地下水を脇に逸らす凍土壁と汚染水コントロール

 
昨日のエントリーの続きです。
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1.地下水を脇に逸らす「凍土壁」

9月11日、経済産業省は福島第1原発の汚染水問題で、原子炉周辺への地下水の流入を防ぐ「凍土壁」と、汚染水が含む放射性物質を減らす除去設備を開発する事業者をそれぞれ公募すると発表した。月内にも事業者を選定する予定。

政府は、汚染水問題に対して、2013年度予算の予備費から205億円を投入。凍土壁に約135億円、除去設備に約70億円の補助金を開発を受注した事業者に交付するという。

ここで出ている「凍土壁」とは、その名の通り、凍らせた土のこと。凍結管を地盤中に一定の間隔で設置して、管の中に-40度以下の冷却材を循環させ、凍結管周囲の土を凍らせることで凍土の壁を造成する工法。

凍土壁にはいくつかの優れた特徴があり、それは次のとおり。
・遮水機能が非常に高く透水係数0。しかも、凍土が融けないかぎり完全な遮水機能を維持。
・地震時にクラックが入っても直ちに再固結する自己修復性を持つ。凍土は一旦凍れば、冷却用電源が喪失しても数か月から1年程度は完全融解しないため、遮水性が維持される。
・施工時、汚染土壌、汚染水の発生量が微少で、撤去時も凍土を融解させるだけ。廃材は凍結管だけで、撤去が容易。
・埋設物設置個所であっても施工が可能。また埋設物内の汚染水の漏洩を防止しながら削孔することもできる。
・施工中・施工後の地下水管理が可能、建屋内滞留水の漏出防止も期待できる
と、凍土壁は高い遮水性能を持っている。透水係数とは土中の水の流れやすさを示すもので、値が大きいほど水が流れやすいことを示すのだけれど、この値が0ということは、全く水を通さないということ。因みに、粘土の遮水係数は10-9~10-7cm/sec程度、綺麗な砂が10-3cm/sec程度。

凍土壁による、遮水壁の施工案については、今年の4月に鹿島建設が提案しているのだけれど、それによると、凍土壁は、福島第一原発の1~4号機をグルリと囲むように施工するとしている。総延長は約1400m、凍らせる土の量は約7万立方メートル。施工期間は、およそ1年。

凍土壁の造成は、全ての凍結管の建込みが完了してから、それらを全部同時に冷却することで、一気に凍土壁造成を開始、短期間に閉合させる計画のようだ。

鹿島建設は凍土壁によって、地下水流入は、抜本的に解決できるとしている。

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2.原子力委員会の提言を放置した民主党政権

今回の汚染水に限らず、福島第一原発の放射性物質の処理については、早くから提言が成されていた。内閣府の原子力委員会の専門部会は、2011年12月の段階で、漏洩防止や安全な保管・処理のために「東京電力福島第一原発に関する中長期的措置に関する検討結果」を取りまとめ、提出している。

報告書は、1979年のスリーマイル島原発事故の対応を分析し、当時のアメリカ政府が事故処理を電力会社任せにせず、エネルギー省や原子力規制委員会などに責任を分担させる体制を作ったことを挙げ、汚染水を含む放射性廃棄物の長期かつ安全な管理・処理につながったと評価。福島第一原発の事故についても、同様に国の国の主体的関与を求めている。

報告書の提言は次のとおり。
・国は、放射性廃棄物の処理・処分も含め廃止措置が完了するまでの中長期措置全体が安全かつ確実に推進され、完遂されることについては責任を有するとの認識の下、中長期措置を確実に遂行していくために必要となる人材、費用、資材等の確保に万全を図るとともに、公衆および作業の安全確保に向けた制度や体制を整備し、事業者を適切に監督・指導していくべきである。また中長期措置の取組の状況、見通しを継続して地元自治体はもとより、国民に対して分りやすく説明を行うべきである。

・事業者は、多くの前例のない取組を含む中長期措置を安全かつ迅速に進めていくために、放射線防護を含む万全な体制を整備するべきである。また、そうした取組に着手する前の早い段階から安全規制機関と十分な協議を行って取組を計画するとともに、合理的な規制判断に資する時宜を得た説明を行っていくべきである。

・国は、保障措置についてIAEA 等の関係機関と十分調整し、進めるべきである。

・国は、中長期措置全体の取組が有識者、周辺の地元自治体、一般の視点から見て安全で妥当なものであり続けるために、透明性を確保することが重要であり、第三者で構成される機関を設置し、取組状況を評価する仕組みを構築するべきである。また、第三者機関は、公聴会等を通じて立地地域住民の意見を評価に反映させるべきである。

