日中首脳会談と歴史を知らない英米人


日中関係で少し動きが出てきたようです。

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1.日中首脳会談開催に意欲をみせる安倍総理

7月28日、飯島勲内閣官房参与は長野県辰野町での講演で、日中首脳会談実現の可能性を探るため、7月13~16日にかけて、北京を訪れ、習近平国家主席に近い中国の複数の要人と面会したことを明らかにした。飯島氏は「日中首脳会談をどうするかの一点に絞って言いたいことを言わせてもらった。…私個人の考えでは、そう遠くない時期にできる」と、日中首脳会談が行われる見通しを述べた。

そして、その翌日の29日に、外務省の斎木昭隆事務次官は北京入りし、30日迄に、中国の劉振民外務次官、王毅外相との会談を行った。会談で、双方は今後もさまざまなルートを通して、意思疎通を継続して行くことで合意したと伝えられている。

同じく29日、宮城県南三陸町を視察していた安倍総理は記者団に対し「前提条件を付けずにお互いの外相、首脳同士が胸襟を開いて対話を進めていく。外務省の事務方にもその方向で進めるよう指示した。…(中国は)最も重要な2国間関係の一つであり、大切なのは戦略的互恵関係の原点に戻ることだ。互いに関係改善の努力をすべきであり、日本は対話の窓を常に開いている」と述べているから、斎木事務次官の北京派遣は安倍総理の意向を受けたものであることは間違いなく、それはおそらく、2週間前の飯島参与の訪中結果を踏まえてのことと思われる。

飯島参与が、訪中したことを公にした翌日に、斎木事務次官が訪中し、同時に安倍総理が「日本は対話の窓を開けている」とコメントする。もう明らかに示し合わせての行動だと思われる。安倍総理は中国に対して"無条件対話のムード作り"を仕掛けた。

これに対して中国は、全力で拒否するかと思いきや微妙な反応をしている。

7月30日、中国の英字紙チャイナ・デーリーは、「遠くない時期に日中首脳会談が行われる」とした飯島参与の発言について、「飯島氏は政府当局者とは会わなかった。でっちあげ」とし、首脳会談について「日本は中身のないスローガンを振りかざすのではなく、緊張緩和のため具体的な措置を取るべきだ」と批判したのだけれど、会おうが、会わなかろうが、日本からこうした発言をしたことそのものが、既に"会談のムード作り"の一手。

「嘘とでっちあげ」ばかりの中国と違って、国際的信用のある日本であればこそ、こうした政府関係者の一言だけで、世界は日本が対話の為の努力をしているのだな、と受け取ってくれる。日本は、中国に対してまず先手を取った。

そして翌31日には、在日中国大使館の楊宇報道官が「両国間の問題を適切に処理し、関係を改善するための建設的で積極的な態度を歓迎する。…日中関係を改善し、発展させることは両国の根本的な利益に合致している。…重要なことは、日本側がこうした積極的な態度を実際に行動で示すことだ。いまだに日本には消極的な言行があり、両国関係の改善を阻害している」と述べた。

会談したいなら態度で示せ、というあたりは、チャイナ・デーリーと同じ言い分ではあるのだけれど、これまで安倍総理に対して、ともすれば文句しか言ってこなかった中国が「関係を改善するための建設的で積極的な態度を歓迎する」なんて評価するなんてどういう風の吹き回しなのか。おそらく、中国側から日本に対しての路線変更とまではいかないまでも、少し変化が出てきているように思う。




2.日本に擦り寄る中国

独立総合研究所の青山繁治氏は、7月31日のテレビ番組で、この動きについて、日本が中国に歩み寄っているのではなくて、日本企業が中国から次々に撤退しているという経済的問題から、中国の方が日本に擦り寄ってきている、と述べているけれど、筆者も同意見。

