イプシロン打ち上げ成功


今日は、もうこの話題ですね。

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9月14日午後、新型国産ロケット・イプシロンが、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、高度1151キロで、予定通り、搭載した衛星を切り離し、見事打ち上げは成功した。

打ち上げた、人工衛星は太陽電池パネルが正常に開いていることが確認され、衛星の愛称を、鹿児島県肝付町にある岬の「火崎(ひさき)」と、観測対象の惑星が「太陽(ひ)の先」であることから「ひさき」と命名された。

イプシロンロケットについては、去年の1月12日のエントリー「偵察衛星とイプシロンロケット」で取り上げたことがあるけれど、「はやぶさ」を打ち上げたM-Vロケットの後継となる固体燃料式ロケット。

当初イプシロンは、先月27日に打ち上げられる予定だったのだけれど、打ち上げ直前に、機体の異常を示すデータが誤って検知されたため、9月14日まで延期されていた。

イプシロンは発射20秒前に地上の管制コンピューター(LCS)がロケットのコンピューター(OBC)に起動信号を出すのだけれど、LCSはその1秒後にOBCから届く姿勢データに異常がないかを判断するようになっていた。ところが、LCSからOBCへ送る肝心の信号に、イプシロンに搭載された機体の状況を監視する人工知能「ROSE」の中を通過するとき等で0.07秒の遅延が発生していた。

にも関わらず、LCSのソフトはその遅延が考慮されておらず、データが届く前に「異常」と判断し、自動停止したのが発射中止となった原因のようだ。

JAXAによると、この0.07秒の遅延は、先月20、21日のリハーサルでも起きていたのだけれど、運用スタッフ側に「遅延がある」ということ自体を思いつく人がおらず、気づけなかったという。

ただ、イプシロンは、自動監視による打ち上げという新技術を採用し、監視を常に厳しめにやるという思想を徹底していた。ゆえに、0.07秒のズレをも許さずに、自動停止したともいえ、その意味では、人間が見つけられないミスをしっかりチェックしたともいえる。だから、先月の発射自動停止は、却ってイプシロンの発射システムの優秀性を証明したことになると言えるかもしれない。

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今回のイプシロンの打ち上げで、従来のM-Vロケットから大きく変わった点に、打ち上げ方式がある。M-Vが海に向かって斜めに打ち上げる傾斜発射であったのに対して、イプシロンは真上に打ち上げる垂直発射に変更されている。

従来のM-Vが斜めに発射していたのには2つの理由がある。一つは姿勢制御で、もう一つが安全性の問題。

人工衛星を打ち上げるとき、単純にロケットを真っ直ぐ垂直に打ち上げただけでは駄目で、何らかの方法で機体を制御して「地表に対して水平」に向きを変えてやらないと、地球の周りをぐるぐる回る人工衛星の軌道に投入させることはできない。

その為の姿勢制御の方式のひとつに「重力ターン」というのがある。この方法は至って簡単で、ロケットの打ち上げ後、しばらくしてエンジンを停止すると、地球の重力によって少しずつ軌道が下がる。そして、ロケットの推進方向が丁度、地球の表面と平行になった時に、エンジンを再点火して、衛星軌道に投入する、というもの。

この時、斜めに発射していれば、最初から地面に対して少し角度がついているから、重力ターンによる制御がしやすいというのがメリットとしてある。

次に、安全性についてだけれど、第一弾ロケットが異常燃焼して落下した場合、垂直に発射すると、被害がでる懸念があった。そこで、海に向けてン斜めに発射してやれば、もしもの場合では被害を最小限で抑えることができるというのは、安全面からみた斜め発射の理由。

尤も、今では、軌道投入においては、「重力ターン」方式は使われず、ロケット自身を姿勢制御することで行われているから、斜め発射する主な理由は、安全性の問題が主だった。これに対して、イプシロンは、1段目に実績のあるH2Aの技術を使い、非常に高い信頼性が確保できたこともあり、垂直発射に変更されている。

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また、イプシロンでは、発射台そのものにも手が加えられている。

通常、固体ロケットは液体ロケットに比べて、大きな推力を持っているのだけれど、その反面、打ち上げ時の音の衝撃が大きくなり、ロケットに搭載した衛星にそれなりに振動が伝わってしまう。振動が大きくなりすぎてしまうと、肝心の衛星を壊してしまいかねない。

