
7月5日、安倍総理は、BSフジの番組で、「伊藤博文は尊敬されている偉大な人物だ。それはお互いに尊重すべきだ」と不快感を示した。
これは、先日の中韓首脳会談で、韓国の朴大統領が中国の習近平国家主席に、伊藤博文を暗殺した安重根の石碑建設を要請したことを受けてのコメントなのだけれど、日本の立場からは当然の発言。
この安倍総理の発言に対して、韓国のネットでは、「こういう人間を総理に選んだ日本のやつらも全部戦犯種族」とか、「どんな理由であれ朝鮮を抹殺させて植民化したことについて、そのまま死ぬのが良い奴」とか批判の大合唱が繰り広げられているようなのだけれど、自国と相手国との歴史認識に差があることを認め、それを互いに尊重しながら、新しい関係を作っていきましょう、というのがいわゆる「未来志向」の二国間関係。それが大人の対応。
だけど、韓国は、国家元首からそれを言い出している。これは、それが韓国という国の意思でもあるということを意味してる。自国の歴史認識を相手国に押し付けることが許されるのであれば、日本だって、「安重根のテロによって伊藤博文は暗殺され、結果として日韓併合を早めることとなった」と韓国の教科書に記載せよ、と注文することだってできることになる。だけど、日本がそれをしないのは、内政干渉であるからというのは勿論であるけれど、韓国国内での歴史観を尊重しているということでもある。
韓国が自国内で安重根の石碑を建てるのは、まぁ勝手だけれど、それを第3国に建てるというのは、その第3国の歴史観をも尊重しない行為になる。
何故、朴大統領は、今頃、安重根を出してきたのか。
先日、韓国から、元従軍慰安婦を自称する方が橋下氏との会談するために来日し、会談直前になってキャンセルして帰国したことがあったけれど、これ以上、従軍慰安婦ネタでは、日本を責めるのは難しいとみて、安重根を出してきたか、或いは、韓国では安重根は抗日闘争の英雄と評価されていることから、反日・抗日というキーワードを介して歴史認識で中国と共闘できないかと考えているのかもしれない。事実、中韓首脳会談で、朴大統領は、習近平主席に「安重根義士は、韓中両国民がともに尊敬する歴史上の人物」だと述べている。
だけど、韓国と同じく、日本との併合の歴史を持つ、北朝鮮では安重根の評価はそれほど高い訳でもない。1979年に北朝鮮が制作した『安重根が伊藤博文を撃つ』という映画では、救国の意志を持った安重根の意志は尊いが、穏健派の伊藤博文を暗殺したのは下策であるとしている。また、こちらのサイトでは、平成11年に北朝鮮を訪問したときの旅行記を掲載しているのだけれど、平壌の朝鮮革命博物館で、説明のガイドから、安重根について「金日成主席の祖父や父と協力せず、一人であのようなことをやった愚か者。だから失敗した」という説明を受けたと記されている。
朴大統領は、習近平主席に、「安重根義士は、韓中両国民がともに尊敬する歴史上の人物」と語りかけたところをみると、中国国民も安重根を尊敬している筈だと思っているかもしれないけれど、本当にそうなのかどうかはまだ分からない。
実は、2006年、中国のハルビン市に韓国人によって、高さ4.5mの安重根の銅像が建設され、当局から「外国人の銅像建設は認めない」として撤去された過去がある。
この銅像を建てたのは、中国在住の事業家イ・ジンハク氏。彼は私費1億7000万ウォンを投じて銅像を作り、ハルビンに建てようとした。ところが、中国では当局の許可なく銅像を建てることは違法だった。にも関わらず、イ・ジンハク氏は違法と知りながら、「一度建ててしまえば、黙認してくれるだろう」と無許可で建てたのだという。だけどそんなケンチャナヨ精神が通用する筈もなく、案の定、建ててから11日後に撤去命令が下り、銅像は撤去されてしまう。
この時は、単なる違法行為での撤去だっただけれど、今回の石碑については、習近平国家主席が、検討するようにと指示を出しているから、建てようと思えば建てられてしまう可能性はあることはある。
だけど、安重根の石碑を建てるということは、それは、目的達成の為に、暗殺というテロ行為を肯定し、それを他国に喧伝することを意味してる。まぁ、今の中国は、共産革命で出来た国でもあるから、革命自体は肯定できるにしても、その為には、テロもOKなんてできるのだろうか。
第一、安重根は1904年に当時の清国人と争って射殺し、上海に逃げたことがある。韓国政府のサイトにある「極秘 兇行者及嫌疑者調査書」の中に次のような記述がある。
第一 兇漢安重根このように、当時でも外交事件にまでなっている。
一.性行
重根は、明治37年春、黄海道載寧に於て清国人と争闘の末、其携帯せる短銃を以て清国人を射殺したるより、清国領事より外部と交渉する処となり、事件重大とならんとせしより、重根は上海に逃走し、父泰勳は其間に於て時の外部大臣李夏栄に哀願し、漸く事なきを得たりと。
重根の11月14日供述中「5、6年前上海芝罘に渡航したり」とあるは、思ふに此行を指すものなるべきか。
又重根は、5年前即ち西北学会設立当時、同会に加盟し、其浦汐渡航前、安昌鎬等と排日演説を為したること数回ありと云ふ。「兇行者及嫌疑者調査書」より引用。
まぁ、"従軍"慰安婦については、人権というところでアピールしやすいし、何より、当事者が生きているから、同情を引きやすい面もあると思うけれど、テロ行為を行った人物となると、いくら韓国国内では英雄なのだとしても、それが世界で通用するとは限らない。
仮に朴大統領が安重根を持ち出して、歴史認識で中国と共闘しようという意図があったとしても、それが成功するかどうかは、突き詰めていえば、中国・韓国の歴史認識が世界のスタンダードになるのかどうかという点になると思う。
産経新聞シンガポール支局長の湯浅博氏によると、アメリカのケリー国務長官が、ブッシュ共和党政権の元高官と、アジア問題で協議した際、ケリー長官が「どうして日本はアジアで孤立しているのか」と問われ、元高官が「それは中国と韓国だけのことで、日本の安倍晋三政権は、他のアジア諸国から歓迎されている」と答えると、吃驚していたという。
朴大統領は安重根を英雄視する歴史認識を前面にだそうとしているけれど、却ってそれが韓国の孤立化を進めるような気がしてならない。朴大統領の危うさは加速している。
この記事へのコメント
白なまず
GHQが仕掛けた情報操作から日本人が逃れないと駄目ですね。
M
その行為を国家として祭り上げるのは、
国家としては「テロ容認」に繋がり、
ゴルゴ13もそれを潔い、とはしない と 思います。
「テロ」行為を政治の道具に使っては、国家の理念が危うくなると思います。
さん