届出を可能にするよう緩和しているから、高速ツアーバスの利点を盛り込んではいるのだけれど、従来型高速乗合バス業者にとっては、規制緩和であるのに対して、高速ツアーバス業者にとっては、安全責任を負わされる分だけ、規制強化の方向になる。高速ツアーバス業者はこれまでより厳しい条件での競争を迫られることとなった。



こうしたことから、高速ツアーバス事業各社は、生き残りをかけて、様々な試みを行っている。これまで高速ツアーバスを取り扱ってきた、WILLER EXPRESS社もそのひとつ。

2006年に設立したWILLER EXPRESSは、既に、年間200万人以上の利用実績を誇る高速ツアーバス業者だったのだけれど、今回の制度改正により、新たに、高速路線バス業者として生まれ変わる。車両163両と約400名の乗務員を確保し、毎日22路線、201便を運行するようだ。

また、安全対策としては、安全運行協議会や運輸監査部の設置に加え、道路交通安全活動の国際マネジメントシステム規格「ISO 39001」を取得するという。

WILLER EXPRESS社で面白いと筆者が思うのは、業界の常識を打ち破るアイデア。例えば、都内を中心に運行され、この8月からは、大阪・京都-広島間で運行開始する、アトラクション型バスなどがそれ。

「スターファイター」と名付けられたこのバスは、バスを宇宙船に見立て、乗客は海賊と戦ったり、隕石の危機から逃れたりといった、ゲーセンのアトラクションを移動中に行えるようになっている。

車内は座席の前方、側面のモニターと天井のスクリーンが連動。座席には、ジョイスティックレバーがあり、これを操作して、参加者が協力してミッションに挑戦するのだという。開発には2年かかったそうだ。

評判は上々のようで、長距離の移動時間も苦にならないようだ。尤も、乗り物酔いしやすい人にとっては、こんなアトラクションは不向きだろうし、随分と客を選ぶバスだとは思うけれど、コアなファンはつくかもしれない。ただ、毎回同じソフトばかりでは、やがて飽きるだろうから、折角のリピーターを飽きさせない工夫は必要になると思う。

また、この車両の評判が良ければ、他の業者も真似をしてくる可能性もあるし、最後はディズニーランドのアトラクションのように、何度でも足を運んでくれるリピーターを何処まで増やせるか、そうしたミソの部分をいかに掴むかに掛かっているのではないかと思う。旅行業界も激動の時代に入っているようだ。




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