筆者は4月10日のエントリー「天地人が逆流する中国」で、中国は、バブル崩壊(天)、海外資本の撤退と環境汚染(地)、覇権拡張主義による周辺国との外交摩擦(人)など、"天地人"が逆流して苦境に立たされているが故に、日本との関係改善を必要としている、と指摘していたけれど、果たして、日本に擦り寄ってきたようだ。

青山繁治氏は、くだんの番組の中で中国が擦り寄ってきている証拠として、2007年の「毒餃子事件」の初公判が開かれたことを取り上げ、政治的意図がある、と指摘している。

今年になって、日中の政府首脳が会談したと言えるのは、1月26日の公明党山口代表と習近平主席との会談と、4月7日の「博鰲アジアフォーラム」での福田康夫元首相と習近平主席との会談くらい。

くだんのエントリーでも指摘しているけれど、これらの会談の前後には、去年の反日暴動の首謀者に対する実刑判決が下されている。これは、青山氏が指摘した、首脳会談への動きに合わせて「毒餃子事件」の初公判が行われたのと同じ構図。

だから、やはり、青山氏のいうように、天地人に見放されつつある中国が日本に擦り寄ってきたという見方が正しいように思う。

青山氏は同じ番組の中で、時間はかかるかもしれないけれど、公平な目で過去の歴史を研究・教育するための大学をインドに設立するという「チャンドラ・ボース・ジャパン大学」構想について述べている。

筆者は「橋下慰安婦発言と維新の傷」のエントリーで、歴史修正をするのであれば、政府見解ではなく、民間レベル、または、戦勝国側から見直しをさせるべきではないかと述べたことがあるけれど、このチャンドラ・ボース・ジャパン大学構想はそれと同じ方向性を持っているといえ、実現すれば、日本のいわゆる「自虐史観」そして、世界の認識を変え得る一助になるように思う。

教育から入るのは、とても迂遠で地味に見えるのだけれど、一番王道な方法でもある。世界は日本人が思っている以上に日本の歴史について知らない。




3.ムーブ・ザ・ゴールポスト

立命館大学客員教授の宮家邦彦氏は、アメリカの議員や外交問題専門家に対して、日中・日韓関係の現状を説明する際に「ムーブ・ザ・ゴールポスト」という"ゲームの途中でルールを変更する不条理さを揶揄する言葉"を使ったそうなのだけれど、その説明ロジックについて、次に引用する。
《前略》

 先方の求めに応じ筆者が日中・日韓関係の現状を説明する際、用いたのがこの英語表現だ。筆者のロジックは次のとおりである。

 ●1945年、日本は「生まれ変わった民主国家」として再出発した。

 ●1965年、長い交渉の末に韓国と基本条約を結び、請求権も含め懸案を処理した。

 ●1995年には村山談話で戦争と植民地支配に対し「心からのおわび」を表明した。

 ●日本国民から集めた償い金を女性たちに届けるべくアジア女性基金まで立ち上げた。

 ●ドイツの謝罪はホロコーストに対するもの。フランスはアルジェリア戦争・植民地化を謝罪しただろうか。

 ●1945年以来70年近く、日本が行った努力はかくも丁寧、かつ真摯(しんし)なものだった。

 ●フットボールで言えば、50ヤードも前進したのに、ゴールポストは逆に遠のいた。

 ●心ある多くの日本国民が中国や韓国との関係改善を望んでいることは間違いない。

 ●同時に、多くの日本国民は、韓国や中国がゴールポストを動かし、日本のゴールを永久に認めないのではないかと心を痛めているのだ。

 手前みそかもしれないが、ある米国政府関係者は「こんな説明を聞いたのは初めてだ」とまで言ってくれた。図らずも今回の出張は、対米情報発信がいかに重要かを再確認する旅となった。

《攻略》
とまぁ、こんな感じ。「日韓基本条約」、「村山談話」、「アジア女性基金」。日本人からみれば、日中・日韓関係を語る上で基本中の基本ともいえるこれらについてさえ、アメリカ政府関係者が「こんな説明を聞いたのは初めてだ」という程度の認識なのであれば、歴史認識をめぐる、中韓のロビー活動にころっと騙されるのもむべからぬことなのかもしれない。

