今日は、この話題です。

政府は国籍不明の無人機について、領空に近づいた際の対処方法の検討を始めた。対処方法は、防衛省と外務省を中心に策定し、撃墜任務を盛り込むことも検討するという。
領空侵犯とは、他国の航空機・飛行物体が当該国の許可を得ずに、領空に侵入・通過する国際法上の不法行為のことなのだけれど、その歴史は意外と浅い。
19世紀末から20世紀の初頭、ヨーロッパで気球が開発されるまでは、領土・領海の上空に国家主権が及ぶかどうかは全く問題にはされなかった。問題視されるようになったのは、気球が軍事偵察に利用され、誤って他国の領域に漂着する事例が発生してから。
ヨーロッパ諸国は、1889年から1910年にかけて、パリで航空法会議を数度開催し、この問題について協議したのだけれど、領空を認める(領空主権)かどうかについての結論は得られなかった。
だけど、そうこうするうちに第一次世界大戦が勃発。大戦中、中立国は、中立維持の必要上、交戦国の航空機の自国領域上空への侵入を一切禁止。これに違反した航空機は撃墜、或いは強制着陸をさせ、航空機を没収したのち、搭乗員を逮捕拘禁する措置をとった。
こうしたのことから、領空主権は、まず慣習法として成立した。そして、1919年に、「民間航空条約」がパリで成立し、その第1条で『国家の領域上空の排他的主権』が確認された。この考えは1944年のシカゴ条約(国際民間航空条約)にも受け継がれている。
だけど、国際法で領空主権があるといっても、その国の国内法に、それを認める法的根拠がなければ、領空主権を守ったものに対して、逆に国内法で処分されることが起こり得る。特に日本においては。
一般に、世界の軍は、禁止規定(ネガティブリスト)で動くようになっている。これは、新たな事態が起きても即時に対応することが出来るようにするためで、禁止事項以外は何でも実施できる。
だけど、自衛隊は、国内法に任務を規定しないと動けないことになっている(ポジティブリスト)。それゆえ、自衛隊は新たな事態に対応することが出来ない。以前、イラクで奥克之大使以下2名の外交官が殺害されたことがあったけれど、このときも自衛隊法に大使館警備という任務が規定されていなかったため、自衛隊の部隊をイラク大使館の警備に派遣することができなかった。
なぜ、自衛隊がポジティブリストで運用されているかというと、防衛省を含めて各省庁の権限を発生させる行政法の全てが、ポジティブリストで書かれているから。自衛隊法や防衛省設置法は行政法だから、それを根拠とする自衛隊の各種規則も、またポジティブリストとなっている。
では、その自衛隊法では、領空侵犯についてはどう規定されているのかというと、自衛隊法84条に「領空侵犯に対する措置」が定められている。次に引用する。
(領空侵犯に対する措置)と、このように、領空侵犯されても、着陸させるか、領空から退去させるための必要な処置としか書いてない。果たして、"必要な措置"の中に武器使用は含まれているのか。
第84条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和27年法律第231号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。
これについては、今年2月12日に、民主党の大野元裕参議院議員が、「領空侵犯とその対処に関する質問主意書」を提出し、政府見解を質している。その質問と政府回答については次のとおり。
領空侵犯とその対処に関する質問主意書と、このように、自衛隊の武器使用の法的根拠について、質問1で問うているのだけれど、政府はそれに対して、「正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許される」と回答している。
報道によると、一月十九日午前、尖閣諸島北側の上空において、米国の早期空中警戒管制機(AWACS)に、上海外郭地域の空港からスクランブル(他国航空機の領空侵犯などによる緊急発進)した中国空軍の南京軍区空軍部隊所属の武器が搭載されていた戦闘機「殲-10」二機が接近してきた。これに対し、AWACSを護衛し、中国機を退かせるために航空自衛隊那覇基地から戦闘機が次々と緊急発進した、とされている。
そこで、領空侵犯に対する日本政府の対処及びその法的根拠について以下質問する。
一 自衛隊法第八十四条の定める領空侵犯措置に関する自衛隊の任務遂行において、領空侵犯機が警告に応じない場合の武器使用の是非及びその法的根拠を示されたい。
政府回答:お尋ねの「武器使用」については、政府としては、従来から、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八十四条の規定に基づく領空侵犯に対する措置は、国際法上認められる範囲内で行われるものであり、また、その際の武器の使用は、同条に規定する「必要な措置」として、正当防衛又は緊急避難の要件に該当する場合にのみ許されると考えている。
二 領空侵犯措置における警告射撃は武器使用にあたるのか、警告のための信号にあたるのか明らかにされたい。
政府回答:お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。
三 一月十九日の中国機に対するスクランブルは、防空識別圏のどの地域に侵入した際に命令されたのか明らかにされたい。併せて、スクランブルの概要について示されたい。
