竜巻発生のメカニズムと予測
台風がなんとかなったかと思えば、今度は竜巻。
ブログランキングに参加しています。応援クリックお願いします。
9月2日、午後2時過ぎ、埼玉県越谷市や千葉県野田市などで竜巻が発生し、大きな被害が出た。気象庁は、屋根が飛散した住家が複数あったことから、竜巻の強さを「F2」(50~70m/s[7秒平均])と発表している。
竜巻については、去年5月に筑波で竜巻が発生したとき、「竜巻と基礎」というエントリーで取り上げたことがある。当時の竜巻も大きな被害を出したけれど、その時の竜巻はF1又はF2だったから、今回の竜巻もそれと同等以上の強いものだったことになる。
現地を調査した気象庁機動調査班(JMA-MOT)によると、被害範囲の長さは約19キロメートル、幅は100~200メートルに及んでいる。去年に次いで今年もか、と息つく暇もなく、翌々日の4日、今度は栃木県で竜巻が発生した。被害が出た場所は、鹿沼市と矢板市や塩谷町の間で25キロから30キロ程。それぞれが比較的離れていることや、被害場所が繋がっていないことなどから、竜巻は3ヶ所で発生したのではないかと見られている。
4日の竜巻の強さについては、まだはっきりとした情報がないのだけれど、複数の家屋が損壊、又は屋根が飛ばされたり、ガラスが割れたりしているところをみると、こちらも「F1」か「F2」くらいはあるように思われる。
政府の調査団は、3日に埼玉県越谷市、4日には千葉県野田市の竜巻被災現場を視察。団長の亀岡偉民内閣府政務官は「制度にこだわらず、国としてできる限り迅速に対応する」と述べ、菅官房長官は記者会見で「今回の竜巻被害はかつてない大変な被害だった。…竜巻は発生頻度が低いこともあり、予測精度が極めて低い。…内閣府の防災で抜本的な見直しを行うよう指示したい」と述べ、注意情報の内容や予測精度を向上させる方針を示している。
海上や地上が温められることで発生する水蒸気を含んだ暖かい空気は、上昇気流となって、上空に上がっていくのだけれど、通常大気は、高度が上がれば上がるほど、気温と気圧が下がっていくから、温度の低下に伴って、水蒸気は凝結して小さな水滴となったり、凍って小さな氷の粒になったりする。これら水滴や氷粒が集まったものが雲。
だけど、夏の暑い日など、地表からどんどん暖かい空気が雲の下層に流れ込む状態になると、上昇気流はより高い高度にまで到達し、雲は縦長に成長してゆく。これが積乱雲。やがて、水や氷の粒は雲の上層で周囲の水蒸気を吸収して大きく重くなり、重力の影響で下層へと落ち始める。このとき、落下する水や氷の粒は、周囲の空気を引きずり下ろし、積乱雲内部に下降気流を生じさせる。
こうして、積乱雲の内部には、下層から流れ込む暖かい空気が生み出す上昇気流と、上層で冷やされた水や氷の粒の落下による下降気流が同時に存在することになるのだけれど、この時、上空に風が吹いていると、積乱雲が風によって傾いてしまい、上昇気流と下降気流がそれぞれ別の場所で発生する。これを「スーパーセル」と呼び、最早、積乱雲内の上昇気流と下降気流で互いの力を打ち消し合うことができなくなり、竜巻が発生しやすくなる。
9月2日の竜巻は、この「スーパーセル」が発生するまでの時間が非常に短く、気象庁のレーダーに発達前の積乱雲をキャッチしてから、僅か25分で、スーパーセルに発達したのだという。2日の竜巻で、最も早い被害は午後2時5分に起こったのだけれど、気象庁が竜巻注意情報を出したのは午後2時11分で被害発生6分後のことで、完全に出遅れている。
気象庁が発表する竜巻注意情報というのは、雷注意報のオマケというか補足として2008年3月から導入された。ゆえに本来は、雷注意報の中に既に竜巻の注意も含まれている。だけど、普通、雷注意報と聞いて、竜巻を連想する人はあまりいない。そうしたことから、気象庁は、雷、竜巻などを危険度の高い順にレベル3から1で示す案を今後、まとめていくようだ。
ただ、それでも、今回の竜巻のように、注意報を出したときには、既に被害が出ていました、では洒落にならない。やはり、予報というか、竜巻が起こりそうだという"予測"レベルでもいいから出して貰えるのなら、まだ、それなりに備えることもできるだろう。
実は、気象庁は、それに類する予報をウェブで公開している。「竜巻発生確度ナウキャスト」というのがそれ。
これは、気象ドップラーレーダーなどから「竜巻が今にも発生する可能性の程度」を10km格子単位で10分毎に解析し、1時間後までの予測を"発生確度"として予測・公開している。
発生確度には1と2の2種類があり、発生確度1はより広範囲かつ竜巻の発生をより広くキャッチするための指標で、予測の適中率は1~5%と低くい反面、捕捉率は60~70%と比較的高い。一方、発生確度2は、竜巻注意情報の発表に繋がる絞り込んだ予測で、適中率は5~10%と発生確度1より高くなるのだけれど、捕捉率は20~30%と低くなる。
的中率が5%、10%だと聞くと、全然当たらないじゃないか、と思ったりするかもしれないけれど、元々、竜巻なんて、そうそうお目に掛かれるものじゃない。だから、発生確度が出たら、それだけで、一定以上の警戒はしてもいいように思われる。
上の図は、去年9月19日に千葉県野田市から茨城県境町にかけて竜巻が発生したときの竜巻発生確度ナウキャストの解析結果なのだけれど、図の黄色の部分が「発生確度1」として解析された部分で、黒丸が竜巻被害が発生した場所。このときは、「発生確度1」でしか解析されず、「発生確度2」では解析されなかった。ところが竜巻注意情報は「発生確度2」にならないと出されないから、この時は、竜巻注意情報が出されることはなかった。
今回の竜巻について、竜巻発生確度ナウキャストがどう予測していたかは、もうデータが引っ張れないので分からないのだけれど、竜巻注意情報が間に合わなかったところをみると、「発生確度2」になるまで、時間がかかったものと思われる。
竜巻被害の映像をみる限り、風の強さに関しては、竜巻のほうが、台風よりも強いことは間違いない。今後、しばらくは大気が不安定な状態が続いて、竜巻が発生しやすいという。警戒が必要になる。
この記事へのコメント
白なまず
https://www.youtube.com/watch?v=00zvfUq88yk