戦略目標からみた日本とシリア

 
昨日のエントリーの続きです。

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1.シリアへの軍事介入と民主化

昨日までは、アメリカがすぐにでも軍事介入をしそうな勢いだったのだけれど、同盟国イギリスが脱落した。

8月29日、イギリスの下院が、対シリア軍事行動に関する政府提出の動議への採決を行ったのだけれど、結果は、賛成272、反対285で否決。キャメロン首相は「英国民の意見を反映する議会が軍事行動を望まないことがはっきりした。政府はそれに従って行動する」と軍事介入から手を引くと述べた。

今のところ、アメリカは単独でも、シリアに軍事介入を行うことができるか模索しているのだけれど、国内の支持は低い。化学兵器の使用が報じられた週に行われたロイターとIpsosの調査でも、軍事介入に賛成と答えたのは僅か9%だという。

オバマ政権内では、軍事介入を行ったとしても、限定空爆あたりに傾いているようだ。本当にアサド大統領が化学兵器を使ったのか否かという議論が影響しているとも言われている。

世界が納得するかどうかは別として、アメリカはシリアへの軍事介入の根拠として、アメリカの国益と倫理観と国際法の3つを挙げている。仮にそれが是とされたとしても、では、アメリカが軍事介入することで、その結果、シリアをどうしたいと考えているのか。その辺りがいまひとつはっきりしない。

仮に、化学兵器関連施設や部隊を対象とした限定ミサイル攻撃を行って、それに成功したとしても、それによって得られるものは、高々、しばらく化学兵器は使えないというだけのことで、シリアの内戦が収まるわけでもなければ、アサド政権が倒れる保証もない。それとも、アメリカの軍事介入することが、シリアの民主化の後押しになるとでも考えているのか。

確かに、2011年のリビア内戦では、国連安保理は、カダフィ大佐率いる独裁政権に対し、「民間人に対する暴力」とする非難決議を採択。経済制裁とNATOによる軍事介入が行われた結果、カダフィ政権が崩壊している。その意味では、アメリカ等の軍事介入が民主化を進める切っ掛けにならないとは言い切れない。

だけど、その一方、中東の独裁政権を崩壊させたことで、これまで軍が保有していた武器が政府のコントロール下を離れて流出し、テロリスト達の手に渡って、彼らの武装強化や凶悪化に繋がっている。また、この混乱に乗じて、イランがエジプトやバーレーン、イエメンの野党や反政府勢力に手を伸ばし、影響力を強めようとしているとの観測もあるようだ。

現状を見る限り、民主化はしたものの、それが、中東の平和と安定に繋がっているとは言い難い。




2.勝負に負けて、試合に勝った日本

2005年8月、当時のアメリカのブッシュ大統領は、カリフォルニア州サンディエゴでの演説で「開戦時には、太平洋地域の民主主義国家はオーストラリアとニュージーランドだけだった。…アメリカは真珠湾攻撃から4年以内に立ち直り、2つの前線で戦い、世界戦争に勝利した。…アメリカと日本の専門家は当時、日本には民主主義の備えがないと指摘した。だが日本で達成したことを見れば、特定の人々が平等と自由に適していないと信じるのは誤りだということが分かる」と述べたことがある。

確かに、戦後の日本はアメリカにとって、民主化の成功体験、或いはモデルケースであるかもしれないけれど、当時の日本が既に議会を持ち、民主国家であったことを抜きにしても、重要な点を見落としているように思う。それは、戦争における大義、言い換えれば戦略目標を達成できたかどうか、という観点。

日本があの戦争を開始した時の『大義』は「八紘一宇」或いは「大東亜共栄圏」或いは「アジア解放(植民地解放)」であり、具体的な戦略目標としては、エネルギー、資源の確保及び安全保障だった。

1951年5月3日、マッカーサーは、アメリカ上院軍事外交共同委員会で、「They feared that if those supplies were cut off, there would be 10 to 12 million people unoccupied in Japan. Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.(日本は、資源の供給を絶たれることにより、1,000万から1,200万の失業者が発生することを危惧した。日本が戦争に飛び込んでいった動機は、大部分がその脅威から逃れる必要に迫られてのことだった)」と述べている。

日本の、これらの大義および戦略目標の達成という観点からみると、日本は戦後、これら目標をほとんど全部達成している。在日米軍の駐留によって、資源を安全保障を確保した。そして、アジア各国が次々と独立し、結果として植民地はなくなった。今の日本の大陸以外のアジア各国との良好な関係をみると、「大東亜共栄圏」と言えないまでも、「大東南亜共栄圏」くらいまでは達成しているといっていいように思われる。

