7月6日、パナソニックが4月に発売した新型薄型テレビ「スマートビエラ」シリーズについて、民放各局がCM放映を拒否していることが明らかになった。
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「スマートビエラ」には、電源投入時に放送番組とインターネットのサイトなどが一緒に画面表示される新機能が実装されているのだけれど、どうやらこの機能が問題になっているらしい。
現在、電波法には、「電波有効利用促進センター」及び「指定周波数変更対策機関」なるものが定められているのだけれど、これらを行う機関として、社団法人電波産業会が総務省より指定されている。
これを受けて、電波産業会は、各種の電波利用システムに関する無線設備の標準仕様等の基本要件を「標準規格」又は「技術資料」として策定している。
その技術資料の中に「地上デジタルテレビジョン放送運用規定 技術資料 ARIB TR-B14」というのがあるのだけれど、その第一分冊、第9.3章に「放送番組及びコンテンツ一意性の確保」という規定があり、次のように定められている。
9.3 放送番組及びコンテンツ一意性の確保ここで規定されている、「コンテンツ一意性」というのは、平たくいえば、一画面、一コンテンツの原則。一つの画面に複数のコンテンツを同時表示したり、一つのコンテンツでも勝手に飛ばしたり、カットしてはいけないというルール。
放送番組及びコンテンツの全体としての一意性確保の為、受信機は以下の事項を守る事が望ましい。また受信機が蓄積機能を持つ場合、また外部の記録機をコントロールする機能を持つ場合も、以下の事項を守る事が望ましい。
放送信号若しくは、放送信号等に含まれる記述子やデータなどを使い、例えば告知や広告部分のカット、スキップを自動的に行う様な機能の実装、及び蓄積機能、外部記録機の自動制御を行わないこと。なお、ユーザーの操作による早送り、一時停止などはこれにあたらない。
放送番組及びコンテンツの提示中に、それと全く関係がないコンテンツ等を意図的に混合、または混在提示しないこと。例えば、提示中の放送番組の表示にその番組と全く関係が無いコンテンツや告知、広告を混合提示し、意図的にそのコンテンツや告知、広告が放送番組と一体であるかの様な誤解を視聴者に与える提示を行う機能がこれにあたり、テレビ放送画面とインターネットのブラウザ画面が一体であるかのように視聴者に誤解させるような機能を装備することなどを指す。なお、受信機の機能として、上記の様な誤解を与える事を目的とせず、ユーザーの操作により複数のコンテンツを一画面に同時提示する事、例えば2 画面表示、小画面表示機能はこれにあたらない。
なぜ、こんなルールが設けられたのかというと、一般社団法人デジタル放送推進協会(DPA)が出している、「放送番組及びコンテンツ一意性に関するガイドライン」でその理由を述べている。次に該当部分を引用する。
2.放送番組を提供するにあたって要するに、テレビは沢山の人が、"ながら見"するものだから、放送局側が意図していない情報を勝手に混ぜられてしまったら、誤解を招く恐れがあるから、そうしたことは予め、テレビの仕様として出来ないようにしましょう、というもの。
テレビの視聴形態には、パソコンなどの利用と違い、大きく2つの特徴がある。
① 利用者層が非常に広い
テレビは、ほぼ全ての世帯に普及しており、老若男女を問わず利用されている。サービスは、主として総合編成を基本としており、幅広い利用者を対象としている。
② 受動的な視聴形態・ながら視聴
テレビは、大半の時間において受動的にリラックスして視聴されている。この場合、視聴者はテレビからの情報を信頼して視聴している。
これらの特徴から、放送事業者は対象とする視聴者層を幅広く想定し、リラックスした状態でも誤解されることが無いよう、画面構成や番組構成などの演出に配慮している。
(例A) 台風情報の提示例
<ポイント>
・ ここでは、ある放送局の料理番組の最中に、台風情報を同時に放送することを想定する。
・ メインの料理番組をその放送局が縮小表示し、空いたスペースに台風情報を文字で放送する。このような放送で、放送局は料理番組を中断することなく台風情報を視聴者に提供している。
・ 視聴者は、料理番組、台風情報の両方を、その放送局が放送しているものと理解して、同時に双方の情報を享受する。(放送局も、その意図で放送している)
例Aは災害報道を挙げたが、それに限った話ではない。例えば旅番組において宿の映像を流しながら地図や価格を同時に表示する演出も、放送する側は両方の情報を提供する意図があり、視聴形態や視聴者層によらず、視聴者に対してその意図を理解できるように放送しているものである。
このように放送局はさまざまな視聴者を想定しながら、さまざまな情報を的確に演出し、視聴者もその意図をきちんと汲んでくれることを期待して放送している。これを「番組の一意性の確保」と呼んでおり、放送局は責任を持って編集、編成を行っている。
3.番組と直接関係のない情報を表示する受信機
放送波を直接受信し他の情報は入力せず、また番組を画面全体に表示する従来型の受信機では、「番組の一意性の確保」の問題は発生することはない。
しかし、複数の放送番組を同時に表示したり、番組と直接関係のない情報を同時に表示する受信機では、「番組の一意性」が確保できなくなる可能性が出てくる。
《中略》
<ポイント>
・ 視聴者から見るとインターネットブラウザと放送画面とが一体のように見えるため、視聴者は放送番組と関係のない地域情報も、放送局が提供した情報であると誤解してしまう可能性がある。つまり例Aと例B-1の画面は多少の違いがあるものの、一見したところでは同じような演出手法によるものだと受け止められて、HTMLコンテンツの情報に関しても放送局からの情報であるかのように受け止められてしまう可能性がある。