・中長期措置には、燃料デブリや放射性廃棄物の性状分析や処理試験等が様々な局面で必要になると考えられる。これらのニーズが発生するたびに、分析施設などへの試料の構外輸送を実施することは、現場作業の遅延に繋がる可能性が高いことから、福島第一原子力発電所の近傍にこれらの実施に必要な設備を設置するべきである。

・中長期措置には遠隔装置の活用も含めて多くの前例のない取組が含まれることから、現場を模擬したモックアップ施設において取組の妥当性を検証することが効果的である。そこで、現場付近にそうした施設を整備することが望ましい。

・中長期措置の実施に際し、事故の原因や中長期措置の技術的な内容、現場の調査結果など詳細に記録を残して広く公開し、今後の原子力安全の確保のために利用できるようにするべきである。

・中長期措置の実施とその研究開発にあたっては、将来の地域発展の核となるような産業の育成、雇用の創出、人材育成に貢献することを念頭に取り組むこと。

ところが、当時の民主党政権は「事故処理は東電が主体だった」、「政府が提言通りしなければならない理由はない」とこれを放置したという。

9月13日、民主党は郡山市で党会合を行っているのだけれど、その中で、増子輝彦副代表(原発・復興特命担当)が汚染水問題について、東電の山下フェローに「安倍首相が『ちゃんとコントロールされていて全く問題ない』と説明した。その通りなのか」「だから今の状態でコントロールされていないとはっきり言ってちょうだい」などと激しく詰め寄った結果、山下フェローから「想定していることはコントロールできているが、想定していないことが起きている。それは事実で、申し訳ない」との主旨の発言を引き出している。

だけど、汚染水漏洩がコントロールできている、できていない以前に、事故当時から民主党政権がしっかりと責任を持って関与していれば、ここまで酷くはならなかっただろうとの指摘もある。これらの発言を聞く限り、民主党は、自分達がその当事者であった自覚に欠けているのではないかという疑念が拭えない。



3.海外は事実をみて判断している

それに対して、汚染水問題については、まだ海外のほうが冷静かもしれない。

アメリカのウォールストリートジャーナルは、9月12日の記事で、オックスフォード大学のウェード・アリソン教授のコメントを紹介し、事故直後に福島第1原発から直接流れ出た汚染地下水を12ガロン(約45リットル)飲んだとしても、CTスキャンを1度受けた程度の被曝線量にしかならない、としている。
※尤もこの記事では、12ガロンの水を摂取してから、体外に排出されるまでの全期間の被曝量が数十秒程度のCTスキャン一回分の被曝線量と等価という意味なのかどうかまでは不明。

また、アメリカ原子力規制委員会の元幹部で、スリーマイル島原発事故の事故処理に携わった経験を持つレイク・バレット氏は「大量の汚染水があるにもかかわらず、きちんと封じ込めている。住民の健康や環境に影響はない」と指摘し、汚染レベルが十分に低下し国民の信頼が回復したら、海に放出する準備に着手すべきだと述べている。

更に、9月16日、日本政府は、福島第1原発の汚染水対策などの説明会を開催しているのだけれど、会場では、他国の専門家から「事故から2年半以上たつ。もっと早く対策が取れなかったのか」とか、「長期間、汚染水をタンクに貯蔵しているだけだ。なぜ、いまだに最終的な解決策が見つかっていないのか」といった批判の声があったそうだ。だけど、原子力委員会の提言を放置した民主党にも、その責任の一端はあるだろう。

その意味では、海外は、表に出ている事実を基にして評価ないしは批判しているのであって、安倍総理ではないけれど、海外は「ヘッドラインではなく、事実を見て判断している」と言っていいと思われる。

民主党は「状況はコントロールされている」とした安倍総理の発言を追及する方針だそうだけれど、たとえ追及したとしても、先の報告書を放置したことを安倍総理に指摘され、ブーメラン自爆する結果に終わるだけのような気がするのだけれど、汚染水問題を含めて、きちんとコントロールしなければならないのは間違いない。着実な処理を望む。

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この記事へのコメント

  • siodgp

    汚染水問題を解決できる手段をもらっておきながら、政府は未だ握りつぶしている。

    ttp://sunshine849.blog.fc2.com/

    ttp://www.onpa.tv/2013/05/13/789-3

    汚染水問題を根本的に解決したいなら、これらを公表する以外にはないでしょう。
    2015年08月10日 15:22

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