昨日のエントリーの続きです。
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9月27日、安倍総理は、国連総会に出席し、一般討論演説を行った。
演説の全文はこちらで確認できるけれど、その要旨は次のとおり。
安倍首相の国連演説要旨 2013.9.27とまぁ、内容自体は、昨日のエントリーで取り上げた、ハドソン研究所での演説と、ニューヨーク証券取引所でのスピーチを踏まえたもので、特に目新しいものが出たわけじゃない。「積極的平和主義」については、ハドソン研究所での演説で触れているし、「女性の活躍」については、ニューヨーク証券取引所でのスピーチで触れている。強いて言えば、シリア問題や国連改革について述べたことくらいだけれど、これは、昨今の世界情勢を考えれば、むしろ述べてしかるべき内容であって、特にどうこういわれる類のものじゃない。
【シリア問題】
シリアの化学兵器廃棄に向けた国際社会の努力にできる限り協力する。国際社会と連携し難民に手を差し伸べる。シリアと周辺国への人道支援として新たに6千万ドル相当を追加し、直ちに実施する。
【積極的平和主義】
私の責務はまず日本経済を強く立て直し、日本を世界に対して善をなす・頼れる「力」にすることだ。日本をこれまで以上に平和と安定の力としていくことを約束し、新たに「積極的平和主義」の旗を掲げる。国連平和維持活動(PKO)をはじめ、国連の集団安全保障措置に対し、より一層積極的な参加ができるようにする。
【北朝鮮問題】
北朝鮮の核・ミサイル開発は許されない。北朝鮮は国際社会の一致した声に耳を傾け、己の行動を改めて具体的一歩を踏み出すべきだ。北朝鮮には、拉致した日本国民を残らず返してもらう。自分の政権で完全に解決する決意で臨む。拉致問題の解決なしに日朝の国交正常化はあり得ない。
【国連改革】
安全保障理事会の現状が、70年前の現実を映す姿のまま凍結されているのははなはだ遺憾だ。わが国は常任理事国となる意欲を変わらず持っている。
【女性の活躍】
日本の成長の因となり果となるのが、女性の力の活用だ。「女性が輝く社会をつくる」と訴え、国内の仕組みを変えようと取り組んでいる。憤激すべきは国外で武力紛争の下、女性に対する性的暴力がやまない現実があることだ。(1)女性の社会進出・能力開発(2)女性に対する保健医療分野の取り組み(3)危険にさらされる女性の権利・身体対策-の3本柱を立て、今後3年間で30億ドルを超す政府開発援助(ODA)を実施する。
筆者は、今回の安倍総理の演説のポイントは、「日本経済を、強く建て直すこと、そのうえで、日本を、世界に対して善をなす・頼れる『力』とすることです」と述べたことに集約されるのではないかと思う。つまり、「積極的平和主義」の表明。
まぁ、「積極的平和主義」という単語があるかどうかは知らないけれど、言わんとする理念は理解できる。「積極的平和主義」の表明は、日本がこれまで以上に平和のために国際社会に貢献する、という意味であり、当然、集団的自衛権の行使や憲法改正までも視野にいれているものと思われる。その意味では、日本はこれから変わるという意思表明であり、それを世界に受け入れて貰うための"仕込み"の意味合いを持った演説ではないかと思う。
この"仕込み"の釣り針に、さっそく中国が引っ掛かった。9月26日、中国外務省の洪磊報道官は定例記者会見で、「日本に対し、歴史を戒めとして、歴史の教訓をくみ取り、本当に切実に相互信頼、平和と安定に役立つことを為すよう求める。…日本側は自らの軍備拡充、軍事政策を調整する口実のために、人為的に緊張を誇張し、対立を作り出すべきではない。…日本の指導者は真摯に国際社会の関心と正義の呼び声に向き合い、歴史を正視し、反省する態度を表明し、実際の行動で国際社会の信頼を得るべきだ」と歴史問題を持ち出し批判した。
だけど、中国はここ数年「平和的台頭」と政策として掲げ、海洋進出ならびに周辺国への圧力を強めている。この中国の"台頭"を世界は注視しているのが現実で、こちらの2011年の人民日報の記事では、「中国はどのように台頭するのか?」「中国は平和的台頭を実現できるのか?」「中国は台頭した後に何をするのか?」といった、海外からの質問に対する反論を載せている。
その反論の一つに「中国は現行の国際体制の転覆を謀らない」としているのだけれど、やっていることは、年10%の軍事費の増大であり、南シナ海でのフィリピンとの対立や尖閣での日本との対立。これで、「国際体制の転覆を謀らない」といわれても今一つ説得力に欠ける。