政府回答:先の答弁書(平成二十五年二月十九日内閣参質一八三第二一号)五についてでお答えしたとおり、航空自衛隊の航空機による緊急発進の実施状況については年度の四半期ごとに公表することとしており、個別の緊急発進について、その有無を含め、逐一お答えすることは差し控えたい。
四 一月十九日に米軍所属AWACSより、中国機の接近等に際し、応援の要請があったのか明らかにされたい。
政府回答:先の答弁書(平成二十五年二月十九日内閣参質一八三第二一号)五についてでお答えしたとおり、航空自衛隊の航空機による緊急発進の実施状況については年度の四半期ごとに公表することとしており、個別の緊急発進について、その有無を含め、逐一お答えすることは差し控えたい。
五 一般論として、我が国領空以外の空域において米国機に対し第三国機が脅威を及ぼし、自衛隊に応援要請がある場合、いかなる対処を行うのか明らかにされたい。併せて、その場合の法的根拠についても示されたい。
政府回答:お尋ねの「我が国領空以外の空域において米国機に対し第三国機が脅威を及ぼし、自衛隊に応援要請がある場合」のような状況があった場合における我が国の対応については、具体的な状況に照らして判断すべきであり、一概にお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、我が国としては、関係する国内法令及び国際法に照らし、適切に対応することとなる。
六 米国機に対して第三国機が脅威を及ぼし、自衛隊がこの脅威に対処する場合、国連憲章第五十一条が定める集団的自衛権の行使例として国連に報告する必要があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
政府回答:お尋ねの「我が国領空以外の空域において米国機に対し第三国機が脅威を及ぼし、自衛隊に応援要請がある場合」のような状況があった場合における我が国の対応については、具体的な状況に照らして判断すべきであり、一概にお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、我が国としては、関係する国内法令及び国際法に照らし、適切に対応することとなる。
だけど、肝心の自衛隊法には、"正当防衛"又は"緊急避難"の文言すらない。
そこで登場したのが、部隊行動基準(ROE)。これは、自衛隊が、武力攻撃や緊急事態に直面した際に、法令を順守しながら状況に応じて的確に対処し任務を遂行できるようにするため、政策的判断により示された基準のことで、2000年12月に制定された。現在は、防衛省が訓令に基づいて作成・改定している。
部隊行動基準(ROE)は、2006年に改定され、自衛隊法第95条に定められた「武器等の防護のための武器の使用」を根拠として、武器の使用を明確に任務とすることを決定している。
今回の無人機に対する対処方針にしても、自衛隊の運用がポジティブリストに拠っている以上、その基準を明記しておく必要がある。報道によると、対処方針検討に当たっては、部隊行動基準(ROE)に反映させることも視野にいれるようだけれど、当然の措置だと思われる。速やかな対処を求む。
この記事へのコメント
sdi
正直いって、無人機による防空識別圏侵犯というのは考え付きませんでした。やられましたね。そのうち、本当に領空侵犯するかもしれません。
沖縄本島からスクランブルかけてもおそらく24時間尖閣上空にはりつくのは不可能です。沖縄からスクランブルをかけてもF-15が付く頃にはターゲットは空域から離脱しているでしょう。下地島に進出すれば、尖閣上空をカバーできる時間は増えますが24時間は無理ですね。空中給油機を使っても同じてす。
領空に侵入される前に対応して追っ払うのが一番無難なのですが、こちらも無人機で24時間尖閣上空の領空パトロール始めますかね。下地島空港を拠点にして、グローバルホークでなくMQ-9 リーパーで。スティンガーミサイルを運用可能ですので対空戦闘は不可能じゃありません。米国が売ってるくれるかどうかわかりませんがね。
ちび・むぎ・みみ・はな
撃墜することが, 引き続いて起きる領空侵犯を防ぐ
ために「必要な処置」である.
内閣法政局は必要な処置と認め難いと言うかも知れないが,
法律はあからさまに禁止されていない限りは何とでも
解釈できるのであり, 自分の責任を回避する
ためのご宣託を法律に求める官僚に合わせる必要はない.
西村眞吾国会議員が言うように, 米国では大統領が
軍隊を指揮する権限を持ち, かつ, 開戦することが
禁止されていないから自由に軍隊を動かせる.
そして, 首相には必要な時に自衛隊を出動させる
ための法律上の力が与えられているから, 基本的には
米国大統領と法律上は同等の力を持つ.
安全保障の問題に官僚の判断を求めてはならない.
官僚は知識を提供し, 決定に従うもので,
決定するものではない. 何で内閣法政局を気に
せねばならないのか.
白なまず
【侵入者は許さない。猫の戦争?War of cat? 】
http://www.youtube.com/watch?v=xdypX4-HYJ8
【犬を投げ倒す猫(judo cat)】
http://www.youtube.com/watch?v=CsSwT69stvQ