尖閣空中戦と憲法改正を警戒する中国
中国による尖閣領海侵犯が続いている。
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8月3日午後5時15分頃、中国で初めてヨットによる世界一周を成功させた山東省の冒険家、墨氏のヨットが、中国海警局の「海警」3隻に護衛される形で、尖閣領海に一時侵入、同午後10時40分頃領海を離れた。領海内では、ヨットから海警に1人が乗り移るなどしたようだ。
作家の宮崎正弘氏によると「ヨットから海警に人が乗り移ったのなら、一体となって行動していると見ていい。中国海警局は新しい組織なので『アピールしよう』としているのでは。中国は以前から『漁船などを尖閣で座礁させ、人命救助という名目で中国海軍などが上陸する』というシナリオが練られていた。今回もヨットと海警でそれを狙っていたのでは。海上保安庁が上陸を防いだが、8月15日や9月11日に向けて、同様の行為がエスカレートする可能性がある」と語っているけれど、その可能性は十分ある。
この漁船を座礁させて後から保護目的で中国軍が尖閣に押し寄せるという想定については、軍事専門誌『軍事研究』の5月号で、武器専門家の三鷹聡氏が寄稿した「尖閣上空『日中』航空戦」という論文にてシミュレートされている。
三鷹氏は「中国の漁師が海難事故により釣魚島に漂流するところから始まり、中国国家海洋局は『中国の漁師を救助する』という名義でY-12を釣魚島に派遣する」という状況を設定し、最良と最悪の2通りをシミュレートしている。
最良のケースは、政府が毅然として尖閣を防衛する意思を固めている場合。政府は、ただちに那覇からF15Jを2機スクランブルさせるも、それを確認した中国は、福建省の水門基地からJ10戦闘機を発進させる。だけど、中国は、J10の発進を通常のスクランブルを装いつつ、更に30機のJ10も後続発進させる。
スクランブルしたF15Jと後方で警戒管制任務についていたE-767AWACSは、これに気付き、バックアップとして築城基地の第8航空団から更にF15Jを2機発進させる。だけど、先行するF15Jは先手を取られた形となり、J10から空対空ミサイル攻撃を受け撃墜されてしまう。
バックアップのF15JとAWACSは後方に下がり、政府に急報。政府は臨時閣議を開いて「防衛出動」を発令。防衛出動を受けた空自は、那覇、築城両基地から24機のF15Jを迎撃に向かわせる。その内の2機は、中国のAWACSであるKJ-2000を撃墜。データリンクを失ったJ10がF15Jに全機撃墜される、というシミュレーション。
これに対して、政府が尖閣防衛のための、防衛出動命令を出さない場合が最悪のケースとなる。先行スクランブルしたF15J、2機がJ10に撃墜されるところまでは、最良のケースと同じなのだけれど、政府が防衛出動を出さないがために、空自が迎撃のF15Jを増援に送ることもできず、迎撃もできなくなる。迎撃機の目であるE-767AWACSはJ10に撃墜され、その結果尖閣周辺の制空権を失うというのが最悪ケースのシミュレーション。
尤も、三鷹氏は、中国が尖閣諸島を軍事占領するために『支払うコスト』に対して、『得られるメリット』はあまりに少ないという理由から、「中国が尖閣諸島に対し軍事行動に出ることはありえない」としているけれど、物事に絶対はない。三鷹氏のシミュレーションをみても分かるとおり、日本政府が断固として領土領海を守るという決意があり、そのための断が下せるかが全て。
それでも、現在の日本国憲法では、自衛隊は、相手の攻撃着手を確認してからでないと反撃できないという縛りがある。武道でいう「後の先」しか許されていない。だけど、兵器の性能が発達した今では、先手を取られることは、そのまま負けになる可能性は極めて高い。だから、最悪のケースでも、最良のケースでも、先行スクランブルしたF15Jは撃墜されるというシミュレーション結果となったのだろうと思われる。
この三鷹氏の論文についても、中国は噛みついた。中国軍事科学学会副秘書長の羅援少将は「日本は釣魚島空戦の想定の中で自国の兵力を過小評価することで、平和憲法の改正の口実を求めている」と述べている。つまり、自国の兵力を過小評価することで、国際社会の同情を勝ち取り、平和憲法を改正しなければ、自衛隊は惨敗を喫すると主張することで日本の民意を動かし、改憲に賛成票を投じさせようという狙いがあると中国は見ているようだ。
