
安倍政権が集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しに着手した。

8月4日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長の柳井俊二国際海洋法裁判所所長は、NHKの番組に出演し、「コンセンサスはある。年内にも出したい。…集団的自衛権の行使は国際法上認められるし、憲法上も許される。報告書にもある」と集団的自衛権行使を容認する報告書を取りまとめる意向を示した。
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」というのは、実効性のある安全保障の法的基盤を再構築するために、個別具体的な類型に即して、憲法との関係の整理につき研究を行う為に、総理大臣直下に設けられた懇談会のことで、第一次安倍政権時に発足した。
無論、集団的自衛権の憲法解釈についても、ここで議論するのだけれど、その目的は、これまでの政府見解を念頭に置きつつ、日本が何を行い、そして何を行わないのか、という明確な「歯止め」を国民に示す為とされている。
当時、懇談会は5回行われ、報告がだされているのだけれど、そこでは、安全保障及び武力行使に関わる状況を4類型に分け、それぞれについて検討していた。その4類型とは次のとおり。
1)公海における米艦防護懇談会では、1)と2)を自衛権に関する問題、3)と4)を国際的な平和活動に関する問題と位置付け、1)については、これまでの憲法解釈及び現行法の規定では、自衛隊は極めて例外的な場合にしか米艦を防護できないことから、この場合には、集団的自衛権の行使を認める必要があるとしている。
2)弾道ミサイル防衛
3)PKO活動等における自衛隊の武器使用
4)PKO活動等における他国への後方支援
2についても、現在のミサイル防衛システムは、日米間の緊密な連携関係を前提として成り立っていて、日本の防衛だけを切り取ることは不可能となっている。そういった現状の下、アメリカに向かう弾道ミサイルを撃ち落す能力があるにもかかわらず撃ち落さないことは、日米同盟を根幹から揺るがすことになり、避けなければならない。したがって、このケースも集団的自衛権の行使を認める必要があるとしている。
また、3については、国連PKO等の国際的な平和活動への参加は、憲法第9条で禁止されないとすべきであり、自らの部隊の自衛は勿論のこと、同じ活動に参加している他国の部隊への警護及び任務遂行のための武器使用を認めるべきとしている。
最後に、4については、いわうる「後方支援」の定義および「戦闘地域」「非戦闘地域」の区分が曖昧なことから、一意に決めることはできない。ゆえに、他国の活動を後方支援するか否か、どの程度するかという問題は、政策的妥当性の問題として、メリット・デメリットを総合的に検討して決めるべきだとしている。
だけど、当時から早や6年経ち、日本を取り巻く安全保障も更に変わってきている。7月18日のエントリー「憲法改正と集団的自衛権」でも触れているけれど、今回の第2次安倍政権下でも再びこの懇談会が立ち上げられ、再度、議論されている。
今年2月8日に立ち上げられた懇談会は、これまで4回の会合が行われ、前回の類型の1と2についての再検討が行われている。1類型についてはこちらに記者ブリーフ要旨が、2類型についても、こちらにその要旨が公開されている。
その中で、1類型について「攻撃を受けた時には、現場では判断する余裕がないため、どこまで自衛権行使を容認しておくかを事前に検討しておく必要がある。現行法から「何ができるか」を考えてもなかなか解決できない。むしろ、今の状況から「何が必要か」を整理した上で問題を考えていく必要がある。」という見解と、2類型について「これまでの憲法解釈は、自衛権や、武力の行使を制限するという発想であったが、ミサイルが甚大な被害を生じさせることが分かっているのに、なぜミサイルを撃ち落とせないのかという問題がある。これまでのような制限的、否定的発想はよくない。」という見解が目に留まった。
これらの指摘は、言われてみればというか、言われるまでもなく当たり前に決めて置かなくてはならないものの筈で、今頃これが議論されているところに、日本の平和ボケが垣間見える気がする。
本当は、こんな集団的自衛権の憲法解釈云々で揉めるより、憲法を改正してしまったほうが、法的にはよっぽどスッキリする筈なのだけれど、一足飛びにそこまでいくにはまだまだいくつものハードルがある。それこそ先の麻生副総理の発言ではないけれど、この問題についても、マスコミが煽り立てて、喧噪の渦に巻き込んでくることも考えられる。
第3回の懇談会では、「国連憲章及び我が国憲法は、核ミサイルが登場する前にできたものであることを前提に議論するべきである」という、非常に重要な指摘がされていた。ともすればマスコミは、国連憲章を忘れるな、日本国憲法を守れなんて声高に叫ぶけれど、その国連憲章や日本国憲法そのものが、"時代遅れ"になっているかもしれないことを知っておく必要があるだろう。
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この記事へのコメント
ちび・むぎ・みみ・はな
現憲法は違憲であると「見倣して」しまえば,
合憲な憲法を早急に検討しなければならない.
何が合憲かと? 勿論, 明治憲法の元で.
法理論的には, こちらが正しいと思う.
sdi
ただ、国家や民族の生存権、自立権、防衛権、その目的のための交戦権とそれに付随する集団的自衛権は国民という社会集団が持つ本質的な権利である、という考え方もあります。
この考え方からすると、憲法は交戦権、戦力の保持、集団的自衛権を「否定」することは不可能で「規制」することのみ可能、という理屈も成り立ちます。