それ以前に、中国が日本に対して、「積極的平和主義は軍備拡充の口実」などど、どの口がいうのか。自分達のほうがよっぽど軍拡をしているくせによく言えたもの。
まぁ、これについては、既に安倍総理が、ハドソン研究所での演説でジョークを交えて「日本はすぐそばの隣国に、軍事支出が少なくとも日本の2倍で、米国に次いで世界第2位、という国があります。この国の軍事支出の伸びを見ますと、もともと極めて透明性がないのですが、毎年10%以上の伸びを、1989年以来、20年以上続けてきています。さてそれで、私の政府が防衛予算をいくら増額したかというと、たったの0.8%に過ぎないのです。従って、もし皆様が私を、右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞそうお呼びいただきたいものであります。」と思いっきり釘を刺している。
だから、洪磊報道官の批判はかなり"間抜け"に聞こえてしまう。
今回の安倍総理の「積極的平和主義」という理念の表明によって、同じく演説で触れた「シリアへの人道支援」や「北朝鮮問題」、「女性の活躍」などは、この「積極的平和主義」の実践例として、世界は受け止めるだろう。これらの実践例にはいずれも「人権を守る」という大義がついているから、世界もこれを拒否はしないと思われる。
その意味において、日本の「積極的平和主義」という"仕込み"が成功する確率は高い。
また、演説では、「女性へ活躍」について述べる中で、「憤激すべきは、21世紀の今なお、武力紛争のもと、女性に対する性的暴力がやまない現実です。犯罪を予防し、不幸にも被害を受けた人たちを、物心両面で支えるため、我が国は、努力を惜しみません。」という一文を添えているけれど、これは、例の従軍慰安婦問題に対する牽制にもなっている。
従軍慰安婦などなかったという説は、残念ながら、世界では公に受け入れられてはいないけれど、戦後の日本が、その賠償を済ませるのみならず、アジア女性基金を設立して「被害を受けた人たちを、物心両面で支える」努力をしてきたことは事実。その上で、現在進行形で問題となっている、女性の搾取に対して支援すると表明している。
日本は戦後そうしてきた実績があり、これからもそうしていくという意思の表明になっているから、これも世界は好意的に受け止めるだろう。これに対して、韓国がいつものように70年前の話を延々と訴えたら、多少の同情を集めることはあったとしても、「では貴方達は、世界で起こっている同様の問題についてどう思っているのか。何をしてくれるのか」と逆に質問を受けるのではないか。
従軍慰安婦という言葉を出さずに、従軍慰安婦問題を牽制する、上手い演説ではないかと思う。
今回のニューヨークでの安倍総理の一連の演説において、一貫して述べていることがある。それは、まず、日本経済を立て直し、その次に世界に対する貢献を行うと、国内の景気回復を最優先においていること。安全保障の問題に多くの時間を割いたハドソン研究所での演説でさえも、安倍総理は「私にとって、第一の、何にも優先する課題とは、経済の再建にはほかなりません」と言い切っている。
ここまで、言うからには、安倍総理は本気で景気の立て直しを考えていることは間違いないと思われるのだけれど、そうであるがゆえに、筆者は消費税増税は先送りして欲しいと思うし、もしかしたら、と一縷の望みを抱いている。
安倍総理の種々の政策は「アベノミクス」の土台の上に成り立っている。これが崩れることは、政権の崩壊にも繋がりかねない。正念場を迎えた安倍総理。いかなる判断を下すのか。
この記事へのコメント
白なまず
sdi
彼らは「我々が欲しているのは転覆ではなく修正だ」というでしょう。「アメリカの覇権(特に海洋)に取って代わるのではなく、アメリカの覇権を認めつつその下で自分たちの取り分を増やしたい」と、対外的に自分たちの行動理由を説明しているように見えます。彼らの欲する取り分に含まれた国はたまったもんじゃありませんがね。
WW1前夜のドイツの立場と似ています。彼らはイギリス相手に建艦競争をしかけましたが、イギリスの海洋覇権に取って代わることまで考えていたとは思えません。ドイツ本国とドイツの海岸拠点を結ぶシーレーンはイギリスが世界中に張り巡らせたシーレーンに便乗していました。自分たちで独自のシーレレーンを築くことはしませんでしたし、なにより大海艦隊自身が遠出できない沿岸艦隊でした。そういえば、中国のアナリストが「今の日本は第1次大戦後のドイツに似ている」なんていってましたが「おいおい、そりゃ逆だろう」と突っ込みますね、私は。