・ このとき、放送局は自局が提供していない地域情報が番組と一体化されて提示されることを想定していない。また、そのように提示されていることすら気付かない。
・ このようなケースを「番組の一意性が確保されていない」という。このような表示は避けるべきである。
まぁ、普段からネットを使っていて、テレビ番組の内容や情報を、能動的・批判的に見ている人にとっては、余計なお世話だとは思うけれど、建前上は、テレビは受動的に見られているものだということなのだろう。
ただし、この「一意性の確保」は、いついかなる場合でも確保しなければならないということではなくて、規定には、「ユーザーの操作により複数のコンテンツを一画面に同時提示する事、例えば2画面表示、小画面表示機能はこれにあたらない」と、視聴者が、「意図的」、「能動的」に複数画面表示する場合にはその限りではないとしている。
ガイドラインでは、この部分について、「『視聴者に対してあたかもそれらの提示(同時提示もしくは混合提示)が放送事業者の意図と思わせる機能』ではなく、それをある程度担保するためにユーザー操作を介在させることで複数のコンテンツを一画面に同時に提示することは許容している。」と解説している。
ということで、どうやら、テレビの電源をONした直後などのように"ユーザー操作が介在していない”状態で、複数画面表示になることが規定に引っ掛かるということのようだ。
ただし、いまのところ、規定にもガイドラインにも、そうすることが望ましいとしているだけで、特に罰則規定等は設けられていない。けれども、各局は「このテレビはルール違反だ」として、CMを放映していない。
どうやら、この問題について各局は「スマートビエラ」の発売前から把握していて、パナソニックと協議をしていたらしい。結局折り合いがつかず、「スマートビエラ」が発売になったのだけれど、今も開発中のテレビの機能などについて話し合いを続けているという。
今回の問題について、パナソニックは「スマートテレビは新しい分野のサービスで放送、通信の新たなルールづくりが進められている段階にある。コメントは差し控えたい」と述べているけれど、コメントは差し控えたいといいながら、"放送、通信の新たなルールづくりが進められている段階にある"と思いっきり主張している。
実は、このガイドラインを策定している、一般社団法人デジタル放送推進協会役員には、パナソニックの常務取締役兼AVCネットワークス社社長の宮部義幸氏が理事として名を連ねている。だから、今回の「スマートビエラ」について、問題視されるであろうことは事前に分かっていたのではないかと思われる。
だとすれば、誤解を恐れずにいえば、これはパナソニック側の確信犯的行動で、この"コンテンツの一意性"ルールを変えようと狙ってのことではないかとさえ。
筆者は、「スマートビエラ」を持っていないので、実際にどういう複数画面表示システムになっているかは分からないけれど、ユーザー操作が介在すれば複数画面OKなのであれば、テレビのリモコンに「複数画面ボタン」を付けて、電源ON直後はテレビだけしか映らないけれど、「複数画面ボタン」を押せば複数画面表示に切り替えられるようにしておけば、それで済む問題のように思える。
だから、しばらくは、すったもんだするかもしれないけれど、そのうち落ち着くところに落ち着くのではないかと思う。
最後に蛇足ながら、ガイドラインについて、一言述べておきたい。
ガイドラインでは、番組の一意性の確保をするために、番組と直接関係しない情報を同時に提示することは基本的には好ましくない、とした上で、更に、時間軸方向の一意性にも注意すべきとして、次のように述べている。
「番組の一意性の確保には、時間軸方向の一意性も含まれることに注意する必要がある。すなわち、例えば放送番組視聴中に番組と直接関係しない情報が時間軸方向に挿入されたり、放送局が想定しない画面遷移が起きることは、番組の一意性の確保の観点から望ましくない。」ガイドラインは、時間軸方向に、番組に関係ない情報を挿入することも望ましくないとしているけれど、このガイドラインに従えば、例えば、目に止まらないくらいの一瞬に、全然別の画像を差し込む、いわゆる「サブリミナル手法」も駄目ということになる。
ガイドラインでは、放送局は「番組の一意性の確保」の為に、責任を持って編集、編成を行っていると謳っている。これは、逆にいえば、放送内容自体は全て放送局の意図どおりのものでもあるということ。
2006年7月、TBSのニュース番組「イブニング・ファイブ」が旧日本軍731部隊に関する特集コーナーの冒頭に、ニュース内容とはまったく無関係の自民党・安倍晋三官房長官(当時)の顔写真を約3秒間放映して、問題となったことがあったけれど、放送局があの放送に「番組の一意性」があるとするのなら、TBSは安倍氏をサブリミナル手法によって貶める意図があったということになるし、そんな意図はなかった、というのなら、彼らは「番組の一意性」ルールを自ら破っていたことになる。
業界内の自己ルールを振りかざして、CMを流さないというのは、それはそれで筋は通っているかもしれないけれど、裏では自分達がそれを破っているのであれば、説得力に欠ける。
他人に「番組の一意性」ルールを守らせたいのであれば、それ以上に自らを律する姿勢が求められる。
この記事へのコメント
出羽
mohariza
サブリミナル手法を使わず、堂々と、表でも 画像、字幕、声、音楽で挿入しています。
もちろん、テレビ以外の公告も使われ、この頃、簡単に画像合成出来るようになったので、不快なものが溢れ、私は見ないようにしています。