つまり、日本は戦争に負けたにも関わらず、大義と戦略目標のいずれも勝ち取っている。いわば「勝負に負けて、試合に勝った」とでもいうべきか。

だから、日本は、先の戦争においても、部分的に納得できているところはあるわけで、大義と戦略目標が達成できた以上、再び外に出る必要もない。ゆえに、日本の戦後復興も上手く言った面もあるのではないかと思う。もちろん陛下が処刑されずに済んだことも非常に大きな要素であるのは言うまでもない。

アメリカはそれを見落としているのではないかと思う。だけど、今のアメリカには、それに気づくことはできない。なぜなら、それに気づけるようになるためには、日本の大義、つまり「太平洋戦争は日本による植民地解放戦争だったのだ」ということを認めなくてはいけなくなるから。これを認めるということは、日本を「人道に対する罪」として裁いた東京裁判から何から、全部撤回しなければいけなくなる。だから、気づけない。




3.文明の同盟

では、この観点で、中東をみるとどうなるかなのだけれど、少なくとも「民主化」が彼らの大義だとか戦略目標だとは思えない。

1948年に、イスラエルは独立を宣言したけれど、これを認めない近隣アラブ諸国が宣戦を布告し、第一次中東戦争が起こった。その後は御存知のとおり、なんども戦争や紛争を繰り返している。彼らにとっては、民主化などより、パレスチナ問題のほうがよっぽど重要であろうと思われる。

例えば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3宗教共通の聖地である、エルサレムの帰属問題にしても、パレスチナは、「半分ずつにしよう」と言っているのだけれど、イスラエルは、「全部自分たちだけのものだ」と主張して対立している。

だけど、それぞれの宗教の教徒にとっては、聖地を蔑ろにすることなんて以ての外。だから、教えに忠実であればあるほど、信仰が深ければ深いほど、エルサレムを巡っての対立は先鋭化することになる。

本当は、ヤーウェとイエスとムハンマドで話し合って、折り合いをつけて、「はんぶんこしなさい」とか言ってくれるのが一番なのだけれど、そうもいかない。人間同士で話し合うしかない。

1993年に結ばれた「オスロ合意」は、"イスラエルとパレスチナ自治政府は互いに相手を承認して、イスラエルはパレスチナに入植した地域から、5年間は撤退して、パレスチナ自治政府の自治を認め、その間に今後のことを協議しよう"というものだったのだけれど、2006年7月に、イスラエルが、ガザ地区・レバノンへの侵攻したことで、事実上崩壊したとされている。

だから、結局は、宗教的な教えの部分に手を入れていかないと、最終的な解決は出来ないのではないかと思う。その意味では、中東の民主化だって、イスラムの教えと民主化を繋ぐ理論というか教えが必要ではないかと思われる。

それなしで、いくら日本モデルの統治であるとか、民主化運動をバックアップしたとしても、イスラムの民を納得させることはできないし、民主政治も定着しないのではないかと思う。

宗教対立の問題について、ある有名なスピーチがある。次に引用する。
「他人」を悪に仕立て上げることが、安易な道であることはすでに明らかです。21世紀に入った現在もなお、我々は自分が不公平な目に遭っている、自分には当然の権利があるのだといった意識に捕らわれています。我々は自ら発した言葉の獄囚となってしまっています。

たとえば世界の多くの人々にとって、特にイスラム教徒にとって、西洋は自分たちの信仰や価値観、経済的な利益、政治的な願望に対する脅威と映っています。それに反証を加えてみたところで、軽蔑されるか、信用されないかのどちらかでしかありません。

逆もまた同様です。2つの世界の間では昔からずっと、商業取引と相互協力、文化交流といったことが、紛争と少なくとも同じ程度に重要な位置を占める関係が維持されてきました。にもかかわらず、多くの西洋人は、イスラム教を過激で暴力的な宗教と見なしています。

我々はこうした遺恨を断じて乗り越えなければなりません。まず第一に、問題がコーランやトーラー、聖書にあるわけではないことを再確認し、論証することから始めなければなりません。問題は信仰にあるのではなく、信者たちのうちにあるのです。