それに、彼らが知らないのは他国のことだけじゃない。自分の国のことについてさえ怪しいところがある。



4.東京大空襲を知らない英米人

2008年、ビッグバンによる宇宙の誕生から現在までの壮大な歴史を、最新の学説を総動員して一冊の本にまとめ、イギリスでベストセラーとなった「137億年の物語(原題:What on earth happened)」の著者でイギリス人のクリストファー・ロイド氏は、先日、日経ビジネスのインタビューで、「東京大空襲なんて初めて知りました」と答えている。その一部について、次に引用する。
---来日した時にブログで「東京大空襲を初めて知って大きなショックだった」と書いておられましたね。

ロイド:そうなんですよ。江戸東京博物館に行って、東京大空襲について初めて知ったんです。1945年3月10日夜、米軍のB29爆撃機が東京に焼夷弾を落として焼きつくし、10万人以上の人をたった一晩のうちに殺戮したという史実です。広島、長崎の原爆投下で当日亡くなったとされる人数にも匹敵するではないですか。本当にショックでした。


#NAME?

ロイド:でも、海外の人間は恐らく誰も知らないんですよ。日本人以外は。これほどのひどい大量殺戮を。信じられない。こんなことってありますか。


#NAME?

ロイド:私がこの史実を知らなかったことを本当に申し訳なく思います。英国にとっても知るべき、西洋の重大な歴史の一部ではないですか。全員が知るべきです。特に、『137億年の物語』みたいな、世界中の歴史と科学を扱う本を書いた私のような人間は、知っているべき史実でした。

インタビュアーも、アメリカ留学時に同級生だったアメリカ人外交官らが東京大空襲を学校で全く習わなかったと述べている。これが現実。

彼らの皆がみんな、そうだとは言わないけれど、アメリカの外交官クラスでさえ「東京大空襲」を知らないとなると事は深刻。仮にも、一国の外交官が、他国に対してこの程度の認識というか関心しかないのであれば、"従軍慰安婦"にしろ、"南京大虐殺"にしろ、その辺から適当な写真をでっちあげて、これが証拠だ、とちらっと見せてやれば、それだけで信じてしまうかもしれないという危惧を覚える。

その意味でも、きちんとしたインフォメーションは必要だし、青山繁治氏が提案し、国が進めようとしている「チャンドラ・ボース・ジャパン大学」構想は大きな意味を持ってくると思う。




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この記事へのコメント

  • 白なまず

    今日のお題とは無関係ですが、消費税増税見送りで日本国債バブル破裂で日本の信用が失墜(財政破綻)すると言うシナリオで仕掛けてくるようです。国債が売られて金利が上昇しても日本株が買われると思いますが、、、
    有りもしない危機を叫ぶ藤巻健史参議院議員は風説の流布にならないとギリギリの発言と思っているのでしょうが、影響力のある議員の発言で銀行などは損する可能性があるので訴えても良いかもしれません。前職の投資アドバイザーなら問題なくても、議員に成ったのなら駄目だと思います。

    【藤巻氏:パンパンに膨れ上がった国債バブル、消費増税見送りで破裂も 】
    http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MQVH3B6JIJVX01.html
    2015年08月10日 15:22
  • sdi

    先日、某講演会で「中華人民共和国の外交はトライアンドエラーの繰り返し」という話を聞きました。
    対ASEANで合従策に対する連衡策よろしく二国間交渉で分断して各個撃破しようと失敗すると、ASEANを交渉相手として認める動きをみせたりする、といった例が挙げられてていました。
    日本に対しても一連の強硬姿勢の行き詰まりと国内外の情勢の予期せぬ変化で、トライする方向を変えてきたのではないでしょうか?_さて、どうしたもんでしょう。まあ、某半島よりはマシな交渉相手だろうとは思いますが。
    2015年08月10日 15:22

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