自衛隊の陸海空統合運用について

 
7月26日、防衛省は、防衛大綱の中間報告を公表した。

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防衛大綱は、大体、約10年間の安全保障政策の指針を記したもので、政府は尖閣有事などを踏まえて、陸自・海自・空自の統合運用能力の評価を行ったのだけれど、その結果、離島防衛について人員・装備共に不足していることが明らかとなり、「航空優勢及び海上優勢を確実に維持することが不可欠」とした。

中間報告は、「機動展開能力や水陸両用機能、いわゆる海兵隊的機能を確保することが重要」とし、戦闘機や艦艇の能力向上などをはかると共に、陸自の専門部隊の人員や装備を拡充して、アメリカ海兵隊のような能力を持たせる方針を打ち出している。

現在、対馬から南西諸島までの広大なエリアを守る自衛隊員はわずか660人。水陸両用車は今年度に研究用に4両が導入されるだけ。これでは、素人でも、有事の際に部隊を迅速に展開させるなんて無理だと分かる。

実際、統合幕僚長の岩崎茂空将は、「島嶼侵攻対応に十分かというと、必ずしもそうではない」と認めているそうだけれど、陸・海・空とそれぞれ別個の組織体系の統合運用は口でいうほど簡単じゃない。

例えば、陸自・海自・空自が何らかの統合作戦を行ったとする。この時、陸自・海自・空自にはそれぞれ指揮官が存在するのだけれど、その時の戦況を優勢とみるか劣勢とみるかで、その後の作戦行動が変わるのは当たり前。陸自・海自・空自のそれぞれの指揮官が全く同じ戦況判断をしているなら兎も角、それぞれの判断がバラバラだったとしたら、その下の部隊行動も当然バラバラになる。その時点で統合運用なんてパー。

また、指揮命令系統だけじゃなくて、陸自・海自・空自それぞれに組織文化も異なっているという。

大阪成蹊大学教授の谷光太郎氏の評言によると、陸自は「用意周到・頑迷固陋」、海自は「伝統墨守・唯我独尊」、空自は「勇猛果敢・支離滅裂」なのだそうだ。

例えば、陸自は朝霞の研究本部が数年を見通した、戦略、戦術、装備を統括検討するのだけれど、海自や空自にはそれに相当する機関はない。また、海自はその昔、艦長の指示が末端乗組員に伝わるまで数分かかったことから、定刻の5分前に「予令」を発した伝統が今も守られているそうだ。だけど、空自にはそういう伝統はない。そして、空自は、その職務の性質上、兎に角早くやることが重視され、スクランブルで、「何でもいいから早く飛び出した」パイロットを管制官が適切に誘導するシステムが存在する。

また、言葉ひとつとっても、陸・海・空で使い方が違う。例えば、「計画」という言葉は、海自では「建て付け」というそうで、統合幕僚監部では、時に、陸自の将官に、海自が説明する場面もあるという。



因みに、今春から放映しているアニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」で、ヤマトが主砲を撃つ時、古代が「撃ち方始め、テー」と号令をかける場面が出てくるけれど、あれなんかも、「撃て」が「テー」になったもの。「ヤマト2199」のヤマトクルーの発声も海自で使われているものを踏襲しているらしく、「艦長」という発声も「艦長」ではなくて「干潮」。

更には、陸自・海自・空自で作戦行動に使う地図の縮尺だって違ってる。

陸自は概ね5万分の1の地図が基本。尤もこれは連帯規模の話で、師団規模では、10万分の1以上も使用することがあり、逆に中隊の訓練などでは、2万5千分の1又はそれ以下のものも使うそうだ。

それに対して、海自の「チャート」は、港内航行時は5万分の1、通常は10万分の1、遠洋航海では500万分の1まで使い、空自は大体20万分の1以上のものを使うようで、イメージ的には、陸自は「歩く速度」、海自は「船の速度」、空自は「航空機の速度」に応じた縮尺の地図を使うそうだ。まぁ、言われてみれば、ごもっともな話ではある。

このように、作戦地図の縮尺が違い、組織内部で使う言葉から違っていては、号令一つで陸海空の統合運用なんて、到底覚束ない。

古い話を言えば、平成11年3月の能登半島沖不審船事件では、同時に出動した海自のイージス艦と空自のF15との間で何ら連携が無かったことや、陸自・海自・空自それぞれで使用する無線が共通化されていないことなどが指摘されていた。

今年の6月、防衛省が、統合幕僚長に次ぐ地位で、陸海空3自衛隊の部隊運用を一元的に指揮する「統合司令官」の新設を検討していることが明らかになっているけれど、これは、これまで、統合幕僚長が担っていた、防衛相の軍事的補佐と陸海空の一元的部隊運用を分割し、部隊運用に専念できる組織にするためと言われている。

そんなおり、浮上してきたのが、今回の防衛大綱の「海兵隊」構想。

今年の6月に自衛隊はアメリカ軍がカリフォルニアで行った離島奪還訓練「ドーン・ブリッツ」に、初めて参加しているけれど、これは勿論、自衛隊の統合運用を見据えてのもの。参加した自衛隊は、アメリカ海兵隊と共同で、ヘリからの降下や揚陸艇での上陸など、実戦に近い環境での演習を行っている。

「ドーン・ブリッツ」への参加について、岩崎茂統合幕僚長は、「統合運用と日米連携の面から意義が深い」と述べているけれど、世界最強とも謳われるアメリカ海兵隊と合同訓練し、そのノウハウを吸収できる意味は決して軽くない。

来たる有事に備える意味でも、自衛隊の陸海空の統合運用および海兵隊構想は粛々と進めていただきたい。

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この記事へのコメント

  • almanos

    日本の場合は国土防衛という観点で見れば「海空で侵攻してくる敵をたたき落とし、死平と化して突破し敵が万が一陸に上陸、もしくは国土上空に飛来してこれたのを殲滅する」というドクトリンになるかと思います。要するに最初から海陸空で指揮判断の基準を一元化しておかないと拙い。なのにやっていなかったってのがなぁ。後は皮肉ですが対核戦争対策を進めないと拙いでしょう。冷戦中は両陣営ともコントロールは効いていた。ですが、お隣の中共という内部混乱からいつ内乱に陥るか不明で、しかも引き金がとても軽い国が核を持っている。しかも隣に。こういう現実がある。核ミサイルを速やかに撃墜して核攻撃を防ぎ、万が一食らったとしても速やかに国家の機能をリカバリーし、文明を維持運営する機能も同じく復帰できる震災対応を含めた「国土強靱化」と「国家強靱化」を推し進めないといけないんですよね。その意味では福島を含めたウラン型原子力は「国策国営」で責任を一元化して「核攻撃食らっても原発でエネルギーは確保できます」体制にしないといけなかった。東電を一旦解体し、福島は国家の直轄管理下に置いて「原子力災害に対する国土安全保障」を最優先に対策しない
    2015年08月10日 15:22
  • 日比野

    白なまずさん、情報ありがとうございます。これなかなかのようですね。
    キャタピラじゃなくて8輪タイヤなのがなんともですが、スピードでそうですね。100km以上ですか。普通に戦車ですよね。これが空輸可能となると、投射戦力が格段にアップしますね。
    2015年08月10日 15:22

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