安倍総理、東南アジア3ヶ国歴訪に出発

 
安倍総理は7月25日から3日間の日程でマレーシア、シンガポール、フィリピンの東南アジア3ヶ国を歴訪する。目的は経済、安全保障分野での連携強化。

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筆者は今回の安倍総理の外遊において、マレーシアとフィリピンとの首脳会談に注目している。

マレーシアは、1990年代の工業化以降、順調な経済成長を続けてきた。その理由のひとつとして、マハティール第4代首相の在任期間が非常に長かった事(在任1981年~2003年)が政治の安定をもたらしたことが挙げられる。

マレーシアは1991年に、先進国入りを目標に「2020年ビジョン」を打ち出し、順調な経済成長を続けてきた。直近の20年間でマイナス成長となったのは、1998年(アジア通貨危機の影響)、2009年(グローバル金融危機の影響)の2回だけ。

だけど、近年は、経済成長も伸び悩み気味で、1人当たりGDPはアルゼンチン・メキシコとほぼ同じ水準に留まり、韓国に大きく水を開けられている。

経済後進国が経済発展するにつれ、一人当たりGDPが10000ドル前後のいわゆる中進国となったあたりから、経済成長は伸び悩む傾向があるという指摘がされることがある。この現象は「中進国の罠」と呼ばれるのだけれど、中進国は、低賃金諸国の追い上げによって軽工業品などで輸出競争力を失う一方、先進国と競争するには技術力が十分でないのがその原因で、結果として成長が停滞してしまうとされる。

近年マレーシアも、この「中進国の罠」からの脱却が叫ばれ始めた。「中進国の罠」から脱却するためには、国内の構造改革が必須になるのだけれど、マレーシアには、それに対する大きな障害がある。「ブミプトラ政策」がそれ。

ブミプトラとは、サンスクリットから移入された言葉で「土地の子」を意味する。多民族国家であるマレーシアは、イギリスから独立後、経済的に豊かな中国系人と先住民であるマレー人との間で民族対立が続いていた。その原因が経済格差であったことから、マレーシア政府は、総人口の6割以上を占めるマレー系住民の経済的地位を向上させるため、1971年から経済、教育、就職面などで優遇する政策を取り始めた。これが「ブミプトラ政策」。

ブミプトラ政策では、企業の設立や租税の軽減などの経済活動のほか、公務員の採用などでもマレー系住民が優遇され、マレー人は国立大学へ優先的に入学できるようになっている。

ブミプトラ政策は、経済格差の是正の面で一定の成果を挙げる一方、非マレー系や、またマレー系の中でも恩恵に十分に預かれなかった貧困層の不満が蓄積するなど、近年はその幣害も目立っていた。2009年4月に就任したナジブ首相は、非マレー系への配慮から、このブミプトラ政策の一部見直しに踏み切っている。

このブミプトラ政策は、TPPと抵触する政策になる可能性が高く、マレーシア国内では、TPP合意で市場を開放すれば、ブミプトラ政策が形骸化するとの懸念がマレー系企業を中心に強まっているという。

これに対してナジブ首相は、「ブミプトラの保護は優先させるべきことの一つだが、国内外で競争できるマレー系企業を育てていく方がもっと大事だ。…TPP交渉に参加すれば国内産業の保護と市場開放のバランスをとることが避けて通れない。多少のマイナス面は覚悟しなければならないだろう」と述べているから、被弾覚悟の上で、TPPを推進するのではないかと思われる。

つまり、マレーシアは、国内の大きな構造改革の一歩手前にいるわけで、日本にとっては、そこに投資や経済連携のチャンスがあると言える。

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フィリピンは 1960年代当初は経済に関してASEAN諸国の優等生で、名目GDPもASEAN諸国内でも高かった。だけど、年々その差は縮まり、2000年にはタイ、マレーシアに追い抜かれ、現在では大きな差がついている。

フィリピン経済の特徴は、製造業へ投資が少ないことで、それが他のASEAN諸国と比べて経済成長が遅れた原因だとも言われている。

過去フィリピンでは1985年から86年にフェルディナンド・マルコス元大統領の独裁政権に対するクーデター騒動で治安が悪化、さらに1991年から実施していた、1日当たり10時間以上の計画停電などインフラの未整備さから、日本企業のフィリピンへの進出が鈍ったとされる。

その後、電力不足の解決と治安の改善によって、日本を含めた海外資金がフィリピンに流入していったのだけれど、1997年のアジア通貨危機でまた沈没。なんともツキがない。ただ、これも見方によっては、投資のチャンスに溢れているともいえ、経済連携の強化は意味がある。

また、フィリピンについては、海洋警備能力という面での連携強化もある。安倍総理は、27日に予定されるフィリピンのアキノ大統領との首脳会談で、政府開発援助(ODA)を活用して、2014年度から3年程度かけて、巡視船10隻を供与する考えを表明するようだ。

これは、2011年9月、アキノ大統領が、海洋安全保障の協力強化を約束した野田首相に要望したのが切っ掛け。現在、フィリピン沿岸警備隊が持っている主な巡視船はわずか9隻。フィリピン海軍の艦も米軍払い下げのもので、装備も貧弱。

フィリピンは日本に対して、「南シナ海などで全面的な巡視活動を行うには、10隻程度の巡視船が新たに必要だ」と要望していたようで、安倍総理の表明はそれに応える形。フィリピン政府によると、要請したのは、全長40メートル級の巡視船10隻で、総額はおよそ180億円。この程度でフィリピンとの安全保障面での連携強化ができるのなら安いものだと思う。

粛々と進めていただきたい。

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この記事へのコメント

  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > つまり、マレーシアは、国内の大きな構造改革の
    > 一歩手前にいるわけで、日本にとっては、そこに
    > 投資や経済連携のチャンスがあると言える。

    東南アジアの問題は教育にある.
    教育の効果が上がらないのに規制を緩和すれば
    多数派が少数の華系マレー人に使われる戦前に戻る.

    戦後暫くは東大でも東南アジアに教育に力を注い
    でいた.我々の分野で指導的な立場にあった東大教授
    が東南アジアの大学で教育指導に当たっている最中に
    亡くなった. これほどに大学の使命を理解した
    人々が少なくなった. つまり, やっていられない程
    に日本の大学の環境が悪化したとも言える.

    教育に関しては, 日本も人事ではない.
    2015年08月10日 15:22

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