そこで、イプシロンは、発射台の位置を12mほどかさ上げして高くして、地面から離すことで、反射してくる音を小さくし、また、発射台の下に滑り台のようなものを作って、燃焼ガスが地面と平行に流れていくように変更することで衝撃を本体に伝わりにくくしている。これらの工夫で、イプシロンの音響衝撃はH2Aと同等以下になるという。

イプシロンの開発は2段階の構想になっている。第1段階は初号機を開発し、2017年度には第2段階である低コスト版のイプシロンを開発するという。今回の打ち上げは第1段階にあたる。

イプシロンは、地球低軌道に1.2トンの衛星を打ち上げる能力があり、M-Vの1.8トンに比べて、3分の2の打ち上げ重量になるものの、打ち上げコストは75億円から38億円に半減。コストパフォーマンス自体は、イプシロンが上。開発チームによると、この打ち上げコストを第2段階で30億円以下にしたいとしている。

イプシロンクラスのロケットで、打ち上げコスト30億円というのは、世界を相手に価格競争力がでてくる値段であり、これを切ることをJAXAは目標においている。

ただ、それでも、世界にはロシアの「ドニエプル」のような廃棄ミサイルを転用したロケットや、欧州の「ベガ」のように政府支援があるロケットもあり、コストではなく、打ち上げ"価格"でこられると厳しいという。

今回は打ち上げ成功について、安倍総理は「今回の打上げ成功が、我が国の宇宙輸送システムにおける自律性の確保、宇宙開発利用のより一層の進展、さらには将来の経済成長の一助につながることを期待します」とコメントを寄せているけれど、政府としても中長期的な戦略をもって、宇宙開発支援に力をいれていくべきだろうと思う。




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この記事へのコメント

  • almanos

    イプシロンの量産でコストを下げれば、太刀打ちできるのでは等と思ってしまいますが無理ですかね? 日本なら一度に百機作ってとかできそう。ロケットガールでの新燃料での打ち上げに主人公がスト起こした時みたいに。
     後は、アニメネタですが日本で「ガルガンチュア」を造って衛星打ち上げをやれれば面白いのにと思います。巨大な洋上プラットフォームで理想を言えば静止軌道まで打ち上げられる資材専用のマスドライバーを。日本で作るんですから「衛星軌道マスドライバーヤマト」でも良いんですが。核廃棄物の処理にも使えそうですし。水星の内側で軌道を描く様に打ち出してしまえば、太陽に捕まった状態で天文学的な時間で処理できるし、核廃棄物専用のをもう一気作っても何とかなるでしょうし。原子力村と宇宙村が共同で取り組んだら案外早く実現できそうに思えますが。
    2015年08月10日 15:22
  • 白なまず

    金星と火星は固有磁場を持たない惑星で、固有磁場が無いせいで金星と火星の大気が太陽風で宇宙空間へ放出したと言う。また、ガス型の惑星である木星の磁場は強烈でそのおかげでガスが飛ばされる事なく木星を維持している。磁場の発生源は惑星ごとに仕組みが違うようで分からない事だらけのようであるが、惑星の大気を固有磁場が維持する事は変わらないので、地球の気象現象は宇宙由来、つまり太陽由来の影響下にあると言っても良い。だから私が繰り返し言っているオカルトの様な太陽活動と地震の関係や異常気象との関係は否定できないのが現在の科学の限界である。それなら惑星を詳しく観測すれば相互作用の有無くらいは科学的に証明されるはずで、惑星観測が何の役に立つのかと言う理由の一つにもなる。太陽系の現象を理解する事が地球環境を守ることに繋がるのであれば、大義は誰の目にも明らかになると思う。つまり、科学技術の向上及び正しい利用が人間の安心安全~経済活動を守る事に繋がるはずである。

    【惑星磁気学】
    http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/stern-j/planetmg_j.htm
    2015年08月10日 15:22
  • 日比野

    almanosさん、どうもです。
    >イプシロンの量産でコストを下げれば、太刀打ちできるのでは等と思ってしまいますが無理ですかね?

    イプシロン自身、機器や部品の共通化や、自己診断による打ち上げ前点検コストの削減と、元から量産を意識したかのような作りですからね。可能性はあると思います。

    「ガルガンティア」のマスドライバーのシーンはかっこよかったですね。確か、NASAが小惑星に宇宙船を送って、採取した資源をマスドライバーで月軌道上のコロニーに打ち出すという計画だか構想があったように思いますけども、地上からやってみるのも面白いかもしれませんね。

    核廃棄物をsuiseiの内側に送るのは手かもしれません。「ブリキ野郎」にやってもらいましょうか(笑)
    2015年08月10日 15:22

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