だけど、憲法改正の口実も何も、そもそも中国が尖閣への領海侵犯をしなければ、こんなシミュレートも発表されることは、恐らくなかったわけで、単に、自分で火をつけておきながら、自分で騒いでいるだけのように見える。中国が覇権主義を止め、尖閣への領海侵犯をしなければ、憲法改正の話がここまで日本で取沙汰されることはなかった筈。
それに、中国が、そんなに日本の"平和憲法"を改正すべきでないというのなら、中国自身が日本国憲法の第9条を採用すればいい。それで中国の覇権主義が止まれば、それこそ日本国憲法は誠の平和憲法であり、本当に平和を実現する憲法だと証明できるだろう。それなら日本が憲法改正すべきでない、という言い分にも説得力が出る。
だけど、昨日のエントリーでも述べたように、自国の憲政要求ですら認めない中国が、日本の第9条を採用することなど、逆立ちしたって有り得ない。
この羅援少将は、中国人民解放軍のなかでも強硬派の論客と言われており、東京を空爆するなど過激な発言で知られている。ただ、時折、理解不能な発言もする。
先日も中国版ツイッターである微博で、「釣魚島近海の海底に中国国旗を立てて主権を主張すべき」 と述べたのだけれど、中国の微博ユーザーからは、「意見があるなら直接島の上に立てろよ」とか、「海底に国旗を立てて誰に見せるんだよ?魚に見せるのか?」とか、批判的なコメントが相次いだという。
これまで、「沖縄は中国の属国」だとか強硬発言をしていたくせに、海底に旗を立てよとは、随分と大人しく聞こえる。そもそも、海底に旗を立てたとて、その時は領有権主張のアピールになるかもしれないけれど、それ以上のものにはなり難い。それよりは、今やっているように、毎日、船を繰り出して尖閣周辺をうろついたほうが余程アピールになる。
ただ、くだんのヨットで尖閣領海に侵入した墨氏は、五星紅旗100枚を海中に撒いて主権をアピールしたというから、こんな突飛な提案でも、それなりに受け取る人がいるという事実は無視できない。なぜなら、こんなことでも数が積み重なれば、これも一つの既成事実として固まってくるから。
6月2日、人民解放軍の戚建国副総参謀長は第12回アジア安全保障会議での質疑で、「釣魚島問題の解決は後の世代に委ねるか」との質問に「中国側が後の世代に解決を委ねる姿勢を堅持することに疑いを抱く必要はない。20年前にトウ小平氏は政治的知恵を発揮して、係争の棚上げを打ち出した。東中国海と南中国海の一部の問題をすぐに完全に解決するすべは現在ない。関係各国には十分な戦略的辛抱強さが必要だ」と述べているけれど、尖閣への領海侵犯を繰り返す一方で、"戦略的辛抱強さ"という以上、これからも、延々と尖閣周辺に艦船を派遣しつづける腹積もりがあると警戒すべきだろうと思う。
中国は、日本の憲法改正への動きに警戒感を示しているけれど、いくら平和ボケの日本人でも、こう毎日毎日領海侵犯されては安全保障について否応なく意識する。日本の憲法改正論議にせよ、集団的自衛権見直しにせよ、その内の何割かは中国自身の行動にその原因があることに疑う余地はない。
この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
> 相手の攻撃着手を確認してからでないと反撃
> できないという縛りがある。
これは憲法「解釈」. 西村眞吾議員によれば,
昔のある内閣が自衛隊を出しても憲法があるから
自らは攻撃できない, だから戦争に行く訳では
ありません, と説明するためにでっち上げた
ものであるらしい.
だから, 取り敢えず自衛隊の判断で攻撃させて,
内閣が事後的に解釈を変更しても法律的には問題ない.
そもそも, 事態が起きた後であれば, 以下に真っ赤な
(嘘の)朝日と言えども「憲法違反だ」とは言えない.
その位の了解は国防大臣と総理大臣にはあると思う.
sdi
宣伝戦だけで考えるなら、わざとおびきこんで上陸させてみるのも手かもしれません。勿論、「わざと」上陸させるのですから準備万端整えておきます。プレハブの入管事務所を設置して福岡入国管理局沖縄支局と沖縄県警から派遣された人員が「日本国沖縄県石垣市登野城2390-94番地魚釣島にようこそ。パスポートはお持ちですね」と手厚く歓迎して差し上げる、というわけです。ただ、今の中共の国内情勢を考えると、ここまで虚仮にされ面子を潰されたら黙って引き下がれるわけもなく、事態は宣伝戦どころではなくなる可能性大ですが。
軍事研究のシミュは私はも読みましたが妥当なところではないかと思いました。ただ、最近は中国軍との衝突についてやたらと威勢のいい啖呵を切る方々を時々目にします。曰く「中国空海軍など鎧袖一触だ」とか「今の中国は武力行使する度胸などない」とか。そ