ある宗教の信者たちが、別の宗教の信者たちに対してとる態度のうちにあるのです。我々はすべての宗教に共通する基本的な価値観、つまり思いやり、連帯心、人格の尊重、「人からして欲しいと思うことを人になせ」という大原則を強調すべきです。と同時に、個人や一部のグループが犯した罪に基づいて、ある民族、ある地域、ある宗教全体について、固定観念を抱くようなことがあってはなりません。
このスピーチの主は、コフィー・アナン前国連事務総長。アナン氏は、すべての宗教に共通する基本的な価値観をベースにして、そこから協力関係を築いていくべきであると訴えている。

こうした考えも一つの解決の方法だと思われるし、本来、国連はこうしたことに指導力を発揮してしかるべき。

だけど、今の国連事務総長、潘基文"世界大統領"様は、なんにもしない。別に、アナン氏並みの演説をしろとはいわないまでも、ここで国連の存在感を示せなければ、国連の権威というか、存在意義はますます薄れるばかり。紛争解決のためのリーダーシップを発揮できないのなら、潔く辞任して、アナン氏に戻ってきて貰ったほうがいい。




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この記事へのコメント

  • 白なまず

    ついでに、蛇足ですが、タロットカード21は世界、宇宙を意味するカードで、右下に獅子、左下に牡牛、右上に鷹(=サソリ座でもある)、左上に女神(=ミズガメ座でもある)、中心に完全な人間または救世主、またはルシファーであり黄金の夜明けを示す。獅子とはユダ族であり右は水なので、瑞穂の国。左は日で牡牛とは牛頭天王=スサノオ=アレクサンダー大王の事で武士を意味する。この構図はクフ王のピラミッドとスフィンクスの配置と同様でピラミッドが救世主、スフィンクスが獅子(座)レグレスが獅子の心臓であり、地球の歳差運動でレグレスが示す先にシリウスがある地球の時計であり、救世主に対応するピラミッドは須弥山でもあり、四天王がそれぞれ獅子座、おうし座、水瓶座、さそり座に対応し、21世紀に世界(地)と宇宙(天)に救世主、須弥山、が再臨する時を告げる時計およびモニュメントとしてクフ王のピラミッドやマヤの太陽神殿などが3000年より古い時代からの預言により建設されたと解釈しています。これがカバラの関係でヘブライ、古代ユダヤや日本の古神道などに受け継がれていて、その本流は日本に保存されていると能力者ミルカ・パヴェルコヴァは説
    2015年08月10日 15:22
  • 日比野

    ス内パーさん。コメありがとうございます。

    戦略目標=試合、戦争=勝負の積りで書いてました。戦争そのものは手段で、最終的に目標(大義)を達成できたことは、試合の勝ちではないかとしたのですけども、普通は逆ですよね、確かに。分かり難くてすみません。
    2015年08月10日 15:22
  • erstea

    シリアはイラン経由でケッシュ財団の技術を受け取ったから攻撃されている。

    http://sunshine849.blog.fc2.com/blog-entry-106.html

    このようにケッシュ財団の技術を使えば米軍機を無傷で鹵獲することもできる。
    これを潰したいイスラエルが必死にシリアを攻撃しているにすぎない。

    日本も去年11月にケッシュ財団から原発問題やエネルギー問題を解決する技術を受け取っているが未だに政府に隠蔽され続けている。
    ケッシュ財団の技術が表に出れば世界平和も実現され、環境問題や食料エネルギー問題などは全て解決する。
    ケッシュ財団の詳細については

    http://www.onpa.tv/2013/08/11/1893

    http://sunshine849.blog.fc2.com/blog-entry-118.html

    http://blog.goo.ne.jp/narudekon/e/a614779c0fb09de38540b4e86e5c99da

    を参照されたい。
    2015年08月10日 15:22
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    民主化が目標であると考えるのは如何がか.
    要は国民が, 実際には国民の意識があるのかは
    怪しい場合が多いが取り敢えず, 国民が自分達
    の生活様式を続けていけることが重要だと思う.
    既にイラクのその後を見て理解しているように,
    米国が考えるような, 或は日本が考えるような
    民主主義が中東の地で数十年で育つと考えるのは
    迷惑な話しだ. 中東において民主化を主張する
    者達は, イスラム過激派に代表されるような
    現在の劣性を政治的革命を通して一気にとり返そう
    としていると考えるのが正しいと思う. 大東亜戦争
    に至る歴史を見ても, このような見かけ上の
    「民主化闘争」は欧米の無批判な者達の指示を得やすい.
    この結果, 中国共産党が権力を握り多くの支那人を
    殺したのである. 我々は歴史を見つめるべきだろう.
    2015年08月10日 15:22
  • ス内パー

    あー… 試合に負けて勝負に勝った の間違いでは?(汗
    2015年08月10日 15:22

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